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2023.01.16. 『堕ちて修羅、鋼刃舞うは極夜の空』を読んだ

 前から気になっていたが、kindle unlimitedにあったので読了。

 伝説的ゲームウィザードリィのノベライズ『隣り合わせの灰と青春』『風よ。龍に届いているか』で知られるベニー松山の作品。

 『新釈・剣の街の異邦人 ~黒の宮殿~』というPS Vitaから出ていたRPGのノベライズでゲームの特典だったらしい。

 内容はいわゆる異世界転移モノで、ベニー松山の書いた異世界小説の一作としても楽しむことができる。

 室町時代からの古流剣術を継ぐ一家の子として生まれ、自身もその使い手である華親是良人(以下ゼラト)。
 剣道大会を不本意な結果で終えた彼は帰路の列車の中で、居合わせた武道の名家・瑪守家の三姉弟とともに異世界の街・エスカリオに転移してしまう。
 エスカリオの地に堕ちた彼らは、類まれなる能力を持つ異邦人として、元の世界に戻るべく戦っていくことになるが――。


 ベニー松山の過去作と同じく、本作も緊迫感の溢れる戦闘描写に、魅力的なキャラクター同士の掛け合い、映像として脳内再生が可能なほど精緻で鮮やかな世界観の描写を持つ優れた小説を読むことができる。

 古流剣術の使い手でありながらも、現実世界では自分の実力を発揮する場所がなく満たされていなかったゼラトが、異世界では自分の持つ潜在能力を思う存分使い倒すことができるというカタルシスが異世界モノ的だと思った。

 さらに、元より十分に強かったゼラトが異世界の成長システムや異邦人としてのギフトのおかげで更に強くなっていくのも異世界モノ的で面白い。

 
 しかし、元はゲームの特典として付いていた小説だからか、作者の過去作と比べて分量が少なくなっている。
 そのせいで、内容も駆け足気味のダイジェストになっているため、話自体はきっちり完結しているものの、物足りなさを感じてしまう。
 たった一冊ではなく小説数冊分に膨らませることのできるほどのポテンシャルのある作品なだけに残念だった。
 どこか奇特な出版社が完全版を製作してくれないかな~と思ってしまうほどに。
 ただ、短い分だけ中身が凝縮されているという見方もできるか。

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