掘建小屋には大きく観音開きになる窓が付いていて、啓介がその開きっぱなしになっている窓枠に捕まってつま先立ちになれば中を覗くことができた。向こうはカウンターになっている。古い使えそうもないレジが置かれたそのカウンターには、落書きみたいな文字や絵がたくさん描かれた使い古しのノートも乱雑に数冊、やっぱり開きっぱなしで置かれていた。 芯の折れた鉛筆、茶色と白のまだらな色の消しゴム、汚れたピンク色の巻尺、緑色の何かを束ねるための針金、植物を剪定する鋏、手のひらがゴムでできている手
肩で息をした中井《なかい》啓介《けいすけ》は、こんなはずじゃなかったと手のひらで額の汗を拭った。夏休みにじぃじの家へやって来て2週間、自転車で走り回って近所はほとんど網羅した。田舎道だ。入り組んでもいないし、細い路地があっても見晴らしがいい。だから、油断した。 目の前をふっと横切って飛んだトンボが気になってしまった。オニヤンマだ、と小学校4年生が興奮するのも無理はない。昆虫が大好きで、じぃじの家に来なくたって夏は虫籠と虫取り網が必需品だった。 緑の目、黄色と黒の縞々