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職域救急シリーズ 第1回 後編


前編はこちらになります。

やってほしかった行動:種あかし

こちらのページを始めてごらんになられる方は、是非、前編のほうに一度目を通されてください。

AED(自動体外式除細動器)を誰かにとって来てもらい、とりあえずそばにおいて、いつでも使えるようにはしておく

でした。以下、順次説明させていただきます。

事例の説明:意図など

前編で紹介した事例は、急性心筋梗塞の発症を想定していました。年齢、性別、A型タイプ、喫煙、高血圧および耐糖能異常などの多リスク要因も意図的に設定していました。また、わかりやすい胸痛ではなく、多くの医療者がだまされる放散痛を想定して、意図的に胃の痛みとしました。さて、職域救急においては、診断的な思考で動く必要はありません。だから、この事例から心筋梗塞を想定できなくても全然OKです。119を呼んで、病院搬送までの間できることをすればよいという発想になります。

事例の背景:疾病によっては、心停止は突然にやってくる

急性心筋梗塞が代表的ですが、今目の前で、意識清明で、普通に会話で来ている人が、突然に意識を失い、呼びかけにも応答しなくなることがあります。時には全身けいれんのような四肢の動きもあるかもしれません。呼吸はしているが、明らかに普通とは異なる状況になっているかもしれません(あえぎ呼吸)。ですので、救急車を呼ぶような状況に遭遇した時は、傷病者がもしかしたら、今のこの瞬間に、心停止になるかもないという発想をもちながら、対処することを提唱させていただきたいと私は思います。心停止の類型は、4つに細分され、AEDによる電気的除細動が有効な波形はそのうち2つですが、ここでは割愛します。

事例の背景:時間的重要性(分単位)

除細動処置(AEDで除細動ボタン押下)を行うということは、いったん心臓を止めるということです。そして、心臓が本来もつ自動能により、通常の心拍再開を期待するものです。除細動処置と呼ばれる通り、細動(ぷるぷるふるえて、ポンプとしての機能が破綻してる心臓の状態)を電気で除くことをしているほかなりません。それが心臓を止めるという意味です。プルプル増えている間は、ひたすらに心筋細胞のATPが無駄に使われており、大体10分もするとATPは枯渇して、心筋細胞は完全に電気的活動を失います。心電図的には、横線ピー という状態(ドラマで出てくるご臨終の場面)です。こうなってしまうと、電気ショックをかける意味はありません。細動すらもうすでにない、つまり、除するものがすでにないということです。だから、AEDを使うときは、分単位の時間勝負になります。特に、急変(心室細動発生)から、3分以内に除細動できるかどうかが、脳機能の完全回復も含めての極めて貴重なゴールデンタイムとなります。

だから、AEDが人の命を救うためには、分単位の時間で対処できるかが重要なのです。

事例の背景:AED設置場所と傷病者の位置との関係性

以上の観点から、今一度、事例に立ち返ってみましょう。傷病者の位置はオフィスの中です。AEDがあるとすれば、皆様の職場ではどこにあるでしょうか。急変(意識なし、応答なし、正常でない呼吸かまたは呼吸なし)してはじめて、あわててAEDを探し出すような状況であれば、AEDで除細動可能な貴重な最初の数分間があっという間に失われるでしょう。また、AEDがどこかにあったとしてもそれを取って戻ってくるまでに3分はかかるような動線の環境であれば、やっぱり貴重な時間が失われてしまいます。ところが、急変した時点ですでに、傷病者のそばにあれば、確実に3分以内に除細動可能となります。人一人が生きるか死ぬかの分水嶺になり得ます。一方で、とりあえず持っては来たもの使わずに済んだとしても誰もそれが原因で死ぬことはありません。

このわずかな初期行動の違いが、とても大きいのです

以上のことは、私が日頃の産業医職場巡視で、よく話している日常です。そんな私の産業医としての日常を、ネットを通じて今回シェアさせていただきました。最後に、私の過去のブログで、今回の話と大いに関係するエントリーをリンクしておきます。こちらもご覧なっていただければ幸いでです。ありがとうございました。

(補足)
突然心停止なる状況は、除細動措置が有効な疾病だけを原因とするわけではありません。職域でベストな一次救命処置を行い得ても、救命できないことは多々あります。ですので、職域において突然救命措置にかかわることになった方々が、結果が死亡となったとしても過度に自らの対応を責める必要はありません。もしかしたら、産業保健職のもう一つの役割として、事後の関係者のメンタルフォローということも適宜必要かもしれません。