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水の月コーヒー店 新月編《短編小説》

「あぁ、だるい。面倒だし学校休も。」
途中の駅まで来て、面倒になった。
「誰か遊べる人いないかなぁ」
スマホをチェックするが、「誰もいないかぁ・・・」
仕方なく駅の近くにある公園へ向かう。
「少し時間潰して帰ろ。」
自動販売機でミルクティーを買い、公園のベンチに座る。
ミルクティーを飲みながら、空を見上げる。
雲一つない晴天。太陽が眩しい。
「こんなに天気がいいのに、学校なんて行ってらんない。」
だが、学校へ行きたくない理由は、「面倒だから」でも「天気がいいから」でもない。
昨日、親友だと思っていた、仲のいい友達が私の事を
「本当は関わりたくない。素行も悪いし。何されるか分かんないから怖いじゃん?」と話しているのを聞いてしまった。
彼女と仲良くなったのは中学に入ってすぐ。
何となく話しかけたら、共通点が多く話が合った。それから当たり前の様に毎日一緒に過ごし、同じ高校に進学。高校生になっても一緒にいた。
「そんな風に思ってたのか・・・」ショックだった。
うちは母子家庭で、母は生活の為にスナックで働いている。クラス中が知っていて、馬鹿にされる事も多かった。
落ち込んで家に帰っても誰もいない。
憂さ晴らしに夜遊びをし、話し相手欲しさに"素行"の悪い人達ともつるんだりした。
「まぁ、自業自得か・・・」分かっているが、ショックだ。
「あぁ、もう忘れよう!」残りのミルクティーを一気に飲み干し、公園を後にした。

ふらふらと大通りを歩いていると、レンが調の建物が目に入った。
入り口には、レトロなステンドグラスのランプがある。
「何のお店だろう?」入り口のガラスを覗いてみる。
まだ営業前なのだろう。明かりはついていなかったが、正面の棚にカップがたくさん並んでいるのが見えた。
「へぇ、こんなお店あったんだ。」と呟いた瞬間、店内に明かりが灯った。
正面の棚のすぐ横のドアが開き、白髪交じりの男性が出てきた。
そして、バッチリ目があった。
「やば。目が合った。」
急いで立ち去ろうとすると、入り口から白髪交じりの男性に
「こんにちは。良かったら寄って行きませんか?」と優しい声で呼び止められた。
振り向くと・・・にこにこしながら手招きされている。
「あー・・・。」無視できなかった。
店内に入ると、学校へ連絡されるのではないかと不安になった。
男性は微笑みながら「たまには休息も必要ですよね」と言い、椅子を引いた。
どうしていいか分からず立っていると、手で、どうぞと椅子へ誘導された。
座ったものの、落ち着かずキョロキョロしていると店内にコーヒーの香りが漂う。
目の前に、カップが置かれた。
ベースは漆黒。その中に、キラキラした一輪の花の模様がある。
「うわぁ、キレイ・・・」
「その花の部分は、螺鈿らでん細工と言って貝殻を貼って描いているんですよ。個性的で綺麗でしょう?」
「へぇー。綺麗だけど高そう・・・」
そのカップにコーヒーと、ふわふわに泡立ったミルクが注がれた。
「どうぞ。」
「えっ?」困っていると
「暖かい飲み物を飲んで、心を休めて下さい。」
ふわふわの泡が美味しいそうだったので
「ありがとうございます。いただきます。」素直に飲んだ。
泡立てられたふわふわのミルクが唇に当たる。
美味しい。
漆黒の花のカップを眺めながら飲んでいたら、いつの間にか飲み干してしまった。
「ご馳走様でした。いくらですか?」バッグから財布を取り出し男性を見る。
男性はにっこり笑って首を横に振る。
「じゃあ、お言葉に甘えて。今度、友達も連れてきます!」と伝え財布をしまう。バッグを手にし帰ろうとすると、
「出口はこちらです。」
男性は、カップが並んだ棚の横のドアを開けている。
吸い込まれる様にドアの外へ出る。

見たことのない海が目の前に広がっていた。
穏やかな海。波一つない水面。青空が広がっている。
「ここ・・・何処・・・?」
そう呟いた瞬間、目の前に、金色の輝く瞳の男性がいた。
「こんにちは。」
反射的に「こ、こんにちは。」と元気よく返してしまった。
金色の輝く瞳の男性は見た感じ、私より少し年上のお兄さん。
めっちゃイケメン!!なんてドキドキしてると、
「少し疲れた顔をしている。大丈夫ですか?」心配そうに私の顔を覗き込む。
お兄さん!?顔が近いよ!!
恥ずかしくなり、後ろを向き
「疲れてないから大丈夫です。」と答えた。
「今日は新月だから"陰"の力が強くなるから・・・ちょっと心配しすぎましたね。すみません。」と少し落ち込んだような声だった。
照れ隠しだったが、強めに言ってしまった事を反省した。
「心配してくれてありがとうございます。新月ってなんですか?」
言いながら金色の瞳のお兄さんの方へ向き直った。
「月の満ち欠けのタイミングで、人によっては、心と身体のエネルギーが弱まって、ネガティブになりやすいんです。」
それを聞いた私の顔をみて、
「まだお若いから、色々ありますよね。」
流石に見ず知らずの初対面のお兄さんに話すほど、常識のない人間ではない。
今度はやんわりと
「何もないですけどねー。のほほーんと生きてますから」笑いながら言った。
金色の輝く瞳で真っ直ぐ私を見つめる。
心の中を見透かされそうだ。
「あの、ここって何処なんですか?」と話を逸らす。
「ここは水の月コーヒー店の入り口です。僕は、水の月コーヒー店バリスタの満月みづきと言います。」

いや、いや。意味わかんないんだけど。と思っていると、"満月みづき"と名乗るお兄さんは、海の真ん中を指差す。
よーく見ると、海の真ん中にテーブルと椅子、そして小さいカウンターが見える。
「え?頭が混乱してよくわから・・・」言い終わらないうちに、"満月みづきさん"は私の手を取り勢いよく走り出した。
あまりの速さに怖くて目が開けられなかった。

「ようこそ。水の月コーヒー店へ。」

言われて目を開けてみる。
海の上だ・・・何が、どうなってんの?
恐る恐る、つま先でとんとんと軽く叩いてみる。すると水面に波紋が広がる。
「!?」
パニックに陥っていると、「どうぞ座って。」
これで2度目だ。今日、私は2回も椅子を引いてもらった。
小学生の時に座ろうとした瞬間、椅子を引かれ転ばされた事が何度かある。
だが今日は座る為に、椅子を引かれたのだ。
まるでお姫様になった気分。
「ありがとうございます。」お礼を言って座った。
「月が出ている日なら、空まで金色の光に包まれて幻想的なんですが、今日は新月なので、あなたの足元で小さく光るのが精一杯のようですね。」"満月みづきさん"が言う。
言われて足元を見ると、小さな光の上にいた。
小さいけれど、優しく足元をしっかり照らしてくれている。
不思議な光を見ていると、見守られている様でとても安心する。
「お待たせ致しました。新月"朔の和みさくのなごみ"です。」
テーブルに、ロイヤルブルームーンストーンのような青みがかった透明のカップが置かれた。
中はふわふわの泡が乗っている。
ソーサーにはカップの他に、星空を連想させる群青色や、星みたいにキラキラした金平糖がたくさん乗っている。
「カフェラテですが、少し濃いめに淹れてあるので良かったら金平糖を入れてください。そのまま食べても甘くて美味しいですよ。」
とりあえず、そのまま一口飲んでみる。
にがっっ!こんなに苦いのは初めてだ。
「じ、じゃあ、キラキラと星空色を1つずつ」と急いで指でつまみ、2つ入れてみた。恐る恐るもう一口飲んでみる。
「ん!?甘くなった。美味しい!」
次に群青色の金平糖をそのまま食べてみる。
金平糖なんてめったに食べないけど、美味しい!
ラテを飲んで金平糖を食べる。これが意外に合う。
気がつけば、どちらも私のお腹の中だ。
「ご馳走様でした。本当に美味しかったです。」
カウンターの中で洗い物をしている"満月みづきさん"に向かってお礼を言う。
洗い物をしながら、"満月みづきさんが"微笑んだ瞬間、
ふわふわの毛布に包まれた時の心地よさを感じ眠気に襲われた。
眠らない様に目を必死に擦ったがムダだった。
そして眠りに落ちる瞬間、

「あなたが疲れてしまった時。あなたが変わりたいと願う時。
あなたの前に【水の月コーヒー店】はあります。
新月に、あなたはどんな変化を願いますか?
またお会いできる日を楽しみにお待ちしております。」

目を開けると、駅の近くの公園のベンチに座っていた。
「夢?でもすごくリアルだった・・・」
足元を見ると金色の輝く瞳の黒猫が私を見上げていた。
「にゃー」と話しかけたら走っていってしまった。

「どんな変化を願うか・・・か。
まあよく分からないけど。とりあえず。今から学校に行く!」
清々すがすがしい気持ちで、足早に学校へ向かった。


お読みいただき、ありがとうございました!


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