「ストーリーづくり」になっていませんか?
メソード演技を勉強していく上で、俳優にとって幾つかの大事なキー・ワードがあります。レッスンのなかで繰り返し語られるこういった言葉をメモとして書き記しておきたいと思います。
「ストーリーづくり」?
課題だけ与えられて、即興で演じるエチュードという演技の勉強がある。日本では俳優養成所などで少しやるくらいで、すぐにセリフ中心の勉強になることが多い。しかし、エチュードの勉強のなかにこそ演技の大事な基礎がある。そして養成所で一度やれば、それで終了するような勉強と違うのだ。 矛盾するようだが、メソード演技のレッスンでは通常、台本がなく課題だけでやるエチュードに時間を設けることはしない。書かれた作品があって、テキストが土台になっているが、セリフは暗記しない。インプロヴィゼーションと言って、書かれている内容を即興で追っていく。テキストに書かれた役の人物の行動や内面への集中には欠かせない非常にプロフェッショナルな手法である。それにも関わらず「メソード演技」を勉強しようとすると、キャリアの長短にかかわらず、たとえ初心者であってもいきなりこの手法の勉強になる。初心者の方が吸収力がよい場合があるから面白い。そしてどんな分野でもそうだが、基礎の勉強は終了することはないし、どこからどこまでが基礎という明確な線引きなどないのである。 とは言え、日本で「メソード演技」を指導し始めたとき、インプロヴィゼーション以前の勉強が必要であることを思い知らされ、シーンワークに取りかかる前の段階にエチュードを取り入れた。そして簡単な「エチュード」の勉強の中にこそ、簡単にはいかない、取り組むべき演技の課題があることがはっきりとしてきた。 俳優は「与えられた状況」のなかで、自分が「どこ」にいて「なに」をしているのかなどを明瞭にしていかなければならない。多くの場合、この時点ですでに問題になる。つまり、なにをどうするか明瞭にしようとして、まず頭のなかで「ストーリーづくり」をしている場合だ。そして自分の頭のなかにあるそのストーリーに沿って演技する。ストーリーのなかで、その〈つもり〉になって微笑んだり、涙を流したりもする。 演技がストーリーづくりではないのは明らかで、このような状態で台本を手にして演技をはじめると、頭ばかり働いて身体がすっかりおざなりになってしまう。もちろん台本も頭で読んでいるので、俳優に求められる読み方とは別な読み方になる。 問題は自分ではなかなか気づきにくいということだ。また一度「ストーリーづくり」の演技を身につけると、そこから脱却するのは簡単ではなく、脳の体質改善みたいなもので、じっくり時間をかけて切り替えていくしかない。 何はともあれ「エチュード」は、行動の勉強として行われることが多いが、俳優が舞台上の「そこ」にいて、考えるべきことを考え、集中すべきことに集中する力を養うための演技の基礎でもあって、時間をかけるべき大事な勉強なのだ。メソード演技のインプロヴィゼーションには、まずは「ストーリーづくり」を脱することが必要だ。