i. そこでことばがうまれる。
リトルプレス『ありふれたくじら Vol.6』の刊行記念として、この一冊を読む・観る・語る、オンライン・プレスを始めます。
「そこでことばがうまれる。」という名のマガジンです。
2016年に『Ordinary Whales / ありふれたくじら』というリトルプレスを作りはじめて、今年、2020年8月に6号目を発行しました。「ひとつの土地一冊の本」をめざしながら、鯨の話を探して訪れた土地の物語を、刺繍の挿絵とともに纏めてきた小冊子のシリーズです。最新号となる『ありふれたくじら Vol.6』は、アメリカ合衆国ニューヨーク州ロングアイランドの先住民シネコックと鯨の結びつきを尋ねて歩いた旅の記録です。
私がロングアイランドを最後に訪れてから、約1年が過ぎました。急激な変化の年となった2020年前半の半年間は、私も家に篭る時間が多くなりました。『ありふれたくじら Vol.6』はこの日々に集中的に執筆と翻訳、刺繍の制作をすすめて完成しました。
文章を書き刺繍の挿絵を縫いながら考えていたのは、風景からことばや物語がうまれる瞬間のことです。『ありふれたくじら Vol.6』で紹介する鯨の話のひとつに、シネコックの人々がかつてどのようにして鯨を手に入れたかという伝承に触れる場面があります。
「ある島に、赤い砂の崖がある。昔、人々とともに暮らしていた巨人が海で鯨を掴んで崖に叩きつけた、その血の色だという。そうして巨人が殺した鯨が人々にもたらされた。」
この話を聞いた時、私はまだ訪れたことのないその島の、血のように赤い砂の崖を強く思い浮かべました。「石の多い浜の人々」という意味の名の、シネコック。元々は「亀の島」と呼ばれてきた北米大陸。地図の上では英語の地名ばかりが知られるようになっても、物語は土地の古い記憶を結びつけていきます。その時、風景は知らなかった姿を見せます。物語とは、誰かの眼差しで世界を見る窓であり、時の隔たりも超えてそこにいた誰かに出会わせてくれるのかもしれません。
これから『ありふれたくじら Vol.6』と出会う人たちは、どんな風景を見てきて、どんな風景を見ていくのだろう。海を旅してきた人、本をつくり届ける人たち、ことばを紡ぎうみだす人たちと、それぞれの場所で「そこでことばがうまれる」ときのことを話してみたい、と思いました。
いくつもの窓を開いていくような刊行記念企画です。
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企画・編集 是恒さくら
写真撮影(作品撮影) 根岸功
助成 公益財団法人仙台市市民文化事業団
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