見出し画像

宝石の国を一気読みした感想&自分用にまとめてみた

※ヘッダーは市川春子の宝石の国から。
⚠️ネタバレあり

宝石の国が12年の連載を経て完結した

宝石の国を一気読みしました。
読み始めたのは1巻発売くらいからだから、長年このストーリーを追っていたことになります。そしてついに最終巻の13巻が発売。

可愛い宝石たちの話かと思いきや、どんどん複雑になるストーリーに世界観、消えてゆく宝石たち、欠損を補修することで変わってゆくフォス…。

途中で挫折しかけて暫くブランクも空いたのですが、どうにか最後まで読み切ることができました。

宗教には詳しくないので、宗教的視点は置いておいて、思うことを簡潔にまとめようと思います。



ストーリーまとめ(ざっくり)

簡潔にいうと、宝石の国は人間の滅んだ後の遠い未来の話。

私たちが住んでいる地球が6つ度の流星飛来によって壊れ、人間が滅びた後の世界。

その地上には宝石たちが、
海にはアドミラビリス族が、
天上には天人たちがそれぞれ住んでいた。

宝石=骨
アドミラビリス=肉
天人=魂

で、元は人間だった。

宝石は長寿で永く地上に残ることができ(骨)、アドミラビリスはカタツムリやナメクジのような姿で寿命が短く命を繋いでいる(肉)、天人は天上(月)で不死の存在になっている(魂)。

天人は不死の自分の存在に退屈、絶望していて、無に還りたがっている。
魂がそのまま往生できない状態ということなのかな?

とりあえずこの時点で、人間の輪廻転生みたいなものなのだろうなーと理解。

往生する(無に還る)ためには、人間の祈りが必要だった。金剛先生は人間に作られた機械で、唯一祈りの力で天人を無に還すことができる。

だけど金剛先生は壊れていて、祈りの力が使えない。そのためフォスを人間にし、その力を肩代わりさせた。

フォスが人間になったのは、アドミラビリスの脚(肉)、天人の目(魂)を身体に移植して、最後に先生の目(祈りの力)を自身に埋め込んだことによって、

人間=魂、肉、骨が揃った。

人間となったフォスは、天人を無に還すことのできる唯一の存在となり、最後地上で1人1万年という時間を過ごす。

本当は50億年のところを孤独が1万年へ短縮させたらしいけど、1万年ですらとんでも無く永い時間のはず。

一方、宝石たちやアドミラビリスたちは残らず天人へ変換され、魂の状態になり、フォスが祈りの力を使えるようになる1万年が経つまで月で楽しく暮らす。

1万年が経ったある日、フォスは祈りの力を以て天人たちを無に還した。

つまりここで、フォス以外の人間(宝石とアドミラビリスはすでに月人と同じ魂となっている)が全て消える。往生するとも言えるので満足なのだと思う。

そこからまたフォスの孤独が始まった。

そして最終章の13巻…。
孤独になったフォスの元にとある生命体が現れます。



テセウスの船とフォスフォフィライト

おそらく同じように思う人もいるかもしれないが、主人公のフォスは脚や腕などを欠損し、その度に他の素材で補修して、最後の方では頭部までも別の宝石にすげ替えられてしまいます。

かろうじてフォスの要素は残っているかもしれないけど、欠損を繰り返すたびに(仲間を失うなどの経験を伴っているのもあるが)性格や能力が変化してゆく。

脚を変えると速く動けるようになり、
腕を変えると戦えるようになり、
頭部を変えると頭の回転まで良くなる。

そして、仲間を失うことで大人びた性格に変わってゆく。
何千年も生きる宝石たちがあまり変わらないのに対し、フォスの変化は著しい。

そこがフォスが人間になり得た要素だったのかと思った。
元々フォスの性格も人間味のあるものだったし。

ただ、巻数を進めるにつれて外見内面ともに変化してゆくフォスの姿が凛々しく思いつつも痛々しくて、月側の陣営として宝石たちと戦うあたりでは見ていて辛かった。

途中、フォスの要素がどんどん取り払われ変化してゆく様は、テセウスの船を連想させた。

その昔、ギリシャの英雄テセウスという人が船を所有していました。

その船は経年劣化で部品が傷んできたため、壊れた部品は徐々に新しいものと交換されていきました。

そして、最終的には船の全ての部品が交換され、もとの部品はひとつも残っていない状態になりました。

ここで問題です。

全ての部品が交換された後の船は、最初のテセウスの船と同じ船と言えるのでしょうか?

「テセウスの船」を分かりやすく解説! - 哲学ちゃん

だけど、最後まで読んでみて思うのはやっぱりフォスはフォスだった。
人間になる要素を備えていたフォスだから、ここまで変わることができたし人間であるフォスは橋を燃やすために地球に残り太陽に焼かれたし、フォスがフォスのままだったから一部は、装置に乗って地球を脱出することができた。


ただ私は、前にすずめの戸締まりの感想でも書いたように「ハッピーエンドの裏側で置いてきぼりな存在」(すずめではダイジン)が気になってしまうタチなので、フォスのことは最後救われるまで可哀想でならなかった。

フォスが最期に救われて良かった…。


まとめ

完結前に何かの動画で、宝石の国が鬱漫画の括りで紹介されていたのを見て驚いたのを覚えています。

確かに残酷なストーリーではあると思う。
最初は生意気で何もできない末っ子のフォスだったけど、その成長や変化っぷりには驚かされるし、宝石たちの戦いやアドミラビリスの裏切り、月人の永遠に続くかのような地獄(お互いをただ滅ぼし合うだけの世界)など、残酷な世界観を示唆する描写も多い。

でも、フォスに無に還された全員や、最後フォスに残された兄機や、新しい生命体である岩石。

そして最後に往生したかのように消えるフォス。

なんだかんだ希望のある終わり方だったと思ったけど、壮大すぎてストーリーを受け止めるのに少し時間がかかる。

もしこんな風に消えてゆくことができる生命がいるのであれば、それは幸せでしかないだろうし、役立たずだったフォスが最後に皆に望まれる存在になること、その後自分を受け入れてくれる存在に出会えたことは満足なんだろうと思う。

金剛先生が宝石たちを見ているような気持ちでフォスは岩石の生命体を見ていたのだろう。
そして、それを読んだ自分も末っ子だったフォスの最後の成長を感じられてもう何というか良かったと思えた。

全体的に寓話や神話のようで、仏教を元にしているらしいので当たり前だろうけど壮大な話だったなと思う。


シリアスめな感想を書いてしまったけど、ストーリーの過酷さなどはそれはそれとして、個性豊かな宝石たちやその他のキャラたちが好きなのでまたたまに読み返して壮大な作品の世界観に浸りたいと思う。

おしまい。



全部で108話…煩悩の数だあ。

市川春子の短編集。
特に虫と歌に収録されている「日下兄妹」が好きだった。これは切ないながらほっこりする。

いいなと思ったら応援しよう!

この記事が参加している募集