この素ry(本編の一部)
※俺鎮守府において、提督と駆逐艦勢の間に戦争が勃発しました。
そのきっかけとなったのが、この事件です。
提督が悪態をたれながら敵の動きの様子を見ていると、提督室のドアがノックされた。
「どーぞー」
ドアが開いて、見慣れない女の子が入ってきた。さすがの提督も3回連続で同じ服装の人物が来ればだいたい分かる。
「ああ、貴方が新しくいらっしゃった。睦月型の方とお見受けしました」
「長月だ」
緑色の髪を腰まで伸ばした女の子は言った。
「駆逐艦と侮るなよ、役に立つはずだ」
「ながつきさんですね、ええと、ながつき、ながつき。ああ、やっぱり睦月さん一族の方ですか。着任を許可します。で、長月さん」
「何だ?」
「突然ですがそこの長月めには修正をくれてやり鎮守府魂を叩き込む必要があるようだ。妖精、根性棒よこせ」
提督は椅子から立ち上がり、長月を睨みつけた。
「な、何だと!?聞いていた話と違うぞ!?」
「黙らっしゃい。まず、鎮守府最高司令官であるところのてーとくは駆逐艦の如きを侮ったことなど一度もなく、対義語であるところの敬いを最大限に抱いてもなお信用が足りないと精神的12.7サンチをゼロ距離でブチ込まれ、ぶっちゃけたかが駆逐艦ばらが居なければこの鎮守府は足元からガラガラと崩れて組織崩壊を起こすものと考えるものである」
「……つ、つまり何が言いたい……のでございます、か?」
「物わかりの悪い小娘だ。そもそも何でそこで直立不動でおっ立つ。もっとダランとしなさい。つまりこういう事です。本来ならば地面に頭をこすりつけて、全身全霊をもって、鎮守府のボトムを支えて下さいませ、この通りでございます、と、このように振る舞いたいのですが、それをしたら逆にバカにするなと地面にこすりつけた頭を蹴り上げられそうなので、やりたくてもできません。てーとくはそれほどまでに深い尊敬と信頼と信用を駆逐艦の皆さまに寄せる者にございます。侮るな、ですって?バカを言うのもほどほどになさい。その点についての修正と訂正がまずひとつ。理解?」
「り、理解、いたしました」
「敬語がなっとらん。妖精、根性棒をよこせと言っている。誰が俺にムリヤリ敬語で話せと言った。敬語で話さなければならんのは俺の方だ。貴様ら駆逐艦の如きは俺にタメ口をきく、俺は貴様らに敬語で話す、このくらいのマナーもわきまえんのか。……だからいつまで直立不動でつっ立ってる気だ。体に教えた方が早そうだな」
提督は部屋の隅にある椅子を持ってきて、長月の後ろに置いた。
「どうぞ、おかけ下さい」
「……は?」
「椅子に座ろうとしたところで後ろに退いてガターンと倒れさせてザマーミロギャハハとかやったらてーとくは確実に皆さまのオモチャなので絶対にやりません。いいからおかけ下さい」
「あ、ああ……」
長月はおとなしく椅子に座った。
「そうそう。そして少し浅めに腰掛けて、ふんぞり返って腕と脚を組み、オウ、何か用かそこの無能、というような目でてーとくを見るのです」
「……こ、こうか?」
「そうです、そうです。そのように駆逐艦の皆さまは椅子に座ってふんぞり返り、このてーとくは立ってお話しを聞いていただく、これが鎮守府におけるてーとくと駆逐艦どもの基本的な関係をわかりやすく図式化したものです。なお、これはてーとくに対してのみ有効です。他の皆さんには普通に接して下さい。暴力についても同じです。いいですか、この鎮守府の皆さんが無意味に暴力を振るっていいのは、敵と、このてーとくに対してだけです」
「……」
「次に、役に立つはず、と長月さんはおっしゃった。妖精、さっさと根性棒を出せ。あのね、すでにもう役に立ってんの。はず、じゃないの。立って立って立ちまくってんの。昨日の戦闘で敵戦艦に、いいですか、戦艦相手ですよ?あのクソ売女にトドメを刺してブッ殺したのは、アナタ、駆逐艦の方ですよ?」
「……ば、ばいたって、おい!」
「ああもう、電さんも那珂さんも長月さんも、呼吸するようにダーティーワードを吐きまくるてーとくに少し慣れて下さいよ。ウチの駆逐艦は役に立つどころじゃありませんよ?ここに来たという事は、すでにウチの駆逐艦連中と接触しましたね?」
「あ、ああ、その……鎮守府を案内してもらった」
「でしたら長月さんもウチの駆逐艦に汚染されてしまいまいた。手遅れです。長月さんは普通にしているだけで、もうウルトラ超絶デキてデキてデキまくる駆逐艦さんの一員になってしまったのです。そこについては特に努力する必要はありません。もうそういう存在になってしまったのです。駆逐艦寮に足を踏み入れてしまいましたか?」
「……寮の中には入っていないぞ?……こ、こういう口の利き方でいいのか?」
「そうです。その自然な口のきき方です。駆逐艦寮にまだ足を踏み入れていないという事は、長月さん、ひとつ覚悟が必要です。もしあなたが駆逐艦寮に一歩でも足を踏み入れでもしたら……!」
「……ゴクリ」
「アイツ等、命を賭けて、アナタを守りますよ?」
「……な、何だここは……一体何が起きているんだ……!?」
「ウチの駆逐艦連中はこうなんだよなぁ……」
提督は自分の椅子に座って言った。
「恐いわー、恐ろしいわー。そら海軍も分断するわー。まあウチの鎮守府は海軍と違ってこういう感じなので、シメる時はシメる、ダラける時はダラける、メリハリつけて切り替えていきましょう。なんかワーカーホリックだらけだけど。軽巡連中とは会いました?」
「いや、まだだが?一足先に司令官に挨拶しようと思って来たんだが……」
「軽巡は軽巡でアクの強いのが揃ってます。しばらく訓練でヒーヒー言わせられるかも知れませんが、何やら通過儀礼みたいなものらしいので、そこは勘弁してやって下さい。なお、そのうちの一人は厳しい訓練であまりにも有名な人物です。自分は駆逐艦ではなかった、虫ケラだった、と思ってしまうかも知れませんが、翌日には復活できているはずです、覚えておいて下さい。ただし、自分は犬だ、と思ってはいけません。飽きるまで飼われてしまう可能性が高い」
「何なんだここは!」
「いやだから、そういう所なんですよココは。ところで、もう一人、今日着任する予定の人が居ると思うんですが、もう会いました?」
「ああ、一緒に鎮守府を回ってきたが……」
「どんな人?」
「そ、その前にひとつ確認をしたいのだが」
「ハイ」
「ここでは階級ナシというのは、本当か?」
「その通りでございます、今のところは」
「そこを確認した上で回答を拒否しろ、と言われた。なので拒否する」
「ほらもう染まってる!駆逐艦の連帯だ!汚染度高すぎるだろアイツ等!」
「……ああっ!?」
「そういう訳ですよ長月さん。もう諦めて認めてしまいましょう。認めてしまえば後はラクです。長月さんは……そうですねぇ、睦月型の揃っている那珂戦隊に一時的に加入してもらいましょう。誰かに言えば懇切丁寧に那珂戦隊に加入という所まで持っていってもらえる。……長月さん!」
提督は立ち上がって、腰から90度曲げて頭を下げた。
「ウチの鎮守府をよろしくお願いするス!この通りス!」
「こ……こ……これは一体……ああ、そうだ、こういう事をされた時の事を教えてもらった。あ、あたまあげ!」
「ははァっ!」
「そ、そして無言で退出する!」
「その通りでございます!」
「ま、まわれ、右……前へ、進め……」
長月はフラフラと提督室を出ていった。
「……ちょっといぢり過ぎたかしら」
提督は再び椅子に座った。
「でもイイもんねー。散々人を驚かしておいて、このくらいの事、していいと思うの、てーとくは」
しばらくして、提督のスマートフォンが着信音を鳴らした。雷からだった。
「はーい、どったの?」
「はーい、司令―。なんか長月が目ぇ白黒させて戻ってきたんだけど、どうしたの?」
「この鎮守府の何たるかを実演して見せただけですよ?」
「ああ、なるほどねー。そんな事だったの。なーんだ、ビックリさせないでよ」
「我ながらよくもまあ、あんな長回しができたモンだと、自分でも驚いておりまする」
「あはは、司令もよくやるわねー。ねぇねぇ、司令―?」
「はーい?」
「宣戦布告と見なすわ」
電話は問答無用で切れた。
「……ヤっべぇぇ!!」
提督は叫んだ。――だいたい提督が悪い。
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