マットのまいちゃん④

このお話は個人的な思い出補正と、
個人特定回避のフェイクを含みます。
フィクションとノンフィクションの狭間を
どうぞお楽しみください。

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送信ボタンを押すか押さまいか
どれくらい逡巡しているのだろう。

まいちゃんに初めて送るメール。

まいちゃんともう会わない
そんな内容のメール。

何度吐いたか分からない溜息をついて
送信ボタンにいよいよ指を伸ばした。


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初めてまいちゃんに出会ったあの日から
月に一度以上お店に行くこと数回。

まいちゃんにすっかり魅了されていた。

顔も身体も声も性格も
会うたびに良いところを見つけて
好きな気持ちが膨らんでいった。

一人の女の子にだけ通うなんてことは
それまでなかったのに。

ふとした瞬間に彼女のことが浮かぶ。

お気に入りの風俗嬢の枠は超えていた。

一人の女性として好意を抱いていた。

彼女が見せる姿や表情、
仕草や掛けてくれる言葉、
それら全ては『客』である者に向けられたもの
仕事として彼女が考えて演出しているもの

そんな事は分かっている。

会った回数は両手で収まる。
時間にしたら24時間にも到底及ばない。

そんな時間では自分の事なんて
知ってもらえるはずがない。

顔がいいわけでも無い。
金持ちでも無い。
背も低い、ヒョロガリでオタク丸出し。
一般的にモテる男の要件をぜんぜん満たせていない自分が、たくさんの男を見てきている彼女の興味を引けるだなんて思えない。

そして何よりこういう卑屈な考えが
非モテの非モテたる所以だという事も。

全部ぜんぶ自分で理解していた。



これ以上、彼女に会ったら壊れそうだった。

恋愛経験がほとんど無く、どうしていいか
もはや何も分からなくなっていた。


彼女から遠ざかる。


いや、もう会わない。


恋愛下手が出したお粗末な回答だった。


せっかく教えてもらったメールアドレス。

何を書いても気持ち悪い文章になる気がして
数ヶ月何も送れずにいた。


まいちゃんとはもう会わない
そんな内容の初めて送るメール。

何度吐いたか分からない溜息をついて
送信ボタンにいよいよ指を伸ばした。


返事なんて期待していない。

変な客と思われて終わり。返信も無い。

そんな結末だろうと思っていた。



深夜0時過ぎのメール。
予想に反して、返信はものの数分で来た。


『えー、やだ。そんなこと言わないでよ。』

『私は会いたいし、もっとお話しもそれ以外の事もしたいよ。』

『好きならこれからも来て欲しいよ。』


こちらが何か返す前に短文で次々とメールが送られてくる。


数回会っただけなのに本気で好意を寄せてくる客なんて気持ち悪くない?


『いや、好きって言ってもらえるのは普通に嬉しい。』

『好きになってもらえてるかなって思ってはいたけど、そんなに自信があったわけじゃないから、ちゃんと好きって言ってくれて嬉しいし安心したよ。』


勘違いして浮かれるダメな自分が出てきそうになる。


『でも、ごめんなさい。私、一応彼氏いるし、まおさんの気持ちには応えられない。』


そうか、そうだよね。
もともと彼氏がいる。ぜんぜん不思議じゃない。


『まいとしては、これからも会いにきて欲しい。関係を途切れさせたくないよ。』


【まいとして】
それは彼女、いち個人としてなのか
風俗嬢のまいとしてなのか
最早どちらでもいい。


もうすでに「ごめんなさい」と
スッパリ振られている。
振られた理由も腑に落ちていた。

付き合ったりは無理。
でも客としては嫌いじゃない。

ああ、うん。
そうだね。


『ていうか、こんな夜遅くにメールしてくるなんて明日お休みなんでしょ?』

『私、出勤だよ?ねえ、明日来てよ。』

『あんなこと言われたら会いたくなるじゃん。』

『告白ならちゃんと顔を見て言ってよ、ね。』


何をどう返していいか分からなくなった。


迷走した心持ちのまま、
翌日池袋へ向かうことになる。


我ながら容易く手玉に取られている。


彼女はまるでエレベーターガールのように
僕の心を上へ下へと、指先ひとつで。

(続く)


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