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のびのび

「のびのび」
2024年(大学3年生)
トチ カリン

私実は…研磨作業が得意なんです。
高校の頃課題で初めて磨いたあの日に才能に気づいてしまったんですね。

基本的にはなんにも得意ではなくて、なんとかするぞ!と思い立ったら努力でなんとかしてきた人生ですが、研磨作業と羊毛フェルトと卓球だけは何故か初めから得意でした。なぜ……?
ちなみに私はスポーツ全般が好きではないため卓球に関してはただ初期値が高かっただけの人に成り果てました。温泉旅館でちょっとやるくらいが一番楽しいですからね。

脱線しました。
さて今回の課題はハンドスカルプチャー。
ハンドスカルプチャーとは触覚的に「なんかいい形」を作る課題のことを指します。
手に馴染む形には研磨が必要不可欠。私が密かにずっと楽しみにしていた課題です。

実はこの課題を楽しみにしているのとは別に、いつかナメクジかウミウシをモチーフにしてみたいという願望がずっとありました。
大学に入ってから3年間ヤスリを解禁された木の課題が来ず、磨いて良い課題が来たらやろうと思っていたのです。
ついにこの時が来た!

モチーフは定まりました。「なんかいい形」、収まりの良い形を作るには柔らかい油粘土でマケットを作ってみるのが得策です。そこで出来たのがこちら。

マケットでは手に収まる形になるよう何度もこねくり回します。
・手の収まり
・モチーフに近づける
・手が触れない部分の装飾
の3点に気をつけてみました。
正直粘土よりも木の方が上手く扱えるためあまり造形にこだわりすぎないのが私流です。

これと同時に使う木材も選びます。
木材は磨けば磨くほど木目が綺麗に現れる素材です。
せっかくならば視覚的にも楽しめるものにしたいに決まっています。
工房内を探検していると、奇妙な木目を持つ木に出会いました。
木目に規則性がなく人によっては「気持ち悪い」とさえ思えるような木でした。
ヤスリを解禁された私に怖いものはありません。仮に彫りを失敗したとて仕上げでいくらでもリカバリーが効きます。
そもそも手のひらサイズの作品は1番の得意分野。そこまで大きな失敗なんてそうそうしません。
けれど作品はどれも大切な子供のような存在。軽率な判断によるミスなんてしたくはありません。
きちんと試し彫りと試し磨きもしました。うん、やっぱりピッタリです。

問題はその木材が小さかったこと。一見平たく見えるこのウミウシも、実際に作ろうとするとそれなりに厚みがあります。
こんな時は「積層」に限ります。
積層とは複数の木材を万力やプレス機を使って圧着させた作品のことを指します。今回は先生に頼んで別校舎にある、先述したような不気味な木を取り寄せていただきました。

この不気味な木の正体はズバリ!コブ!
木の根元や枝が生えているところがボコボコしている木、ありますよね。
そこです。ちょうどその部分がこのような不思議な木目を持っているのです。
今回選ばれたコブはトチとカリン。どちらも不気味という共通点はあるものの、系統の違う不規則さを放っています。
この2つの良さを最大限に活かすにはどうくっつけるべきか…じっくり悩んだ結果が…こちら!

削った時に赤みのある部分が表に出るようにこの合わせにしてみました。
木彫の楽しみのひとつに「どんな木目が出てくるか」というものがあります。
表と裏から多少は予測できるものの、完成した面に出てくる模様は誰にも分かりません。素敵な模様になることを願いながらプレス機にセットしました。

プレス機に入れて一晩寝かせたらいよいよ彫刻に入ります。
やはりコブの木目は厄介でした!

木には順目(ならいめ)、逆目(さかめ)、木口(こぐち)というものがあります。
木の表面は鮫肌のように彫る方向によって全く質感が違います。正しい方向に彫れば表面がつるつる…紙やすりの240~400番くらいには綺麗に仕上がります。反対に、向きを間違えるとどうもガサついてしまったり、最悪の場合割れてしまいます。
この綺麗に仕上がる向きを順目、割れてしまう方を逆目といいます。
またいわゆる切り株になる、年輪が綺麗に見える面のことを木口といいます。
木口は桁違いに硬く、細かい作業は向いていません。この木口と垂直関係の位置に順目逆目が存在しているため、木彫では木材にどう作品を納めるかがかなり大切だったりします。

今回の木材は2種類ともコブ…つまりひとつの面に木口が大量にあるのです。向きを変えると順目逆目も入り乱れていました。
幸い私は肌感で木目を読み取るのが得意な方なので、刃物をきちんと研ぎつつ丁寧に進めれば大して問題ではなかったのですが、苦手な人はとんでもないストレスになっていたに違いありません。
多少の失敗は後の工程でなんとかできると思っていたのも大きかったのだと思います。
こうしてできたのがこちら!

まだ歪さが残りますね。
上の木の模様がもう少し出ると思っていたのですが…なんでもかんでも思い通りにならないところも木彫の魅力のひとつですね。
この段階ではまだ大まかな形と、ざっくりとしたフィット感までしか作り込めていませんでした。正面の赤みのある部分もまだ直線的です。

ここから全体の磨きと私の手との微調整を加えた結果…

こうなります。

かわいい〜!

光沢が出ましたね!なんだか木目もグッと近づいた気がします!
ここまでに使用したのは紙やすりを120~1500番、バフ、蜜蝋です。
バフと蜜蝋は初めてでした!磨くのが大好きな者としては良いものを知ってしまった!という気持ちです。
晴れてバフも老後までには欲しい機械シリーズの仲間入りです。
今のところバンドソー、ベルトサンダー、バフ、電動ドライバーあたりが有力です。ドライバーあたりはお金が溜まり次第お迎えしたいところです…

仕上げまでのこだわりとしては
・表面をペカペカに!
・形を無視しない!
・所々エッジを効かせる!
・直線をなくして視覚的にも面白くする!
・手に馴染むように!
この5点を意識し続けていました。

結果、見ての通り上手くいきました!!!
やった〜!!!

撮影協力:工房の友人たち

持つならこう。
マウスを持つように右手で包み込むと良い感じです。
私くらいの手なら程よいフィット感があります。
(150後半〜160前半くらいの女性の手)
展示では基本触れることは許可しかねますが、あぁ持ちやすそうだなと思いながら見ていただけたらと思います。

この写真だと分かりやすいのですが、裏面の木目…
すごくないですか?!自然特有の不気味さがあってお気に入りです。
なんとなくスッキリする形を目指した結果、裏面が緩やかながらなかなか複雑な曲線を描くことになり、魅力がまたひとつ増してしまいました!

展示の際は磨いた鋼板や鏡など、うっすらだけでも裏面が分かる様にすることをここに約束します。裏面までしっかりとチェックしてみてくださいね!

最後に完成の際に撮った写真たちも添えておきます。
この写真をTwitter(X)に掲載した際に「生きているみたい!」とのお声をいただきました。
私の密かな夢のひとつに「架空の生き物を生きているかの様に存在させたい」というものがあります。私の美大生として、クリエイターとしての真髄となる夢です。
私自身はもちろん生物として作品を愛しています。ですがそれはただの空想に過ぎません。身内以外の第三者が「生きている」と思って初めてこの夢は一歩を踏み出します。
その一歩を踏み出せたのがこの作品です。
得意な素材、得意な技法を使ったこの作品でスタート地点に立てたのがたまらなく嬉しくて、誇りに思っています。
この日掴んだ感動が逃げないうちに、私は作品を作り続けます。
その努力の過程を今後とも見守っていただけたら幸いです。
頑張り続けるよーーーーー!!!!!!

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