煩悩と除夜
年の瀬、凍てつくような寒さ、身震いをしながら歩く道。
飛鳥:…やっぱさ、年の瀬って少しネガティブな気持ちになるんだよね。
〇〇:なんかわかる。1年終わるってなんか残念だよな。煩悩残りまくりだし。
飛鳥:それに明日が来るかも分からないからね、今日が最後だったらどうする?
なんて話して歩く道。白い息が飛鳥の顔を包む。
〇〇:…今日が最後か。考えらんないな。飛鳥は?
飛鳥:…____。って思うかな。
〇〇:…なんか飛鳥らしくない。
飛鳥:は!?私をなんだと思ってるんだ!飛鳥ちゃんにもそういうとこ…
○○:わかってるさ、本当はそういうとこあるの。
飛鳥:…うぅなんか恥ずかしい…//
○○:どんな飛鳥でも好きだから。
飛鳥:…私も…//
○○:幸せになろうな。
飛鳥:…いつまでもね。
そう言って手を引いて歩く…
ーー
目が覚める。時刻は朝の6時半。12月31日、年の瀬だった。
○○:…またかよ。
飛鳥がいなくなってから約1年が経っていた。
12月に入ると寝る度に飛鳥の夢を見る。
○○:…忘れられるわけないだろ。
ふとあの時の記憶を振り返る。
…飛鳥はどこに行ったのか。今年の元旦を境に彼女は俺の前から忽然と姿を消した。
○○:…あの時は確か…。
ーー
飛鳥:今日山と梅に呼ばれてるから行ってくるね
○○:ん、風邪ひかないように気をつけて。
飛鳥:…ん。
両手を広げる飛鳥
○○:…ふっ、甘えたさんなんだな。
飛鳥:…うるさいっ…//
優しく抱きしめて、飛鳥はゆっくりと離れていった。
飛鳥:いってきます。
○○:うん、いってらっしゃい。
ーー
記憶はここで途絶えていた。気づいたら飛鳥はいなくなっていた。
○○:…梅澤と山下…か。
飛鳥がいなくなった頃、よくなんかうちに来ていた気がする。ただ、最近はめっきり来なくなっていた。
○○:久しぶりに会うか。
飛鳥の手がかりを見つけるために、俺は2人に会うことにした。
??:…バカ
閉じた襖から、何か聞こえたような気がした。
ーー
駅前のカフェ、飛鳥とよく来ていた場所。
??:おーいこっち!
○○:悪い、遅れた。山下。梅。
梅澤:ん、全然平気。
山下:私たちも今来た頃だしね!
紙袋を持っている山下と梅がいた。
○○:ならよかったよ。
適当なテーブル席に座り、注文をとる。
○○:…ストロベリーティーで。
山下:…、私はコーヒーで。
梅澤:ストレートティーで。
飛鳥がいないだけでなんだかぎこちないような。2人もそんな感じがする。
山下:んで、呼びつけてどうしたの?
○○:…飛鳥について。
梅澤:…飛鳥さん。
明らかに顔色が変わっていた。しかしあくまでいつも通り…のように振る舞う。
○○:…2人は何か知らないの?
山下:…○○…。
梅澤:…なんで飛鳥さんがいなくなったかってこと?
○○:そう。突然すぎたんだ。別れるにしても…変だしさ。別れる要素はなかったんだ。
すると、山下が妙なことを言う。
『本当に思い出したいの?』
○○:…何を言ってるんだ?
梅澤:…煩悩は消えない。
○○:は?
山下:覚悟はあるかって聞いてんの。
○○:…飛鳥のこと。わかるなら。
山下:…1年だしね。よし。梅、行くよ。
梅澤:え、ほんとにいいの!?
山下:…こいつの目を見なよ。
俺が今どんな目をしているかは分からない。
でも、梅は何かを感じたらしい。
梅澤:わかった。何があっても…ね。
俺は会話の意味がわからないまま、連れ出される。
ーー
山下:…飛鳥さんがいなくなって1年経つわけだ。あんたどんな記憶で終わってんの?
○○:…一日にお前らに会いにいくって所でそこから行方不明だよ。
梅澤:…嘘。
山下:…梅、そういうこと言うな。
○○:…2人はなんか知ってるんだろ。
山下:…知らないとは言わない。でも、あんたがちゃんと知るまでは言わないよ。
○○:…なんだよそれ。
妙な違和感を感じながら歩く。
○○:…ここは。初詣に来た…。
梅澤:…乃木神社。
山下:…どう、なんか出そう?
○○:…いや。
梅澤:…そっか。
山下:どんなお願い事したの?
○○:…どんな時でも、いつまでも、飛鳥を大切に、幸せにするって…。
梅澤:愛深すぎ…?
山下:ここで惚気を食らうとは…
○○:…飛鳥はよく言ってたんだよ。
『そばにある幸せより、遠くの幸せ掴もう』
山下:…飛鳥さんらしいな。
梅澤:…次の場所行こう。
○○:…なぁ、これになんの意味があるんだよ。連れ出したのは俺だけど…。
山下:…あんたが掴みなさいよ。
梅澤:…ちゃんと、するんだよ。
○○:…本当に意味がわからない…。
その時脳裏にふと走る断片
ーー
酷い有様だった。
○○:…!…!?
飛鳥:…、………。
○○:……!!
飛鳥:…ってね…。
繋がれた手は離れてしまった。
赤黒に白…惨劇を物語っていた。
ーー
○○:…!?なんだ今の…?
山下:…!?
梅澤:…何を思い出した。言って。
○○:…飛鳥が…。何なんだよ…。
山下:…今ならまだ引き返せるよ。
○○:…。
怖い。この先は、思い出したくない。そんな気がする。
梅澤:…顔色悪いよ、無理せず…
○○:…行くよ。
思い出したくない。でも、
○○:…忘れたくない。
ーー
梅澤:…はい。
山下:…。
○○:…ここは?
山下:…交差点だね。
梅澤:…うん。
○○:…あの店は…。
飛鳥が好きと言っていたケーキ屋だった。
山下:…。
○○:…山下達は、なんで飛鳥と出かけた?
梅澤:…あんたが見てるあのケーキ屋に用事があった。飛鳥さんが一人で行くのは気まずいから着いてきてって言われて…。
○○:…あそこ飛鳥が好きだったとこ。
山下:知ってるよ。
○○:…まあ友達だもんな。
梅澤:…。
○○:…行ってみようかな。
山下:…行くなら行くよ。
梅澤:…私外で待ってるから。
○○:おう。じゃあ行こう。
なんでか分からないが無性にケーキを買いたかった。飛鳥の好きなショートケーキでも買おう…。ふと梅のほうを見ると、しゃがみこんで下を向いていた。
ーー
忘れもしない。あの日。
飛鳥:梅!山!危ないっ!!!
轟音と共に飛鳥さんに突き飛ばされた私たち。
梅澤:…あ、…あすか…さん…?
山下:…え、?…嘘だよね?ねぇ、…飛鳥さん…。
ーー
梅澤:…まだまだ私たちはダメみたいですね。
現場に花をたむけて、場から離れながらいないはずの飛鳥に話しかけてしまう…。すると…。
『もう!本当にバカよ。』
梅澤:!?…飛鳥さん!?
一瞬声が聞こえた気がした。
○○:…梅、何やってんだ?
梅澤:あ、いや……。
山下:…梅、なんで泣いているの?
梅澤:…えっ?
気付かぬうちに涙を流していた。
○○:…なんか隠してんだろ?
山下:…梅、あんたはもう…帰った方がいい。
梅澤:…そしたら○○が…。
山下:…私ひとりで大丈夫だから。安心して。
梅澤:…嫌だ。
山下:…梅…。
梅澤:大丈夫だから、行こう。
山下:…うん。
○○:おい、梅大丈夫なのか?
梅澤:あんたに心配されるほど弱くないわ。
本当は強がっている。
でも、私も…私も……。
ーー
山下:…ここが最後よ。
そう言って向かったのは、俺の家だった。
○○:…俺の家じゃん。
梅澤:ちゃんと掃除してんの?
○○:…まぁ人並みに。
そう言ってズカズカと入る2人。
梅澤:まあまあ綺麗ね。
○○:そうだろ?でなんで俺の家なんだよ。
山下:…変わんないのね。
梅澤:…ここの襖最近開けた?
○○:いや…1年くらい…
…襖…、なんで開けてなかったんだ。
○○:…なんで開けてなかったんだろう。
梅澤:…そっか。
山下:…○○、先に言っておくよ。
『本当に大丈夫なのね?』
○○:…大丈夫。
山下:…わかった。そしたら開けるから。
襖を開ける、その先に広がっていたのは…。
ーー
○○:な…なんだこれ…。
畳は引き裂かれ、所々凹んだ柱や壁、破かれた壁紙。
山下:…入るよ。
そのまま山下は中に入り…
山下:…これ。
持ってきたのは、飛鳥の写真だった。
○○:…飛鳥…?
梅澤:…。
山下:…飛鳥さんは
『交通事故で、1年前にこの世を去ってる。』
○○:…は…、…あ…?
その瞬間、記憶が全て思い起こされる。
ーー
山下:『○○!!!!すぐ!!ケーキ屋の交差点!!』
ただ事じゃない電話を受けて走る。
○○:一体何があったんだよ…!
現場に着くと、そこには。
飛鳥:……○……○…?
飛鳥が倒れていた。大量出血していた。
○○:あ…飛鳥…!!!
直ぐに抱きしめ、何か出来ることは無いかを考える。
○○:、やま、した。救急車…よべ!すぐ!!
山下:…もう呼んだ。
○○:うめ、おま、なんか…
錯乱していた。何をすればいいのか、何ができるのか分からなかった。
飛鳥:…○○…。
○○:…飛鳥、大丈夫、生きれるから。
飛鳥:…あ、のね…、ケ、…き、かったの…。
○○:…飛鳥無理するな、今はゆっくりしてて…
飛鳥:…きいてよ…。
○○:…嫌だよ、なんで最後みたいに…っ…。
涙が止まらなかった。わかってた。もう間に合わないことも。でも足掻きたかった。
飛鳥:…だ、いじょぶ…、○…○なら…生きてける…。
○○:飛鳥がいないんじゃ生きてる意味ないよ!!
飛鳥:…○…○…?
○○:…あすか…やだよ、おれ。っ。
飛鳥:…、わたし…しあわせ、だったの。
○○:…飛鳥…っ…。
飛鳥:…はなし…た、よね?
○○:……初詣のときの?
飛鳥:う…ん、……だ、から…。
○○:あぁ。わかっ…たっ…から、まだ、死ぬな。
飛鳥:…○…○。
○○:…なんだ…っ、
飛鳥:あいしてくれて、ありがとう。
○○:…やめろ…っ、やめて…、
飛鳥:…すきだよ…、
繋がれた手は離れてしまった。
ーー
○○:あぁ……あ、、…飛鳥…っ…!
山下:…。
梅澤:…○…○…。
○○:うわぁぁ……、あすか…!!あぁ…!
分かりたくなかった。
山下:…○○…。
山下が優しく俺の事を抱きしめた。
山下:…飛鳥が言ってた。
『○○は幸せにならなきゃ行けないと思う。』
山下:…それと、
『形はどうあれ、あいつが幸せなら私も幸せだしね。』
山下:って。
○○:あ、…飛鳥…。
梅澤:…うぅ…飛鳥…さん…っ…。
いつの間にか梅も、
山下:…あんたが…しゃんと…しなさいよ…っ…!
山下も泣いていた。
○○:…うぅぅ…っ…、なんで……忘れてたんだ…っ…。
山下:…解離性健忘、強いショックが起きると記憶を失う。一部だったり、全部だったり。
梅澤:…今戻ってきたから…負担がすごいと思う……。
頭が痛い、殴られるように、鈍い。
酸素も足りない。必死に吸ってるはずなのに。
○○:あぁ、…っ、あっ…。
山下:…バカ!!!しゃんとしろって!言ったろ!!!っ…!
思いっきり抱きしめてくる。
山下:○○には飛鳥さんしか居ないように飛鳥さんも○○を想ってた!!!
梅澤:…ばかぁ!!!ずっと!ずっと忘れやがって…っ!!
○○:ごめっ…ごめん…な…、飛鳥……っ!
意識が保てずそのまま視界が暗く染っていく。
ーー
??:だからおそいっていってんの!
○○:…??なんで、遅いも何も。飛鳥はそこにいるだろ。
飛鳥:…もう、ほんとうに私がいないとダメなんだから…。
○○:そうだよ。だからさ、俺もそっちに…
飛鳥:あーもー!本当にバカ!生きてて欲しいわ!
○○:…やだよ、俺。飛鳥がいない世界は辛いよ。
飛鳥:…あんたね、言ったの忘れたの?
○○:…覚えてるよ。
飛鳥:…何があっても
『私のことは忘れないで。』
○○:…あすか、まだ…。
飛鳥:大丈夫だから。
飛鳥の身体が徐々に消えていく
○○:…飛鳥!!愛してる!!これまでも!これからも!
飛鳥:…ばか、私も!!
○○:…待っててな。
飛鳥:…うん、見てるから。…っ。
そう言って優しく口付けをする。
○○:…あす…!、あ…!!
??:…!!○…○!!
ーー
ハッと目を覚ます。
意識を失っていた。
山下:あんた、大丈夫…?
梅澤:…○○?
○○:…飛鳥に会った。
山下:!?
○○:…アイツ、最後、消える時、泣いてた。
梅澤:…。
○○:でも、背中押された。
○○:死んだら許さないって。
山下:…飛鳥さん…らしい…っ。
○○:…飛鳥は…いや、何でもない。
忘れないでね、は言わなかった。
最後の独占欲のようなものなのか。
梅澤:…そっか。
○○:…なぁ。
飛鳥の写真、遺骨を丁寧に置き、大好きだったケーキを供えて。
『初詣、行こう。』
ーー
年の瀬、凍てつくような寒さ、身震いをしながら歩く道。
○○:…なんか懐かしいな。
山下:…めっちゃ触れずらいからやめて。
○○:…ごめん。
梅澤:…○○は本当に大丈夫なの?
○○:…完全に大丈夫かはわからん。
山下:無理すると飛鳥さんがブチギレるからね。
○○:ははっ、確かにな…。
梅澤:…笑った…!
山下:…あんた笑えるんだ!?
○○:俺をなんだと思ってるんだ。
なんて話しながら歩く道、時刻は23時55分、ちょうど鐘の前に着く。何人か人はいるがそこまで混んでいない。
○○:…年の瀬は1年が終わるから嫌いなんだけどな。
山下:それはわかる。
梅澤:私好きだわ、逆。
○○:…まぁ、これからはまた考えればいいか。
『…忘れないから。』
そう呟きしめ縄を持ち、大きく揺らす。
除夜の鐘が大きく鳴る。
『…忘れないでね、○○。』
この先どんな人生を歩むのか。
ただ一つ、胸に誓う。
『そばにある幸せより、遠くの幸せを掴もう。』
いつか必ず、また逢う日を、待っていて欲しい。
煩悩と除夜