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不妊治療が辛い。でも、もっと辛いのは……。
「なあ…もう、やめないか?」
「やめるって、何を?」
「こども」
夫が突然に切り出した。
私には、想像もしていない言葉だったので耳を疑った。
「今、なんて言ったの?」
「もうこどもがいなくても、いいんじゃないか?
どうしてもこどもを育てたいなら養子をもらってもいいし……」
「何を言ってるの!! 二人のこどもがほしいから、今まで頑張ってきたんじゃない!! どれだけのお金をつぎ込んできたと思ってるの?」
「そうだよ。だから、これだけやったんだから後悔もしないだろう?」
「これだけやったんだから、今あきらめてどうするのよ!」
「僕らの人生が子供を作ることだけになってしまっている気がするんだ。楽しければ、それもいいけどおまえを見てるとそうとは思えない。
苦しんでいるようにしか見えないんだ」
「こどもを諦めたらもっと辛い。苦しくても今の私にはそれしかないの」
それだけ言うと、こらえ切れなくなって寝室に駆け込んだ。
ベッドに顔を押し付けて思いっきり泣いた。
なぜ、私にはこどもができないの!!
ほしいと思えば簡単にできると思っていた。
年齢的に不可能といわれるまでは頑張りたい。
それまでは、どんなことをしても諦めない!!
次の日、電話で親友のユー子に一部始終を話してみた。
「ん~、でもさ~ご主人がそう言うのもわかる気はするよ」
私は一瞬、ユー子に裏切られたような気持ちになった。
「独身のユー子には、私の気持ちなんかわからないのよ」
半分、涙声になっていた。
「あっ、ごめん。誤解してもらったら困るんだけど……。
確かに、今のあなたを見ているとすごく苦しんで見えるもの。
もっと楽しく生きた方がそりゃいいでしょ?ご主人の思いやりよ」
「私にだってそれくらい判っている。判っているけどどうしようもないの。絶対にこどもがほしいの!!」
「あのさ!ちょっと付き合ってほしいところがあるんだけど……」
外出する気にはなれなかったけれど、気分転換になるからとユー子に付き合うことにした。
待ち合わせの場所に行くと、元気いっぱいののユー子が既に待っていてくれた。
「どこに行くの?」
「いいから、いいからついて来て」
一軒のカフェの前。
ユー子の後に続いて中に入る。
そこはなんとも言えない癒しの空間。
トゲトゲしていた私の心が一瞬でやわらいだ。
「なんか、落ちつくわね」
そこに、まんまる顔のおばさんがニコニコしながらやってきた。
「ご注文は、何にしますか?」
「コーヒーをお願いします」
おばさんは、私の方を向いて、
「あなたは、梅醤番茶ね!」
ユー子には、注文を聞いたのに、私には、有無を言わさず訳のわからない飲み物をオーダーされてしまった。
おばさんがいなくなった時に、
「ちょっとユー子、あの人何? 勝手に私の飲み物決めちゃったわよ?」
「いいの、いいの。あなたのこと判ってるのよ。そのうえで言ってくれてるんだから」
「どういうこと?」
「いいから、いいから。おばさんに任せて」
ユー子は楽しそうに、子供のようにはしゃいでいる。
おばさんがこちらに向かって来た。
そうして、笑顔で私の前に座った。
「梅醤番茶はいかが? 美味しいと感じる?」
一口飲んでみる。梅の味……。
「美味しいです」
「よかった。身体が温まるでしょ?」
美味しいとは言ったが、カフェラテとかミルクティーを飲みたいというのがほんとうの気持ちだ。
「あなた、赤ちゃんがほしいんでしょ?」
どうして、知ってるの?
もうユー子が勝手に言ったのね!! 私はユー子の方を見て睨んだ。
ユー子が首を横に振って違うって素振りをみせる。
「ごめんね。もうわかっちゃってるから。赤ちゃんほしいんでしょ?」
「ぁ……は、はい、ほしいのですがなかなか出来なくて……、ストレスが良くないのがわかっているので仕事も辞めたし、食事にも気を使っているし、検査の結果で精子も問題ないし、もちろん私にも問題はないんです。でも、なかなか授からなくて。
それなのに、主人がもう子供はあきらめようって言うんです」
話しているうちに、また涙がこみあげてきた。
「あのね、あなたの赤ちゃん、産まれてきたいって待っているのに、あなたの準備がなかなか出来ないから待ちくたびれてるわよ」
「えっ、どういうことですか?」
このおばさん、何を言っているのかさっぱりわからない。
ひとの話しをちゃんと聞いているのかしら?
「赤ちゃんがほしいって言ってるけど、今のあなたの身体では、赤ちゃんが育たないのよ。
もし、妊娠しても妊娠期間中も出産後も大変よ。
食事に気を使っていると言っていたけれど、どんな食生活をしているの?」
わたしは、ちょっと、むっとした。
食生活で、とやかく言われたくない!
野菜中心の食生活。もちろん手作りだし、添加物が怖いので加工食品や調理済み食品も買わない。そこは徹底している。
「野菜中心のバランスの良い食事を心がけています。
塩分も控えているし、お水もたくさん取るようにしています」
「甘い物は?」
「甘いものは大好きなので、ケーキを食べたときはご飯を減らしているので、体重はずっとキープできてます。
でも、ケーキよりは和菓子、和菓子よりは果物を食べるように心がけています」
「野菜は、どんな野菜を食べているの?」
「酵素が取れるというので、サラダは絶対に食べます。
野菜を最初に食べたほうが太らないので結構、頑張って食べてます」
「それ、冬でも?」
「はい、トマトにはリコピンが入っているし、なるべく緑葉食野菜を取るようにしています」
「ドレッシングは?」
「市販のものは、やめて手作りのものを使っています。
油と塩は控えてお酢を頑張って取ってます」
わたしは、おばさんに自信をもって答えた。
普段、不摂生をしているユー子はうんうんと感心して聞いている。
「なるほどね。だから、あなたは妊娠できない。なぜだかわかる?」
「わかりません!!」
おもいっきりふてくされて答えた。
「あなたの身体は、冷え冷えだわ」
「冷え対策はきちんとしています。腹巻きもしているし、靴下もはいてる。しょうがもたくさん取っています」
「外から、温めてもダメよ。ちゃんと、中から温めなくちゃ。
ショウガは、身体を温めるって言われているけれど、生のショウガにはそういう作用はないのよ。胃腸には良いけどね。
あなたの食生活は、赤ら顔の筋肉モリモリの肉体労働している男の人なら、健康になれるかもしれないけれど、あなたのように色白で線が細くてぷよぷよしている陰性体質の人がこんな食生活を続けていたら、妊娠どころか病気になりかねないわ」
「私は、健康にいいって言われていることをしているだけです」
「万人に、同じ健康法は難しいわ」
今まで信じてきたことを否定されて、なんでこんなところに来たのか後悔し始めていた。
「妊娠したければ、冷えは大敵。生野菜は身体をすごく冷やすのよ。
夏の暑いときに食べるのは理にかなっているけれど、冬にトマトなんてありえないわ。
トマトは、なすといっしょで極端に陰性食品なのよ
昔から、なすは嫁に食わすなって言われてるでしょ?
それは冷えるからよ。
陰性体質の人が冬に極陰のトマトを生で食べるなんて!!
妊娠したい人が食べるものではないのよ。あなた、冬が相当つらいはずよ。
夏の冷房はもっとつらいんじゃない?」
「仕方ないんです。これは体質なんですから。そんなこと言われても、どうしろというんですか」
「食生活を変えれば体質も改善できるのよ。まず、冬にサラダは食べない。
身体を温める根菜類を食べてね。
白砂糖も身体を冷やすから取らないで。
果物も身体を冷やすから気をつけてね。
特に南方系のものは食べない方がいいわ。
どうしても食べたいときは、近くの土地で育った旬の果物を少量ね。
ご飯をしっかり食べて、そこで糖分を補給すれば、いいのよ。
ご飯をしっかり食べていたら、甘い物はほしくなくなるから。
雑穀とか胚芽が入っているとなおいいわ。
そして、あなたは陰性体質なのに陰性のものばかり食べて、なおかつそれで減塩してるなんて、身体の免疫力がどんどん落ちてしまうわよ。
あなた、血圧だって低いはずよ。
あなたみたいな体質の人は、減塩したらダメよ。
その上、お水をガブガブ飲んだらますます身体が冷えてしまう。
だから、この梅醤番茶はあなたにぴったりの飲み物よ。
梅とショウガとお醤油と番茶…。
シンプルだけどとても温まるし、なにより活力が出る。
ドレッシングもお酢たっぷりは冷えの元よ。
じつは、酢も身体を冷やすものなの。
使うときは、少量火を入れて使ってね。
要するに、あなたはわざわざ身体を冷やす食生活をしてきたわけよ。
これでは、赤ちゃんをお腹に迎えられないわ。
たとえ妊娠しても、無事にお産できるかどうか心配だわ。
世の中にはあなたと同じ食生活をして、妊娠している人も確かに大勢いるわよ。
でも、その人は陽性体質であるとか、あと体温が高いとか、運動していて、体力があるとか。
でも、あなたは違う。
だから、今のままの食生活を続けていても赤ちゃんは授かれない」
心の中で、反発したい気持と納得する気持ちが揺れ動いている。
「あなたの赤ちゃんは、早く気付いてって言ってるわ。あなたと会うのを楽しみにしているのよ」
私のあかちゃんが……、私と会うのを楽しみに待ってる。
反発する気持ちはすっかりなくなくなった。
ユー子が優しく私の肩を抱いてくれた。
私は、絶対赤ちゃんがほしい。
このまま、子供ができなければ夫との仲だってあやうくなりそうだ。
私は、このおばさんを信じてみようと思う。
「大丈夫よ!あなたなら出来るわ!
お料理をするのが、好きなあなたなら簡単で楽しくできるはず。
そして、赤ちゃんを迎え入れるために、ゆったりとやすらかな気持ちで毎日を過ごしてね。
そんなあなたを見て、ご主人も幸せを感じるはずよ。
ご主人の愛情をたっぷりもらって、身も心も健やかで過ごせば、赤ちゃんが喜んであなたのお腹に宿るわ」
私は、あんなに冷たい涙を流していたのに、今の涙はこんなにあたたかい。
おばさんに再会を約束して、カフェを後にした。
今までの食生活を見直し、新しい体質改善献立に向けての生活を再スタート!
おばさんが言っていたとおりの食事をすると、たしかに身体が楽だ。
私の場合、減塩していたので体力がなく、免疫力も落ちていたのですぐ風邪をひいたりしていた。
梅醤番茶を飲みだして、効果がかなり出てきた。
たしかに、動けるようになった。
なるべく、陽性の野菜を多くとるようにして味噌汁やご飯を食べるようにした。
玄米のほうがもっと良いのかもしれないが、美味しさを優先して雑穀と胚芽米を食べている。
雑穀がこんなに美味しいとは、思わなかった。
むかしからの日本の食事をしていけばいいんだ。
日本人ってすごいな。
食生活を変えてからは、いつしか私の心も平和でやさしい気持ちになってきたのが不思議だ。
食べ物の身体に与える影響ってすごい。
妊娠することだけにエネルギーをそそいでいた頃の私に比べると嘘のように穏やかな暮らしに変わっていった。
一番喜んでいるのは夫だ。
私が、子供を諦めて前向きに暮らし初めていると思っているのかもしれない。
なんだか、このまま自然にまかせていけばいいのかもしれないって思えるようになってきた。
だって、今の暮らしのほうが、ほんとうに幸せだから。
でも、私は信じている。
身体の準備が出来たら、私たちの赤ちゃんにもうすぐ会えるって。
数ヵ月後、
排卵日から2週間過ぎても体温が下がらない。
半信半疑のまま、妊娠検査薬でチェックしてみた。
赤い線が…、ある!!
信じられない思いで、茫然としてしまった。
嬉しさと不安な思いが混ぜこぜになっている。
この小さな赤ちゃんを絶対に守らなくてはいけないのだ。
夫が帰宅すると、真っ赤な目の私を見て、
「どうしたの?泣いてるのか?」
「うん、うれし泣き!!できたの~赤ちゃん!!」
「ほんとか!!ヨッシャー!!」
夫が有給を取って一緒に病院に行った。
ひととおりの検査が終わった。
医者の前の椅子に座った。
私は、先生の言葉を目をつぶって待った。
「おめでとうございます。妊娠7週目に入っています」
私は、こらえきれず、その場で号泣してしまった。
しっかり、この子を育てなくては。
妊娠中の食生活はとても大事だ。
改めて心に誓った。
安定期に入ってから、再びおばさんのカフェに行った。
扉を開けると、ニコニコしながらおばさんが出迎えてくれた。
「おめでとう!!あなたの赤ちゃん、すごく喜んでるわ。
ママもパパも大好きだって!!」
「ほんとうに、ありがとうございました。産まれたら絶対に顔を見せにきます」
「出産は体力勝負よ。しっかり身体をつくってね」
「はい!!」
おわり