明日
「もしもし?」
「もしもし。俺、靖だけど」
「どうしたの? 急に」
「どうって……。おめでとうって言おうと思ってさ」
「……覚えてたんだ、私の誕生日」
「まぁね」
「それで?」
「それでって?」
「そう、用が無いなら、切るわよ」
「そこに誰か、居るのか」
「どうして?」
「だって、じゃあ、何でそんなに慌ててるんだよ。久しぶりなんだから、もう少し、」
「私は話すことなんか、無いわ。悪いけど」
「あ、ちょっと待てよ、おい、裕美」
「あ、もしもし? ごめん、おまたせ」
「誰? キャッチって」
「あ、元のカレシっていうか」
「ふぅん、なんで」
「誕生日おめでとうって」
「へー、いいじゃん、いい奴」
「えー、うざいよ」
「でもさ、別れてから半年でしょ? なんか電話したくなる時期?っていうか」
「うざいって。だって切ろうとしたら、そこに誰か居るのか?だよ。超うざいよー」
「え、ナニソレ。さいってー」
「でしょでしょ」
「うん、気をつけなね、ストーカーとか、ほら怖いしさ」
「やだ、美沙ってば。なんかオバサンくさいよ」
「あ、やっぱり? 昼間さぁ、テレビの特集とか見ちゃったからさ」
「なるほどね。ね、明日は学校来るっしょ?」
「うん、もう大丈夫。今日おとなしくしてたし。じゃあね、また明日」
「あ、じゃあね」
「あ、ごめんねー。超おまたせ。もしもし、聡?」
「……ん? あ?」
「やぁだ、聡ってば、寝てたのー?」
「あ、ああ、そうだった」
「え? 何が?」
「い、いや、なんでもないよ」
「ふぅん? ねぇ、それよりさ、聞いてよ、裕美ったらさぁ」
「うん」
「元彼が電話してきたんだって。で、さぁ」
「うん」
「……ね、なんで、小声で話してんの? あたし達」
「なんでだろうね」
「もしかして、マズイ?」
「そんなことないよ。それより、裕美ちゃんがどした?」
「あ、そうそう、それでね、」
「ふぁーあ」
「あ、欠伸した」
「ん?」
「眠いんだ? ごめんね。もう、切るよ」
「え、あ、こっちこそ、ごめんな」
「うん、じゃあね、明日お店行くからね」
「ああ、またな」
「さ・と・し。裕美ちゃんてだぁれ?」
「あ、ああ、友だちの友だち」
「ふぅん、みんなお友だちなのね」
「……どっか出掛けんの? 小夜子さん」
「う、うん。まぁね」
「ふぅん」
「それより、もうひと眠りしたら? 明日は早いんでしょう?」
「……うん」
「帰るんだったら、鍵かけてね」
「んー、たぶん朝までいるけど」
「そう。食事して、すぐ戻るつもりだけど、適当に作って食べていいから」
「うん。でも、寝てると思うから、起こしてくれる? 課題があったんだ」
「別に、無理に待ってなくてもいいのよ」
「小夜子さんの部屋って、居心地がいいんだ」
「そう……。じゃ、行って来るね」
「ごめんなさい、遅くなっちゃって。川端です。岩田……篤さんですよね」
「どうも。お久しぶりです。突然お呼び立てしまして」
「いえ、私の方の都合に合わせていただいて、すみません。それにお会いしたいと思ってたんです。……西野さんがよく、岩田さんのことを話してました」
「……そうですか。彼が」
「あ、あの、何か頼みませんか」
「そうですね。ここのつまみはいけるんですよ。あ、すいませーん、こっち」
「じゃあ、まず、ビールいただきましょうか」
「ええ。……それにしても、明日でもう三回忌ですか。」
「……ええ」
「あいつは、小夜子、小夜子と言って、毎日のようにあなたのことを話してました」
「……そうでしたか。」
「不躾なことを申しますが、あなたは……ご自分を取り戻されたようだ。」
「え……、ええ、おかげさまで」
「……あ、すみません、今何時ですか?」
「六時半になったところです」
「ちょっと失礼」
「もしもし、裕美か?」
「あ、お父さん」
「母さんは?」
「まだ帰ってない。今日は生け花の日でしょ」
「そうか。じゃあ、夕飯食べてから帰るから、言っといてくれ」
「会社の人?」
「いや、ちょっとな……」
「ふぅん、浮気なんだ」
「ばか、なに言ってんだ」
「あはは」
「誕生日なのに、ごめんな。明日は早く帰るから」
「もしもし、靖?」
「あれ? もしかして、裕美か?」
「そう、私。さっきはありがとう」
「ああ、いいよ、べつに」
「それだけ。じゃあね」
「……わざわざそれだけかよ」
「そうよ」
「ふぅん、そうなのか」
「なによ」
「いや、また明日な」