水中特攻隊についてレジャーダイバーが考えてみたはなし
伏龍という言葉を知っていますか?
伏龍とは『水の中にひそんで昇天の機会を待っている龍』という意味で、転じてまだ世に知られていない傑作や優れた人物のことを称する場合にも使われます。
かの三国志で有名な諸葛孔明の若い頃のあだ名も伏龍だったようです。
ネーミングとしては抜群ですね。とくに戦中においてはこれに代わる士気がこれほど高まるネーミングは他にはないでしょう。
本当に水中に龍が待ち伏せして国を守ってくれるのならば、どんなに心強いか。
特攻隊
敗戦の色濃くなってきた終戦間近の日本では、特別攻撃隊・特攻隊と呼ばれる作戦が水面下で遂行されていることは皆さんもご存知かと思います。ワタシが知っているのは、航空機による神風特攻隊、人間魚雷・回天、ボートによる震洋、航空特攻兵器・桜花などは知っていましたが、つい先日までこの『伏龍』については知りませんでした。
伏龍に関する説明はこのNHKのサイトや朝日新聞社の実際に特攻部隊伏龍隊にいた片山惣次郎さんのインタビュー動画がわかりやすいので、ぜひご覧になってください。
レジャーダイバーの視点から想像してみた
では、今日は何を書きたいかというとダイビングインストラクターといういわゆるレジャーダイバーの視点からこの伏龍をイメージしたことについて。
きっと、この記事を読んでくださる方の中にもダイバーの方もいらっしゃると思うのでぜひ想像してみてください。
まず、水中で潜むという作戦で今のレジャーダイビングと大きく違うのは排気の問題ね。やっぱり、ブクブクブクと泡が水面に出てきてしまってはバレバレですからね。今でいうところのクローズド・サーキット・リブリーザーですね。要するに自分が排気した呼気を再利用するってわけです。現在は魚の群れの中の撮影などは、これを使ったりすると魚が逃げにくいとかそういう用途で使われたりします。
ここら辺は、ワタシの所属団体PADIのサイトで見てください。
ま、ざっくりいうと我々が普段使っているオープンサーキット(ブクブクブク~っと呼吸するやつ)とは違い、特別な技術が必要なんですよ。あともう一つ大事な違いは、潜水時間。
オープンサーキットはタンクの空気がなくなるまでという物理的な制限がありますが、クローズドサーキットは基本は循環させて呼吸に使うのでタンクとして持っていく空気の分よりは長く水中にいられるってわけです。もちろん、永久ってわけではありませんが。
いろいろ読んでみると5時間の待機時間が想定されていたそうです。5時間の水中ってどうですか?お魚を観察したりしている5時間ではないですよ。ある理由で全く身動きがとれない5時間です。(ある理由については後で書きますね)想像しただけで、おかしくなりそう。
よく「どのくらいの時間ダイビングってできるんですか??」とノンダイバーや初心者の方に聞かれるのですが、
①空気がなくなるまで・・・これは誰でも想像できる理由ですね。持参した空気がなくなってしまったらアウトです。簡単に想像できるため「空気がなくなったらどうしよう…(-_-;)」っていう心配をされている方多いですね。はっきり言いましょう。レジャーダイビングで空気がなくなるようなことは、ほぼない。ガス欠で車が止まっちゃうようなもんです。目の前にガソリンメーターあるでしょう?なくなる前に給油に行きません?ダイビングも残圧計という空気の残量メーターがありますから、見てればなくならん!あ、うっかり見てない人は無くなったことに気づかないっていうケースはありますけどね。
②体内の残留窒素の問題・・・これに関しての説明は割愛させてください・・・長いの。ざっくりいうと、身体に窒素が溜まった状態はダメなんです。深ければ早く、浅ければゆっくり窒素は溜まります。その兼ね合いでいつまでも潜ってられないの。だから、空気がたくさん残っていようがこの理由でダイビング時間の計画が立てられるんです。
③水温・・・実は浅いところでダイビングしていると②残中窒素が限界まで行くまでには3時間以上かかったりします。そして、浅いところで呼吸をしているとベテランダイバーになると空気の消費量がとても少ないので①の空気の残量が足りなくなることもめったにない。実は、一番きついのはこれ、水温。サイパンの水温は年間通して27℃~33℃ほどありますが、2時間も連続でダイビングをしていたら、かなりの保温スーツを着ていないと指先がしびれてきたり、低体温症寸前まで行くような事態になります。
話は伏龍に戻しますが、伏龍の配備予定地は日本全国各地予定されていたようですが、サイパンの水温よりは確実に低い。5時間も水中にジッとしていたら、きっと凍えるような寒さになるでしょう。装備を見ても特別保温性に特化しているようには見えなかったので、保温に関しては戦闘時における気持ちの高揚やアドレナリンのような脳内麻薬に頼っていたのかもしれませんね。実際の麻薬が使われていた可能性もありますね。これはあくまでワタシの想像ですが。
水中における保温は基本的には空気の断熱層があればよいのです。空気の断熱層とは海水と自分との間に空気があるという状態。ウェットスーツは空気の断熱層をもった布です。断面図を想像してみてください。空気の粒々があるでしょう?だから厚いウェットスーツは温かいけど、空気がたくさん入ってるから浮くのです。だから、ウェイト(鉛の玉)がより多く必要なのです。ドライスーツと呼ばれるものは各首(首、手首、足首)をシールドして全く水が入ってきません。内部にはもちろん空気がはいっているんだけど、その分さらにウェイトが必要です。
5時間の潜水を想定していた保温性が考えられていたとすれば、相当なウェイトを持っていたと考えられます。自由に動き回るということは難しそうですね。
さらに、伏龍が自由に動き回れなかった理由は、長い棒機雷を操作する必要があったから。
当初は5mの機雷棒が想定されてたんだって。水の抵抗がある中で5mのモノを持ち上げるって相当な力が支点(自分)にかかるよね。機雷棒がどういう素材だったのかはわからないんだけど、もし機雷棒がシナラナイ必要があれば、相当重い素材でしょう。
今度、もし機会があって水中の流木なんかを見つけたらちょっと持ち上げてみて。思ったよりビクともしないから。
ま、そういう理由から5mの機雷棒も結局2mにされたらしいです。でも、結局支点に大きな力がかかるのは必至なので、潜水服の重量は68キロから80キロだったそうです。足には鉛のワラジ。フィンではありません。
これでは自力で動くことはできませんね。
2mの機雷棒の待機限界水深は4mです。水深4mで上陸用舟艇が頭上を通るのをひたすらにまつ5時間。
サイパンのインリーフをダイビングしたことのある方はちょっと想像してみて。あそこの水深は平均10m弱。それの半分以下の水深の場所に(もちろん透明度なんてほぼゼロ)自力で動くことのできない状態で5時間待つのです。
海は道路があるわけではないので、自分の真上を上陸用舟艇が通る確率は・・・。
そして、この作戦が遂行されるということは本土決戦の状態。万が一、作戦が成功して2mの機雷棒をすごい確率を乗り越えて自分の頭上をとおる上陸用舟艇に命中させたとしても爆発に巻き込まれて死。待機していて頭上を上陸用舟艇が通ってくれなかったとしたら、きっと陸はすでに戦闘状態。自分を迎えに来てくれる部隊はないでしょう。そこにまっているのは時間切れによる死。
考えれが考えるほど何故この部隊が配備されたのかの答えは見つけられず、終戦間近の軍会議がいかに機能していなかったのかということだけがひしひしと伝わってきます。
1945年の3月末に試作品ができて、10月には配備を予定していたこの伏龍。8月に終戦を迎えたため実戦に投入されることはなかったようです。
記録上では訓練中に10名の殉職者があるようですが、きっと本当はちがうんだろうな。
今年の夏、水中特攻伏龍隊の存在を知ることができたのでそのことについて考えたことを書き留めました。もし、知らなかった人がいたら知ってほしいなと思いました。
戦争にはそれぞれの正義があると思っているので、そこに関しては一言では言えないんだけれど、ワタシがひとつだけ一言でいうことができるのは
ワタシは戦争は嫌いです。
♢♢♢おわり♢♢♢
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。このブログは3月末からコロナウィルスの感染拡大防止のために入国制限をしたサイパン島に住むダイビングインストラクターのAKARIが収入ゼロ5か月目にして、ブログで生活費を稼ぐまで書き続けていこうと始めたものです。一体どうやったら生活費を稼ぐことができるのかの糸口がまだつかめていませんが、読んでいただけたら幸いです。