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2021年5月の記事一覧
紫陽花の季節、君はいない 5
柊司が用意した朝食は、栄養と消化に配慮して野菜をペースト状にしたお粥だった。
まだ温かいそれを食べたら、身体が温まってきた。自分がとても冷えていたことを自覚した。
この日もオンライン授業があったのだが、柊司が俺の部屋の鍵を持っていってしまったので、欠席することになってしまった。
食べ終わった食器を洗ったら、することが無くなってしまったので、俺はソファーで寝ることにした。
(同じアパートなのに
紫陽花の季節、君はいない 4
しばらくして、柊司が病室に入ってきた。
「夏越~!お前何回空腹で倒れるんだよ~!」
と、男泣きされた。
ちなみに空腹で倒れたのは、2回目である。
俺は一晩点滴を打って、翌朝退院した。
タクシーを降りて、アパートの自分の部屋の前に辿り着くと、柊司が仁王立ちしていた。
(柊司はガタイが良いので、本当に仁王かと思った。)
「また倒れられたら嫌だから、しばらくウチに泊まれ!」
と、俺の部屋の鍵を引った
紫陽花の季節 、君はいない 3
俺は1年近く前、「彼女」を失って憔悴しきっていた。
「彼女」と俺の関係は他人には言えなかった。
「彼女」は人間ではなかったからだ。
アパートの隣人である柊司は、大学時代から料理音痴な俺に夕飯を作ってくれていたのだが、夕飯すら食べなくなった俺をとても心配していた。
でも、当時の俺は周りが見えてなかった。
ろくに食事を摂らない日が続き、とうとう俺はアパートの自分の部屋で倒れてしまった。
仕事から
紫陽花の季節、君はいない 2
あおいさんは、俺の友人・柊司の奥さんである。
以前は白い服が定番でボブカットだったけど、今は髪をヘアゴムでひとつに纏めている。
「あおいさん、髪伸びたね。」
「今はこの子がいるから、長時間のお出掛けは控えているの。ここまで髪を伸ばしたのは久しぶりだわ。」
あおいさんは、優しくお腹を撫でた。
この子が生まれる頃には、安心して出掛けられる兆しが見えるといい。
「きっとこの子は、夏越くんのこと大好き
紫陽花の季節、君はいない 1
「紫陽花の季節」の主人公、夏越の物語です。
時系列はひなたが生まれる前です。
2021年5月半ば。どんよりとした曇り空。
今年の梅雨は、6月を待たずに到来しそうである。
「夏越くん、そんなに空を見上げていたら首が痛くなるわよ。」
柊司の部屋のベランダから空を眺めていた俺に、あおいさんが話し掛けてきた。
あおいさんは、お腹の子がかなり大きくなってきている為、産休に入っている。
昨年よりも大学院