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ジコチューな妻、夫に浮気され捨てられる!!
「片付かないから、早くご飯食べてください!」
夫が、のんびりコーヒーを飲んでいる。
今日は、得意先に直行するらしくいつもより出勤時間が遅い。
いつもならもう洗い物も済んで、掃除機をかけてる時間だ。
こういう日は、自分のペースが乱れてイライラする。
近くのスーパーマーケットでパート勤務をしているので、出勤するまでに家事を終わらせてしまいたい。
夫がやっと食卓から離れたときには出勤する時間になってしまい食器を洗う時間がなくなった。
「食器は、洗って、ちゃんと鍵を閉めて行ってくださいね!」
舌打ちしたい気持ちを抑えて家を出た。
スーパーの仕事は家が近いという理由で決めた。
正直言って、スーパーの仕事より経理などの事務仕事の方が向いていると思う。でも、都心まで電車に乗って服装にも気を使い往復の通勤時間を考えれば、近くで働いた方が効率が良い。
スーパーでは、仕事の能力をかわれてパート長になり時給もアップした。
わたしがパート長になってから売上が伸び、店長から期待されているのだ。
数か月前に、物覚えの悪いおデブのパートがいたときは最悪だったが、幸いにもすぐに辞めてくれたのでストレスから解放されペースも戻った。
さらに、いかに効率良くスムーズに作業効率をあげられるか企画書を作成し店長に提案するつもりでいる。企画が通ればまた評価が上がる。
夕方、帰宅すると、食器は洗ってあるものの、洗いかごに乱雑に入れてあり食べかすも付いている。
もう一度全部洗いなおして、夫が散らかしていった部屋を片付けた。
どうして、きちんと出来ないんだろう!!
部屋が散らかっていても、何故平気なんだろう!!
わたしの身内や友達は、皆そろって夫のことを褒める。
たしかに人当たりが良くて優しい人だけれど、いつもイライラさせられる。
最近は、注意してもろくに返事もしない!
わたしは、節約に節約をして、早々に家も購入した。
今は、マンションだが、いずれここを売って一戸建てを買うつもりでいる。
家事に手を抜かないが私のポリシー、モデルルームのような部屋にするのが目標だ。
夫は接待で遅くなると言っていた。
最近、接待が多く家で食事することが減った。
おかげで、食費がかなり浮いている。
少しでも早くローンを返したいし、子供が出来たら今のようには働けなくなる。
今のうちに蓄えておかなければ。
夕飯は、ひとりで有り合わせのもので済ませた。
12時をまわったのでベッドに入った。
ウトウトしかけた頃、夫が帰ってきた。
面倒なので、そのまま出迎えないで寝たふりをしていた。
夫が寝室に来て、わたしが寝ているのを確認すると部屋から出て行った。
しばらく様子をうかがっていると、リビングで話し声がする。
誰かと電話で話しているみたいだ。
こんな、遅い時間に誰と話しているんだろう?
一瞬考えたが、昼間の疲れもありそのまま寝てしまった。
朝食の時間に、何の意図もなく、
「昨日、あんな遅くに誰と電話してたの?」
夫の顔いろがさっと変わり、
「電話なんかしてないよ。テレビの音じゃないか?」
って、ごまかすような素振りをみせた。
さらっと、おふくろとか、同僚とか返事が返ってくると思っていたのになぜか心に引っかかりを感じた。
電話で話していたのを私は確かに聞いたのだ。
モヤモヤする気持ちのまま、いつものように家事を済ませ仕事に行った。
仕事中は考えないように過ごしたが、帰宅して夕飯を一人で食べながら考えた。夫は今日も遅いと言っていた。
今までは夫に関心がなかったから気づかなかったけれど、昨日のことがあってから、そういえばといろいろ考えをめぐらせてみると不審な点が出てくる。
扉が開く音がした。
夫が帰ってきた。
とっさにベッドで寝たふりをした。
夫がシャワーを浴びているすきに夫のスーツと財布をチェックしてみた。
財布のなかから一枚のレシートが出てきた。
それは、わたしも一度は行ってみたいと思っていた洒落たフレンチレストランのものだった。
接待に決まっていると自分に言い聞かせベッドに戻った。
次の日は、仕事中もずっともやもやが晴れず、いつものペースが乱れてしまった。
こんなことではいけないと思いながらも、なかなか心は晴れなかった。
そんなもやもやの日が何日も続いた。
そんな矢先に、夫が、
「週末から、休日にかけて出張になった」
「休日まで、仕事なんて大変ね」
と、皮肉っぽく返したら
「先方の都合だから仕方がないんだ」
と、渋い顔を作って家をあとにした。
モヤモヤは、ついに頂点に達した。
後先考えずに夫の会社に嘘の理由をつけて、確認の電話をしてしまった。
案の定、夫は出張などではなかった。
有休休暇を取っていたのだ。
わたしはこんなに頑張っているのに!!
怒りが全身を駆け巡りどうにも抑えることができない!!
今すぐにでも飛んで行って、現場を押さえて殴ってやりたい!!
それでも、仕事に穴を空けるわけにはいかない。
今日一日を地獄の思いで過ごした。
就寝時間頃を見計らって夫の携帯に電話をした。
当然出るはずもなくイライラがおさまらない。
数分置きに何度も何度も電話をかけた。
10回目に声が返ってきた。
「もしもし、何かあったのか?」
「今、どこにいるの!! 誰といるの!!」
「ひとりだよ」
「それじゃ、今からそっちに行ってもいい?」
「仕事で来てるんだから、ダメにきまってるだろ」
「は~っ! 仕事? よくもそんな嘘がつけるわね!!
会社に確認したら、今日は休暇を取っているっていうじゃない!!」
「なんとか言いなさいよ」
「そうか、わかった。 帰ったら、今後のことを話し合おう。もう、うんざりだ!!」
それだけ言うと、電話が切れた。
何が起きたのか、しばらく解らなかった。
私が悪いわけ!?何がもううんざりよ!!
なに開き直ってるのよ!!
それはこっちのセリフよ!!
怒りがなかなか治まらない。
しかし、時間がたつにつれて次第に怖くなってきた。
夫と別れるなんて、ありえない!
離婚? ありえない!
結婚式で誓ったじゃない?
愛しているって言ったじゃない?
わたしは、その場に泣き崩れてしまい、起き上がることが出来なくなったしまった。
気が付いたら朝になっていた。
起き上がることができないくらいショックだった。
スーパーには熱が出たので休ませてほしいと電話を入れた。
何もすることが出来ないほど気力がない。
わたしってこんなに弱い人間だったのだろうか?
頑張っていたわたしは、どこに行ってしまったのだろう?
一夜にして、わたしは奈落の底に引きずり降ろされてしまったのだ。
無気力状態から抜け出せず、時間の感覚もわからないまま夫の帰りを待った。
暗くなっても、電気をつける気にもなれず、リビングのソファに座り続けた。
扉の開く音がした。
暗い部屋にひっそり茫然としているわたしを見て、
「なんだ…、 居たのか? 電気も点けずに俺に対するあてつけなのか?」
「あてつけ?何をいってるの?
わたしは、あなたの帰りをずっと待っていただけ。
これからも毎日、あなたの帰りを待つわ」
夫は、なにか、決心したような顔をした。
「ごめん…前から、ずっと言おうと思っていたんだ。
俺は、もう今の生活が耐えられないんだ。頼む!別れてくれ!!」
夫が深々と頭を下げた。
「何、勝手なこと言ってんのよ!!」
こんな力が残っていたのかと思うほどの声で叫んでいた。
「二人で、しあわせな家庭を作ろうといったのは、だれよ!!
わたしは、絶対に、絶対に別れませんからね!!」
「そういうヒステリックなところが、もう耐えられないんだ!!
お願いだ!もう俺を解放してくれ」
「解放? 解放って何よ! 今まで我慢してたってこと!!何言ってんのよ!!我慢してたのは、わたしのほうよ!!」
「だったら、なおさら一緒にいる意味がないだろう?わざわざ我慢を続ける必要があるのか?」
「我慢しながらも、それを乗り越えていくのが夫婦でしょ!!
わたしは、必死に頑張ってきたのよ!」
「そうだよ。君は、いつでも頑張っている。
しっかりものの妻だよ。家事もりっぱにこなしてる。
でも、俺は、君が望んでいる良い夫にはなれないんだよ。
俺は、ぐうたらな夫だからな。だから、君は、君にふさわしい人を見つけてくれよ」
「なによ!!それ!自分にいい人が出来たからって!わたしを誰かに押し付けるわけ!!なんて ひどい人なの!!」
わたしは、わけがわからなくなり、夫に向かっていき、泣き叫び、あばれた。
夫の力は、強い。
そんなわたしをぎゅうっと力ずくで抱きしめ、落ち着かせようとしてくれた。
わたしは、その場に崩れ落ち、力を失った。
あぁ…こんなにも夫の腕のなかは、心地が好かったんだ。
なのに…、
嫌だ!絶対に別れたくない!
夫を失いたくない!!
その恐怖心が心と身体を支配し始めた。
わたしの心にぽっかりと穴が空いてしまって、その穴があまりにも大きくてわたしは何もすることが出来なくなってしまった。
夫が、スーパーに病気のためしばらく仕事を休ませてほしいと電話をかけてくれている。
わたしってこんなに無責任な人間だったんだ。
今までは、当日ドタキャンをする人の気が知れなくて、人間のクズとさえ思っていたのに。
でも、もうそんなことどうでもいい。
夫が仕事に出かけた。
あの人は、もう他の人のものなんだ。
死にたい。
家を出て、ふらふらと歩いていたら公園が見えて来た。
砂場で母子が遊んでいる。
それを見ていたら、自然に涙が溢れてきた。
家なんか、どうでもいいから早く子供を作ればよかった。
そうしたら、夫も別れるなんて言わなかったかもしれない。
フラフラとあてもなく歩いていたら、突然小太りの女が声をかけてきた。
「パート長! お久しぶりです!その節は、ご迷惑ばかりかけてすみませんでした」
明るく澄んだ声で、幸せがにじみ出てるような女性。
こんなパートさん知らないと思っていると、
「あっ、わたしかなり痩せたので、わからないですよね?
あのデブでのろかった、すぐに辞めたパートですよ!」
そこにいたのは、以前からは、想像もできないほど変わっていたパートさんだった。
容姿だけでなく、表情もすごく明るくなっている。
「パート長どうしたんですか?なんかフラフラしてて、大丈夫ですか?
よかったら、つかまってください。お家までお送りしますよ」
「いいわよ、ほっといて!!」
手を振りほどこうとしたが、身体が、ふらっと倒れこんだ。
すぐに、彼女がささえてくれて転ばずにすんだ。
「パート長、ほっとけないないですから、家まで送りますね!」
「何も食べていないからふらついただけだから。もう、食べる必要もないからいいのよ」
「何言ってるんですか~食べる必要がないってどういうことですか?
食べることは、人生の楽しみに繋がっているんですよ
みんなで囲む食卓は、幸せの宝庫じゃないですか~」
その言葉を聞いて、もう夫と一緒に食卓を囲めないんだと思った瞬間、涙が溢れてきた。
「パート長?なにか事情があるんですね!
パート長が嫌だと言っても、連れていきたい所があります!美味しいものがあって、幸せになれるカフェがあるから今から行きましょう!!」
彼女は、すぐに誰かに電話をかけた。
ちょっと遅くなるからよろしくと電話を切って、さっとタクシーを捕まえて、有無を言わさずタクシーに私を押し込んだ。
タクシーから降りると、一軒のカフェの前。
中から扉が開き、見るからに人の良さそうなおばさんが出てきた。
「パート長!なんでも相談してみてください。絶対!元気になれますから…」
と言って、約束があるからとそそくさと帰っていった。
取り残されたわたしは、おばさんの言われるままに中に入った。
そこは、なんともいえない不思議な空間で、ささくれだったわたしの心を包みこんでくれる優しさがあった。
「あなた、何も食べてないのね?
こういうときは、やさしいものを食べるといいのよ」
食欲は、全然ない。
朝がゆ定食が運ばれてきた。
「食欲はないだろうけど、一口食べてごらんなさい」
そっと口に入れた。
ごはんの甘さがふわっと広がった。
美味しい。
二口食べる。
2日間何も食べていないので、味覚が敏感になってるせいか、ごはんの素材そのものの旨みがとても美味しく感じられる。
「美味しいでしょ… あなたは、生きてるんだから。このまま苦しみを抱えたまま死んでしまったらその先もっと苦しむことになるわよ」
「さっき、あなたを連れて来てくれた彼女も、とっても辛い思いをしてここに来たのよ~でも、あんなにキラキラしてるでしょう~あなたもしあわせにならなきゃ!みんな、幸せになるために生まれてきてるんだから」
でも、わたしは、もう幸せになんかなれない
夫のいない生活は幸せじゃない。
そう思ったらまた涙が溢れてきた。
「良かったら話してくれる?」
心に抱えてるのが辛過ぎてわたしは、夫とのことを話してみた。
「あなた、今回のことがなかったら、夫がいかに大切な存在だったか、わからなかったんじゃない?
いつも、夫に対して不満ばかり言っていたのでしょう?」
いつのまにか、何も考えられなかった自分が姿を消し、少しずつ思考する力が戻ってきていた。
「あなたは、自分に自信があり過ぎて、傲慢になっていたんじゃない?
頭も良く、要領もいい、何をやってもソツなくて、仕事もできる…。やりくりも上手。自分は、努力して頑張っている!
だから、努力さえすれば、人もみんな出来るはず。
そう思ってない?
出来ない人は、努力が足りない、なまけているんだと思っているんじゃない? それは、全部あなたの価値観!
それを、人に自分と同じようにやりなさいと押し付けている。
まあ、ようするに、ジコチューってやつよ。
ちょっと想像してみてくれる?
あなたは、今のだんなさんじゃない人と結婚してると想像してね。
そして、あなたの夫は、あなたより、もっともっと完璧主義なの。
すべての物の置く場所が決まっていて、数ミリでもずれていたら、すっごく機嫌が悪くなるの。
あなたがテレビのリモコンを1センチずらして置いてしまったの。
そうしたら、なんでおまえは、きちんとできないんだってヒステリー状態。
時間だって、正確で、食事の準備が1分でも遅れたら、おまえは、なんでできないんだ!努力が足りないんだ!って怒鳴られる!
ハンカチのアイロンだって、折り目が少しでもずれていたら、最初から洗い直しよ~生活すべてがこんなかんじなわけ
それでも、確かに努力をしたら、出来るようにはなるかもしれないけど~
でも、疲れちゃうでしょう~
程度の差だけの違いで、あなたは、今のだんなさんに同じことをしているのよ」
言葉が出ない。ほんとにそうだ。
わたしは、いつもいつも文句ばかり言ってた。
きちんとやってくれないとヒステリーになってた。
あんなに優しい夫を苦しめていたんだ。
「出来る人の方が、出来ない人より勝れているという錯覚。
出来る人のほうが偉いって勘違いをしてしまう」
「そこに気づけて、あなたは良かったのよ」
あぁ…でも、もう遅いんだ!
夫には、彼女がいる。
「彼女がいようが、いまいが関係ないわよ。あなたと夫とふたりの関係が大事なの。物や人に執着すればするほど、それはどんどん遠くなり離れていくものなのよ。
だから、もう執着しないで前にすすみなさい。
いくら、わたしの方を向いてってお願いしたって人の気持は変えられない!変えられるのは、自分だけなのよ!
その結果、夫がどうするかは夫にまかせなさい。
今あることに感謝して生きていけば、必ず幸せになれるから」
涙が止まらない。
泣きながら冷めてしまった朝がゆ定食を平らげ、この癒しの空間を後にした。
明日から職場に戻ろう!!
ー1年後ー
1年前に、ここに来た時から、わたしは変わった。
扉を開ける。
ん~この空気感…癒される~
「いらっしゃ~い!待ってたわよ~」
待っててくれてる人がいるって嬉しい!!
「あなた、顔が穏やかになったわね~
少し太ったし、もしかして、おめでた?」
そうなんです!妊娠したんです。
待望の赤ちゃん!
「あの後、おばさんに言われた通り、もう夫に執着しないで自分に出来ることを精一杯したんです。
夫には今までのことを謝り、自分の気持ちを素直に伝えてありがとうって言いました。
夫は、一旦は家を出て行ったんです。
でも、彼女とのくらしは、長く続かなかったんです。
彼女は、おとなしい人で一緒にいて安らぐらしいんですが、のんびり屋さんで、掃除とかあまり好きではないらしくて、いつも部屋が散らかっていたらしいんです。
夫はわたしと生活して、きれいに整頓されている生活に慣れていたから、それも耐えられなかったみたいなんです。
他人からみたら、なんて身勝手な人なんて言われちゃうんですが、
それは、人の意見だから。
わたしは、両手を広げて彼を受け入れました。
だって、わたしは夫が大好きってことが、身にしみてわかったんだもの。
今は、ほんとうに幸せです」
おばさんは、うん、うんって一生懸命聞いてくれてる。
「あかちゃんが生まれたら、だんなさまと一緒に、赤ちゃんを見せにきてね」
「もちろんです!!
できれば、名づけ親になってください!」
「そ、それは~責任重大だからやめとくわ」
弱気のおばさんの顔におもわず、笑ってしまった。
おわり