見出し画像

本日の一曲 vol.445 ボブ・ウェルチ 悲しい女 (Bob Welch: Sentimental Lady, 1977)


生い立ち

ボブ・ウェルチさんは、1945年8月31日、アメリカ・カリフォルニア・ハリウッドのショービジネス一家に生まれました。ウェルチ・シニアのロバート(Robert L. Welch Sr.)さんはパラマウント・ピクチャーズのプロデューサーであり、母は女優のテンプルトン・フォックス(Templeton Fox)さんです。

ウェルチさんは、幼い頃にクラリネットを習いましたが、10代になってからギターを弾き始めました。

セヴン・ソウルズ

1964年、ロサンゼルスのボーカル・グループ「セヴン・ソウルズ(The Seven Souls)」にギタリストとして加入し、エピック・レコードとの契約のためのバンド対抗戦でスライ・アンド・ザ・ファミリー・ストーン(Sly & The Family Stone)と戦いましたが、残念なことに破れました。

セヴン・ソウルズは、1967年にシングル「I'm No Stranger b/w I Still Love You」をリリースしましたが、グループは1969年に解散しました。

フリートウッド・マック

グループ解散後、ウェルチさんは、パリなどで「米と豆を食べ、床で寝る」生活をしていましたが、1971年にフリートウッド・マック(Fleetwood Mac)のギタリストのオーディションを受け、バンドに加入することになりました。

フューチャー・ゲイム

1971年9月、フリートウッド・マックは、ロンドンで録音された「フューチャー・ゲイム(Future Games)」をリリースしました。このアルバムには、ウェルチさんが作詞作曲をした曲が同名タイトルの「フューチャー・ゲイム」と「レイ・イット・オール・ダウン(Lay It All Down)」の2曲が収録されていますが、前者を貼っておきます。

アルバムのプレイリストです。

枯れ木

半年後の1972年3月、同じくロンドンで録音された「枯れ木(Bare Trees)」がリリースされました。こちらのアルバムにもウェルチさんが作詞作曲した曲が「神の霊(The Ghost)」ともう1曲の2曲が収録されていますが、もう1曲の方の「悲しい女(Sentimental Lady)」です。この曲は、後にウェルチさんがソロになったとき再録音されてリリースされ、ヒット曲になりました。

アルバムのプレイリストです。

ペンギン

前作から1年後、1973年3月には、同じくロンドンで録音した「ペンギン(Penguin)」がリリースされました。ペンギンは、ベースのジョン・マクヴィー(John McVie)さんが愛している動物です。ジョン・マクヴィーさんは動物学会の会員だそうで、クリスティン・マクヴィー(Christine McVie)さんと結婚したばかりの頃、近所のロンドン動物園で何時間もペンギンを観察したり研究したりしていたそうです。

このアルバムにはウェルチさんが作詞作曲した曲は4曲あり、「輝く炎(Bright Fire)」「黙示(Revelation)」「ナイト・ウォッチ(Night Watch)」の3曲がウェルチさんの作品、「私を愛したことあるの(Did You Ever Love Me)」がクリスティンさんと共作です。ここでは、シングルカットされた「私を愛したことあるの」を貼っておきます。

アルバムのプレリストです。

神秘の扉

アルバムに収録された12曲のうち、ウェルチさんの作詞作曲による曲は、「エメラルドの瞳(Emerald Eyes)」「ヒプノタイズド(Hypnotized)」「キープ・オン・ゴーイング(Keep On Going)」「ザ・シティ(The City)」「マイルス・アウェイ(Miles Away)」「サムバディ(Somebody)の6曲、クリスティンさんとボブ・ウェストン(Bob Weston)さんとの共作が「フォーエヴァー(Forever)」の1曲です。

ウェルチさんの曲から「エメラルドの瞳」です。

アルバムのプレイリストです。なお、このアルバムにはヤードバーズ(Yardbirds)の「フォー・ユア・ラヴ(For Your Love)」のカバーが収録されています。

ところが、「神秘の扉」を制作していた1973年後半から、バンドのメンバーチェンジ、マクヴィー夫妻の不和、ミック・フリートウッド(Mick Fleetwood)さんの妻ジェニー・ボイド(Jenny Boyd)さんの不倫などが重なり、アメリカツアーが中止になりました。ちなみにジェニー・ボイドさんは、ジョージ・ハリスン(George Harrison)さんの最初の妻パティ・ボイド(Patty Boyd)さんの妹です。そこへ、ツアーを中止させたくないマネージャーが(おそらく勝手に)ウェルチさんとクリスティンさんがニュー・フリートウッド・マックを結成してツアーを続行すると発表し、バンド側はそれは「偽マック」であると主張して訴訟騒ぎになってしまい、フリートウッド・マックは約1年間活動を停止してしまうのです。

クリスタルの謎

訴訟の結果、「フリートウッド・マック」はジョン・マクヴィーさんとミック・フリートウッドさんのものであるとの決着がつき、ウェルチさんもクリスティンさんも「フリートウッド・マック」のメンバーとして活動し、「フリートウッド・マック」は自社を設立してセルフ・マネージメントをすることになり、活動を再開します。

そして、1974年9月にアルバム「クリスタルの謎(Heroes Are Hard To Find)」をリリースしました。アルバムのジャケットの男性はミックさんで、娘のアメリアさんです。

このアルバムのソングライティングはウェルチさんとクリスティンさんの2人であり、ウェルチさんの作詞作曲の曲は、11曲中「カミング・ホーム(Coming Home)」「エンジェル(Angel)」「バーミューダ・トライアングル(Bermuda Triangle)」「シーズ・チェンジング・ミー(She's Changing Me)」「シルヴァー・ヒールズ(Silver Heels)」「魔法使い(Born Enchanter)」「秘密の隠れ場所(Safe Harbour)」の7曲です。

ウェルチさんの曲から「バーミューダ・トライアングル」です。

アルバムのプレイリストです。

しかし、このころ、ウェルチさんは疲弊してきたのでしょうか、プライベートの結婚生活でもソングライティングの面でも悩み、フリートウッド・マックを脱退します。

パリス

パリス・デビュー‼

ウェルチさんは、フリートウッド・マックを脱退した後、音楽の方向性をハードロックに舵を切り、元ジェスロ・タル(Jethro Tull)のグレン・コーニック(Glenn Cornick)さん、トッド・ラングレン(Todd Rundgren)さんがメンバーだったナズ(Nazz)の元メンバーのトム・ムーニー(Thom Mooney)さんとパワー・トリオの「パリス」を結成し、1976年1月に「パリス・デビュー‼(Paris)」をリリースしました。このアルバムは日本では渋谷陽一さんが絶賛していました。

このアルバムから「狭き門(Narrow Gate (La Porte Etroite))」です。これはフランスの作家アンドレ・ジッド(André Gide)さんの小説「狭き門(La Porte Etroite)」からの引用ですね。

アルバムのプレイリストです。

ビッグ・タウン2061~パリス・セカンド

「パリス・デビュー‼」を制作した直後、ドラムのトム・ムーニーさんは脱退してしまい、やはりトッド・ラングレンさんのユートピア(Utopia)に在籍していたハント・セールス(Hunt Sales)さんに交替しました。ハントさんは、後にデヴィッド・ボウイ(David Bowie)さんのティン・マシーン(Tin Machine)に参加します。

そして、1976年8月には早くもセカンドアルバムの「ビッグ・タウン2061(Big Towne, 2061)」をリリースしました。タイトル曲です。

アルバムのプレイリストです。

ソロ活動

フレンチ・キッス

パリスは商業的には失敗に終わり、ウェルチさんはお財布は空になります。そこで、ウェルチさんは、フリートウッド・マック時代の「神秘の扉」「クリスタルの謎」路線に戻り、ソロとしてアルバムを発表します。1977年9月に「フレンチ・キッス(French Kiss)」をリリースし、アルバムトップにはフリートウッド・マックのアルバム「枯れ木」に収録されていた「悲しい女」を再録音しました。この再録音に際しては、ミック・フリートウッドさん、ジョン・マクヴィーさん、クリスティン・マクヴィーさんとウェルチさんの後釜としてフリートウッド・マックに加入したリンゼイ・バッキンガム(Lindsey Buckingham)さんら、フリートウッド・マックのメンバーが参加しました。

1枚目のシングル「エボニー・アイズ(Ebony Eyes)」です。

そして、2枚目のシングルの「悲しい女」です。

このアルバムは商業的に成功し、プラチナ認定されました。アルバムのプレイリストです。

スリー・ハーツ

1979年2月、「フレンチ・キッス」の続編ともいうべきソロのセカンド「スリー・ハーツ(Three Hearts)」をリリースしました。こちらのアルバムにも、ミック・フリートウッドさん、ジョン、クリスティーンのマクヴィー夫妻が参加しています。シングルカットされた「プレシャス・ラヴ(Precious Love)」です。

このアルバムも前作ほどではありませんでしたが、商業的に成功し、ゴールド認定されました。アルバムのプレイリストです。

ジ・アザー・ワン

前作から約9か月後の1979年11月にはソロ3作目の「ジ・アザー・ワン(The Other One)」をリリースしました。このアルバムには、フリートウッド・マックのメンバーは参加しませんでしたが、フリートウッド・マック時代の「フューチャー・ゲイム」を再録音しました。

アルバムのプレイリストです。

マン・オーバーボード

1980年9月には、ソロ4作目「マン・オーバーボード(Man Overboard)」をリリースしました。音楽的な方向性は前作と変わらないと思いますが、商業的には不発でした。このアルバムだけでなく、このアルバム以降で商業的に成功したアルバムはありません。

元イーグルス(Eagles)のランディ・マイズナー(Randy Meisner)さんがコーラスで参加している「リーズン(Reason)」です。

アルバムのプレイリストです。

イマジナリー・フール

この邦題が「イマジナリー・フール」、オリジナルタイトルがセルフタイトルのアルバムは1981年10月にリリースされたソロ5作目です。心機一転、レコード会社をキャピタルからRCAに変えますが、レコード会社の意向で自作ではない曲も収録しており、ウェルチさん自身、嫌な思いをしたようです。

邦題にとられた「イマジナリー・フール(Imaginary Fool)」です。

アルバムのプレイリストです。

アイ・コンタクト

1983年6月、ソロ6作目「アイ・コンタクト(Eye Contact)」をリリースしました。このアルバムでは、スティーリー・ダン(Steely Dan)やドゥービー・ブラザーズ(The Doobie Brothers)で活躍したジェフ・バクスター(Jeff Baxter)さんをプロデューサーに迎えますが、商業的には不振でした。シングルカットもされた「フィーバー(Fever)」です。

アルバムのプレイリストです。

隠居生活

このアルバムをリリースした後、ウェルチさんは、ウェルチさんの自宅のガレージでレコーディングをしていたガンズ・アンド・ローゼズ(Guns And Roses)のメンバーとパーティーに耽るようになり、なんとウェルチさんは薬物中毒になってしまいます。1985年春にデトックス(解毒)のため入院し、退院後の12月に知人から紹介されたウェンディ・アーミステッド(Wendy Armistead)さんと結婚します。このときウェルチさんは40歳でした。そして、ウェンディさんとアリゾナ州フェニックス、テネシー州ナッシュビルで禁酒・禁薬物の隠居生活を送りました。

しかし、隠居していたからでしょうか、1994年に印税の配分をめぐって、フリートウッド・マックを訴えました。この訴訟は1996年に和解で終わったようです。

また、1998年にフリートウッド・マックが殿堂入りを果たしたのですが、ウェルチさんの功績は無視されて殿堂入りから外され、ウェルチさんにとっては不本意な扱いでした。

Bob Welch Looks At Bop

隠居生活の中、ウェルチさんは1999年9月に「Bob Welch Looks At Bop」をリリースしました。このアルバムは、おそらくDTMによる録音かと思われます。自作の曲のほか、何曲かのジャズのスタンダードナンバーが収録されています。

「クリスタルの謎」に収録されていた「シルヴァー・ヒールズ」を書き直した「ハスラー(Hustler)」です。ただし、少々センシティヴな内容になっていますので、ヘッドホン推奨です。

アルバムのプレイリストです。

His Fleetwood Mac Years & Beyond

2003年7月にはやはりDTMによって録音したと思われるアルバム「His Fleetwood Mac Years & Beyond」がリリースされました。このアルバムは、主にウェルチさんが作曲したフリートウッド・マックやソロ時代の楽曲を再録音したものです。1998年の殿堂入り事件に対するアピールの意味もあったようですが、このころフリートウッド・マックのメンバーと再び交流したようです。

「本日の一曲」では、ウェルチさんの作曲ではありませんが、ピーター・グリーン(Peter Green)さん時代の「オー・ウェル」を紹介したことがありました。

アルバムのプレイリストです。プレイリストの題名が「Greatest Hits & More」となっていますが、この「His Fleetwood Mac Years & Beyond」と同じ内容になっている思います。

His Fleetwood Mac Years and Beyond, Vol.2

前作から約2年8か月の期間を開けた2006年3月、フリートウッド・マックの再録音集の第2弾として「Vol.2」がリリースされました。しかし、新曲も数曲収録されていました。

Bob Welch Sings The Best Songs Ever Written

2011年12月にはApple Musicにアルバム「Bob Welch Sings The Best Songs Ever Written」が公開されました。このアルバムには14曲のカバー曲が収録されており、 バート・バカラック(Burt Bacharach)さんの「アルフィー(Alfie)」、ヘンリー・マンシーニ(Henry Mancini)さんの「ムーン・リバー(Moon River)」、アレサ・フランクリン(Aretha Franklin)さんの「チェイン・オブ・フールズ(Chain Of Fools)」などが収録されています。

ウェルチさんは、詳しくは分からないのですが、「深刻な健康問題」を抱えており、2012年3月ころ、脊髄手術を受けましたが、失敗に終わり、悲観的になったウェルチさんは、2012年6月7日、妻のウェンディさんに「迷惑をかけられない」というラブレターを残して、ナッシュビルの自宅で銃を使って自ら66歳の人生を閉じてしまいました。

ウェンディさんも2016年11月28日肺と心臓の病気でなくなり、テネシー州メンフィスにお二人並んで眠っています。

(by R)

いいなと思ったら応援しよう!

さくら Music office
読んでくださってありがとうございます!サポートしていただけるととても嬉しいです!