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2022年1月の記事一覧
紫陽花の季節、君はいない 66
「藩の歴史に興味があるの?」
女性が聞いてきた。まさか「精霊が恋人」という共通点のことを話すわけにはいかない。
俺はもっと根本の部分を話すことにした。
「俺がこの地域に来た時に、街の中を知りたくて神社巡りをしていたんです。
そうしているうちに、同じ人物の名前が由緒書きに出てくることに気づいたんです。
それがこの藩主だったんです。
それが面白いなと思って、興味を持ったんです。」
そして神社を巡って
紫陽花の季節、君はいない 65
こないだの面接の日。
俺は面接まで時間があったので、敷地内をブラブラ散策していた。
温室、広場、バラ園、池。
小さいけれど、レストランもある。
夏だから暑いけれど、居心地が良さそうな職場である。
そろそろ面接に向かおうとした時、俺は見覚えのある名前を見つけた。
「え?何で江戸初期の藩主の名前がこんなところに?」
俺が驚いていると、背後から声を掛けられた。
「こんにちは。ここのコーナーは藩主が民
紫陽花の季節、君はいない 64
俺は静かになった部屋で、コーヒーを飲み一息ついた。
「柊司はしっかりしているようで、変なところで頑固なんだよな…。」
今は柊司の職場と俺の通学先が同じバスである。
しかし、俺の就職先のバスは反対方向なのだ。
柊司の真似をして、子どもまで傘を差さない子になったら困る。
「──それにしても、俺は『江戸初期の藩主』に本当に縁があるな。」
思わずフッと笑ってしまった。
江戸初期の藩主は、八幡宮ではない
紫陽花の季節、君はいない 63
8月半ば夕刻、ゲリラ豪雨が降った。
柊司は仕事帰り、スマホを雨で水没させてしまった。
柊司は雨の日でも傘を差さない主義である。
スマホを壊したことをあおいさんに言うのが気まずいのか、びしょ濡れのまま柊司は俺の部屋にやって来た。
「だ~か~ら~、何でお前は傘を差さないんだよ!!」
俺はシャワーを貸した後、柊司を質した。
「傘って手が塞がって嫌なんだよ。第一俺にはお前という傘がいるから普段は濡れな
紫陽花の季節、君はいない 62
俺はこないだ実家に就職先が決まったことを連絡した。
家の固定電話にかけたので、まず家政婦さんが電話を受けた。(義母が電話に出る心配がないので、とてもありがたい。)
父に替わると、「…そうか、良かったな。」とボソッと言った。
そして大学院卒業までは仕送りを続けると事務的な話をして、父は電話を切った。
電話が終わってから、俺はどっと疲れた。
俺に無関心な父は、けっして向こうから連絡をしてこない。
紫陽花の季節、君はいない 61
「柊司、子煩悩になりそうだよな。」
俺がニヤニヤしていると、
「子煩悩上等だろ!!」
と柊司は鼻息を荒くした。
「妹の世話してたから大丈夫だと思ってたけど、自分の子どもだと思うと緊張するもんだな。」
「そういうものなのか?」
「…ああ。」
柊司がこんな風に緊張しているのは、あおいさんに告白した時以来ではないだろうか。
「夏越、あおいには言うなよ?
流石に緊張してるの知られるのは恥ずかしい…。」
紫陽花の季節、君はいない 60
8月初旬、面接先から採用の連絡が来た。
俺は真っ先にあおいさんに報告した。
「夏越くん、おめでとう。」
あおいさんはとても喜んでくれた。
「柊司とあおいさんが誕生日にくれたネクタイが、面接中に心の支えになったんだ。
ありがとう。」
俺は心の底から感謝を伝えた。
あおいさんは照れながら、
「夏越クンの努力もあったからよ。」
と言った。
「今度は私も頑張るわね。」
あおいさんは、はち切れんばかりの大き