耳屋15 入居してはいけないと思った物件の話
ちょうど3年前の今頃、ワタシは引っ越すために物件を見まくっていた。
不動産屋の担当の人に「今月は皆勤賞ですね」と言われるほど、毎週末毎に3〜4件ずつ見せて貰っていた。
エリア、間取り、家賃、駅からの距離を決めて絞って見てても、なかなか決まらないって、物件選びって難しいよね。
そんな頻度で不動産屋に行っていたせいで、不動産屋の担当者ともそこそこ仲良くなって、通常なら見せて貰えない、転居したての物件を見せて貰う機会があったの。
もし、そこを気に入ったら、清掃やメンテナンスを速攻で手配して、競合など気にせず契約出来る様にって。
その家は、いわゆるメゾネットタイプ。
一番手前の部屋の側面が通りに面していて、今回の物件は、通りから離れた一番奥の部屋だった。
ドアを開けると、すごいケモノ臭。
転居したてとは言え、とても荒れ果てた印象。
不動産屋は、たまらず即座に窓を大きく開けた。
「これは、ペット可にしたがらない大家さんの気持ちがわかりますね」
不動産屋が、思わずそうつぶやく程だった。
「これから清掃も入るので、靴のまま入って良いですよ」
そう言われなくても、そうしたくなるほど床が泥の様なもので汚れていた。
部屋の壁の下側は、ペットがどこもかしこも掻きむしった跡だらけ。
エアコンは付いているけど、こんなにケモノ臭がする中で使っていたのなら、臭いが気になるだろうなぁ…。
よく見ると、空気清浄機も付いてる。
付いてて、これか…。
「すみません。いくら清掃前でも、これほど汚れている物件は、私でも初めて見ました」
ワタシは父が転勤族だった事もあり、今まで10回以上引越したけど、荷物を出した後、部屋がこんな感じな事は無かったわ。
2階には畳の部屋が2部屋。
1階より陽が入って明るかったが、なんだか落ち着かず、チラっと見てすぐ退散した。
階段を降りる時、正面の玄関のドアの上にお札が貼ってあるのが見えた。
玄関から入った時は、死角だった。
「お札、ありますね…」
不動産屋もさすがに気になったみたい。
この部屋もクリーニングが入ると、入居希望者があるのだろうか??
この状況を知ってしまうと、クリーニングされてもメンテナンスされても、正直、ワタシは入居する気になんて到底なれないな…。
ドアを開けて外に出ると、隣の敷地との境の草むらの中に、小さなお稲荷さんが見えた。
ドアからの距離、3メートル位?
結構、近い。
ふと、この部屋は、このお稲荷さんの敷地の中なのではないかと思った。
ペットとして飼われていた動物も、きっと居心地が悪かっただろうな…。
通り沿いの一番手前の部屋の前に戻った時、
「この手前の部屋なんかは、長く住んでるんですよ。もう10年以上かな。さっきの奥の部屋は、結構短いスパンで入居者が変わっちゃうんですよね」
うん、なんかわかるわー。
余談だけど、後からあの部屋を思い出すと、昔の映像の様にチラついた画像で浮かぶの。
おわり
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