耳屋④「交渉の末に…?」
ねえ「定期借家契約」って、聞いたことある?
「ええ、まあ、聞いたことくらいは…」耳屋は答えた。
私も言葉は聞いた事があったくらいね。
駅近くのチェーンの喫茶店で、耳屋は黒糖カフェオレなるものを注文し、私はブレンドを注文した。
分煙とは謳っているものの、煙草の臭いが気になるお店だった。
私はブレンドを一口飲んで、話を始めた。
実は、今借りてるアパートが4年後に建て替える事になったんだって。
不動産屋に契約更新の時期でもあるから、一回話す機会が欲しいって言われたの。
「(不動産屋に)行けばいいんですか?」って聞くと、
「書類とかいろいろあるので、こちらから伺うのはちょっと…」って。
不動産屋は少し気にかかる口調で答えた。
別に来て欲しいなんて思ってなくて、確認のため聞いただけだったのに。
数日後、約束の日時に不動産屋に行ったの。
元SMAPの森くん似のサラサラヘア、20代後半位のイケメン風が出てきて…。
最近、あまり見ない野心溢れてるタイプ?
なんか「圧」がすごい訳。
最初から、私がゴネるのを前提とした口調なの。
意地でも立ち退かなかった人のエピソードなんか聞かされてさ…。
要は、家賃を5千円下げるから、それを立ち退き費用として欲しいって話だった。
私は、住み始めてまだ2年だし、子供の学校の卒業が4年後だから、そこまで住みたいって言ったの。
いつまでも住み続けたいと思っていた訳でもなかったし、4年後の建替えの話は、私にとっても切りが良く、前向きに考えれば、渡に船な部分もあると感じたし。
不動産屋は、
「こう言う交渉事が出来る人物が営業所でも私位しかいなくて。私が、毎月5千円引きで、4年後の3月末までで、大家さんに交渉してみますので!!」って、大家さんに嬉々として電話かけた。
大家さんとの会話の内容は聞こえなかったけど、電話で話してる間に不動産屋が段々と静かになってね…。
出来た契約書を見たら、家賃が1万円引きになってた。
私は、こう言うところで得しようなんて思ってなかったし、大家さんもゴネる気のない人に交渉しようとは思ってなかったみたい。
不動産屋は、自分の交渉力で、5千円引きで済んで、費用が抑えられたでしょう?!って、大家さんに思われたかったのかな…。
そこに感謝する大家さんもいっぱいいるとは思うけど。ウチの大家さんは、そうではなかった。
あの年齢で店長代理って、上には認められてそうよね。
どっちにしろ、4年後には別の所に住むの。
終わりが決められるのって、ちょっとだけ心がザワっとするね。
おわり
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