『ビルのゲーツ』ヨーロッパ企画
ただビルのゲートを開けるだけなのに、なぜかくも面白いのだろうか。具体的な目標なんてものはどうだってよくて、仲間と言える人と一致団結してなんらかの目的っぽいものに向かって進むことそれ自体が幸せなんだろうと思う。
読みながら文化祭で駆けずり回っていたことを思い出した。お客さんに対してひたすらに笑顔を振りまいて、アイスを揚げ続けて。一日が終わるごとにその日の売上を数えて泥のように眠り続けた4日間。最終日の打ち上げのことだけを考えながら毎日動き続けていたけれど、今考えてみると駆けずり回っていたその瞬間の記憶がとても鮮明にある。結局酔いつぶれただけの打ち上げなんかより、焦りながら異様な興奮状態にあった日々がただただ楽しかった。それを思い出す。有川浩の小説にも似たような話があったような気がする。
謎の大企業のCEOに会うためという目的は早々に放り出され、目の前の課題をクリアすることに血眼になる社員たちは小さい頃になんの意味もないパズルやゲームに躍起になっていた自分と何も変わらない。特に後半になってただビルを登ることが目的化して、チームワークを発揮しだしたところのワクワク感は尋常じゃなかった。それだけにラストシーンで一人きりになっているのは少し物悲しい。最後の情景は何を表していたのだろうか。登りきった先には夕暮れが広がっていて、物質的な報酬は何もないというラスト。それでも彼は充実感に満ちているような気がした。そしてまた、僕自信の感情も清々しいものだった。見終わった後にはどこか寂しかったけれどそれでも爽やかであったし、ただ羨ましいと思った。