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本日の一曲 vol.294 ラヴェル 鏡 (Maurice Ravel: Miroirs, 1905)
モーリス・ラヴェルさんのピアノのための「鏡」は、5曲からなる組曲です。
1902年、フランス・パリのオペラ・コミックでクロード・ドビュッシー(Claude Debussy)さんのオペラ「ペレアスとメリザンド(Pelléas et Mélisande)」の初演が行われました。このころ、ドビュッシーさんは39歳でしたが、ドビュッシーさんの作品、とりわけこの「ペリアスとメリザンド」を支持する若い芸術家が集まり、このサークルが「アパッチ」と呼ばれるようになりました。
「アパッチ」とは、もともとはアメリカの先住民族のことですが、当時のパリでのストリートギャングが「アパッチ」と呼ばれていたのです。一説によると、メンバーが「ペレアスとメリザンド」の初演から戻る途中、新聞販売員から「アパッチ!」と揶揄されたことがきっかけで、グループのメンバーがこれを気に入り、自分たちのサークルの名前にしました。
当時27歳だったモーリス・ラヴェルさんは、このアパッチの中心メンバーでした。アパッチの集合の合図として、口笛でアレクサンドル・ボロディン(Alexander Borodin)さん作曲の交響曲第2番第1楽章の冒頭部分を吹くことを提案したのもラヴェルさんでした。
カルロス・クライバー(Carlos Kleiber)さん指揮シュトゥットガルト放送交響楽団(Radio- Sinfonieorchester Stuttgart)の演奏で、ボロディン作曲交響曲第2番変ロ短調第1楽章です。
1900年初頭の1900年から1905年まで、モーリス・ラヴェルさんは、フランス政府が芸術を専攻する学生に与えていた「ローマ大賞」に応募し続けましたが、応募資格が30歳までという年齢制限があったため、結局第1等をとることができず、最後の1905年には予選落ちするという結果に終わりました。このことは当時パリでスキャンダルとなり、ラヴェルさんの母校パリ音楽院のテオドール・デュポア院長が辞職に追い込まれるという「ラヴェル事件」が起きたのでした。デュポア院長の後任には、ラヴェルさんの恩師であるガブリエル・フォーレさんが就任し、パリ音楽院のカリキュラムの改革に乗り出したのでした。
本日ご紹介する、「鏡」は、そのような1904年から1905年にかけて作曲されたもので、5つの曲からなり、それぞれの曲がアパッチのメンバーに献呈されました。
組曲の構成は以下のとおりです。
1 蛾(Noctuelles)
2 悲しい鳥たち(Oiseaux tristes)
3 洋上の小舟(Une barque sur l'océan)
4 道化師の朝の歌(Alborada del gracioso)
5 鐘の谷(La vallée des cloches)
1 蛾(Noctuelles)
第1曲は、詩人レオン=ポール・ファルグ(Léon-Paul Fargue)さんに献呈されました。
モーリス・ラヴェルさんに師事したヴラド・ペルルミュテール(Vlado Perlemuter)さんの演奏です。
2 悲しい鳥たち(Oiseaux tristes)
第2曲は、この「鏡」の初演者であるピアニストのリカルド・ビニェス(Ricardo Viñes)に献呈されました。
新進のブルース・リウ(Bruce Liu)さんの演奏です。
3 洋上の小舟(Une barque sur l'océan)
第3曲は、画家のポール・ソルド(Paul Sordes)さんに献呈されました。
旧ソ連の大家スヴャトスラフ・リヒテル(Sviatoslav Richter)さんの演奏です。
この曲はラヴェルさん自身のオーケストラ編曲版がありますが、初演の評判が芳しくなかったため、出版はラヴェルさんの死後である1950年でした。
ピエール・ブーレーズ(Pierre Boulez)さん指揮ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団(Berliner Philharmoniker)の演奏です。
4 道化師の朝の歌(Alborada del gracioso)
第4曲は、批評家のミシェル・ディミトリー・カルヴォコレッシ(Michel Dimitri Calvocoressi)さんに献呈されました。
ラヴェルさんの2歳年下で、やはりパリ音楽院出身のアルフレッド・コルトー(Alfred Cortot)さんの愛弟子サンソン・フランソワ(Samson François)さんの演奏です。
この曲もラヴェルさん自身のオーケストラ編曲版があります。シャルル・デュトワ(Charles Dutoit)さん指揮モントリオール交響楽団(Orchestre symphonique de Montréal)の演奏です。
5 鐘の谷(La vallée des cloches)
第5曲は、作曲家のモーリス・ドラージュ(Maurice Delage)さんに献呈されました。
ロシア出身のピアニスト、ズラータ・チョチエヴァ(Zlata Chochieva)さんが昨年リリースしたアルバムからの演奏です。
ちなみに曲の解説としては、ピティナ・ピアノ曲事典をご覧ください。
すこし先になりますが、来る8月31日、弊社のYoung Artist支援プロジェクト「塙未羽ピアノリサイタル」におきまして、塙未羽(ばんみはね)さんがこの曲を披露しますので、ぜひお越しになって演奏をお聴きになってください!
(by R)
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