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ファンシーショップ「トント」の思い出5 懐かしいお客様、ときどき事件も?!
おもちゃ屋「さくらトイス」を経営する父の元に生まれた私は、短大を卒業すると、「さくらトイス」のファンシーショップ部門を担当することになりました。それと並行して、さくらトイスとは別会社として私が社長を務めたのが、ファンシーショップTONT(トント)です。私が店長を務めた田無ポポロ店ができたのは、昭和52(1977)年のことでした。
今回はTONTのお話、五回目です。
トントは初めての自分の店だったので、お客様や店の仲間のスタッフとの出来事は覚えています。
良いことや嬉しい出来事も沢山ありますが、印象深い出来事は、ちょっと変わったことばかりです。
公衆電話で、謎の電話?
トントのお客様ではないのですが、私たちはそのおじさんを「詐欺師のおじさん」とあだ名をつけていました。
当時携帯電話はまだなかったので、外から誰かに電話を掛けるのは公衆電話でした。
ポポロショッピングセンター館内の公衆電話は、トントの店の前でした。
店がオープンするとまずは、保険外交のおばさんたちが何軒もの家に電話をかけていました。10円玉が無くなると、店に両替だけに来ます。あまり何度もあるので「両替お断り」と張り紙を出すと、10円のキャンディを1個買うようになりました。
話はそれとは別で、その公衆電話のところへ、1週間に1回くらい来るおじさんがいました。いつもスーツを着て、恰幅の良いおじさんです。大きな声で話しているので何となくもれ聞こえます。うちのスタッフが何気なく聞いているうちに、気がつきました。
「もしもし○○会社の部長の○○ですが」とか
「もしもし△△会社の社長の△△ですが」
「もしもし××会社の役員の××ですが」
と、名乗っている会社と役職が毎回違うのです。
本当は何者だったのでしょう?真相は分かりません。
お店で倒れて、救急車!
トントに良く買い物に来てくれた一人暮らしのおばあちゃんがいました。
いつも、いろんな話をしては帰っていきました。しばらく来なかった期間があり、久しぶりにいらしたときに「どうしたの」と聞いたら、ベッドから落ちて足を骨折したと言っていました。
ある日こんな話もしてくれました。
娘さんが用意してくれた温泉旅行に一人で出かけ、大浴場に入ったのは覚えているが、気が付いたら布団に寝かされていたとのこと。自分では覚えていないけれど、どうやらのぼせて上を向いて浴槽に浮いていたようです。見つけた人はびっくりしたでしょうね!
そう言えば、お客様が店の中で倒れたことがありました。目が空いたまま意識が無く、口から泡みたいなものが出ていたので、てんかんだと思い、すぐ救急車を呼んで病院に連れていってもらいました。
数時間後にそのお客様が、「先程はありがとうございました」とお礼を言いに来て頭を下げ、顔を上げたとたんに目を見たら又症状が出ているので、今度は事務所で休んでもらって帰しました。狭い店なので、倒れる時に頭を打たなくて良かったと思いました。
万引きは一番の困りごと
店とお客様とで、一番困った関係は万引きです。
うちの店では、中高生の女の子が多かったです。万引きは許しません。もし許すと「あそこは許してくれる」と仲間の間で広がります。
うかうかしていると万引きは売り上げの5%位を占めます。年間8000万円売ると約400万円。1年365日で約1日に1万円盗まれることになります。死活問題です。
見つけた場合、大抵はショッピングセンターの管理事務所に連れていき、館長に任せます。館長は親に連絡します。中には名前も住所もでたらめ、あげくにウソ泣きをする子もいました。困ったものです。
この子は常習犯だなと思ったら、警察を呼びます。小学生のいたずら心でしたような子は、館長に厳しく叱ってもらいます。
一度子連れのお母さんの万引きを捕まえて警察を読んだら、来たお巡りさんが「又お前か!」と言っていました。後で警察署に書類を書きにいったら、子どもも警察署内が慣れているらしく、飛び回って遊んでいました。この子の将来は大丈夫?と心配になってしまいました。
店にいると、万引きしそうなお客は行動や雰囲気で分かります。でもあまり立て続けに多いと、人間不信になってしまいます。
万引きではないのですが、ビックリした事があります。
若い男の人がどうやらおかしい気配、手に商品の手鏡を持っています。買う様子もないので注意していると、しゃがんで女の子のスカートの中を鏡で見ています。
あまりにもビックリしたので思わず「お客様、その手鏡お買い上げですか?」と言ってしまいました。相手も慌てて「はい!」と言ったので買わせてしまいました。
後で「あの買った手鏡で又スカートの中を覗いていたら嫌だな、万引きと同じ様にキチンと対処すれば良かったかな」と思いました。
おめでたが続いたことも…
ある大学生と高校生のカップルは、よく店で買い物をしてくれて、親しく話をするようになりました。二人はお姉さん、お姉さんと慕ってくれました。
ある日私に「子どもが出来たみたい、どうしよう。」と相談してきました。
私はびっくりしましたが、取り敢えずお医者さんに診てもらったのか聞いたら、行っていないと言ったので、まずは診てもらいなさいと言いました。
心配をしていたら数日後に二人で「何でもなかった」と報告にきました。良かった良かったと安心しました。
妊娠と言えば、トントの社員二人が立て続けに「赤ちゃんが出来た」と報告にきました。まるで伝染したかのようです!
一人は結婚を前提に付き合っているとの事、もう一人は付き合っているが結婚前提でもなく親にも紹介していないとの事。前者は良いとして、後者にはまず親に会わせて妊娠を伝えなさいと言いました。
二人とも上手く行き、退社することになりました。めでたしめでたしですが、店は私と妊娠した二人とアルバイトでやっていたので、次の社員を見つけ育てるまでを考えると、私の方がどうしようかと途方に暮れました。
その後、二人の社員はそれぞれ結婚をして、一週間違いで赤ちゃんが生まれました。
店をやっていると色々な事があります。まだまだ思い出したことがありますので、続きは次回また書きますね。
昭和27年から平成19年までの55年間、東京・埼玉・神奈川・千葉・茨城の各地に34店舗を構えていたおもちゃ屋「さくらトイス」の2代目社長を務めた私が、おもちゃ屋・ファンシーショップの思い出話、懐かしいおもちゃのことをつづっていきます。毎月11日に公開予定ですので、続きをお楽しみに!
また「さくらトイス」「トント」のことを覚えている方、ぜひコメントをくださいね。
編集協力:小窓舎