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谷川俊太郎さんに青春を救われて

谷川俊太郎さんが天に召された。
後世に語り継がれる数えきれない詩をのこして。

谷川さんは、大好きで敬愛する詩人。
神戸で大学生をしていた時、東京まではるばるイベントに行ったこともある。その時にファンレターを渡した。人生のつらい時、くるしい時、孤独な時、谷川さんの詩に何度も何度も救われたことを綴った。

後日自宅に谷川さんからレターパックが届いた。
信じられない思いで、すぐさま玄関で開けた。
「先日はありがとう。神戸は好きな街です。」と書かれた便箋と、絵本が1冊入っていた。

「ひとりひとり」という谷川さんの詩と、ふくだとしおさんの絵で構成された絵本だった。

ひとりひとり簡単にふたりにならない
ひとりひとりだから手がつなげる
ひとりひとりたがいに出会うとき
ひとりひとりそれぞれの自分を見つける

(一部抜粋)

この絵本を抱きしめて、6畳1間のアパートの玄関の床で私は泣いた。おいおいおいおい泣いた。

私の手紙の内容にあわせて、この本を選んでくれたんだと確信して、感激と同時に、谷川さんの深い優しさに胸がいっぱいになった。

この絵本も、谷川さんの詩集も私の宝物で、インドに留学する時も福岡に移り住む時も一緒に持って来た。

谷川さんがこの世からいなくなっても、たくさんの詩は生き続けるし、私も生き続けなきゃなんない。

これからも、谷川さんの詩は私を生かすだろう。

最後に、一番大好きな詩を載せます。

「やわらかいいのち」 谷川俊太郎

どうしたらいいの
どうしたらいいの
問いかけるあなたの言葉が
私の中にこだまする
答えのない私の中に
どうしたらいいの
どうしたら

私の中にあなたがいる
ひっそりとひとりで立ちつくしている
心はもつれあった灰色の糸のかたまり
だがその糸が私とあなたをむすんでいる
どうしたら
どうしたらいいの
問いかけることであなたは糸の端を
しっかりと握りしめている

あなたが歩くことのできるのがおどろきだ
あなたがごはんを食べているのが
歯をみがくのが私にとっておどろきだ
あなたのふたつの眼から
涙のにじみ出てとまらないのがおどろきだ
あなたは海をみつめて放心している
その顔にかくされた美しさがおどろきだ
そしてもしもあなたが死ねるとしたら…
死ねるとしても
そのことの中に私は
あなたのいのちの輝きを見るだろう
私たちの生きる証しを見るだろう 

怒りながら哀しんでいる
戸惑いながら決意している
突き放しながらしがみついている
ひとつの顔
世界中でたったひとつのあなたの顔
その顔はかくしている
誰にも読みきれない長い物語を

拒みながら待っている
謝りながら責めている
途方に暮れながら主張している
ひとつの背中
かたくなにみずからを守るあなたの背中
その背中は呟いている
自分にもつなげないきれぎれな物語を

どこへ帰ろうというのか
帰るところがあるのかあなたには
あなたはあなたの体にとらえられ
あなたはあなたの心に閉じこめられ
どこへいこうとも
あなたはあなたに帰るしかない

だがあなたの中に
あなたの知らないあなたがいる
あなたの中で海がとどろく
あなたの中で木々が芽ぶく
あなたの中で人々が笑いさざめく
あなたの中で星が爆発する
あなたこそ
あなたの宇宙
あなたのふるさと

あなたは愛される
愛されることから逃れられない
たとえあなたがすべての人を憎むとしても
たとえあなたが人生を憎むとしても
自分自身を憎むとしても
あなたは降りしきる雨に愛される
微風にゆれる野花に
えたいの知れぬ恐ろしい夢に
柱のかげのあなたの知らない誰かに愛される

何故ならあなたはひとつのいのち
どんなに否定しようと思っても
生きようともがきつづけるひとつのいのち
すべての硬く冷たいものの中で
なおにじみなおあふれなお流れやまぬ
やわらかいいのちだからだ


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さくら
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