〈小さい農〉を目指す
目指す〈農〉のカタチを言葉にする。
それが、このnoteの目的です。
自己紹介欄には、ひとまず次のように書いてみました。
【おいしいお野菜を育む畑は、〈暮らしの学び場〉。
地球を労り、自分をだいじにし、ちがう誰かと共に生きる。
そのための知恵と術を培う場所に、きっとなる。】
ここには、いくつかの想いや問題意識を込めています。
それらについて、これから一つひとつ書いてみようと思うのですが、果たしてどこから手をつけたものやら…。
でもやっぱり、まずは一番基本的なところから始めることにします。
それは〈小さい農〉について、です。
1. 〈小さい農〉って?
ぼくはこの言葉に出会って初めて、〈農〉をなりわいにすることに希望を感じることができました。
昨今の「移住」ブームや「農ある暮らし」への注目という流れの中で、〈小さい農〉という言葉も、少しずつ人口に膾炙するようになっているようです。
とはいえ、それが表す内容や範囲は、人や場合によってさまざまです。
たんに営農規模の小さい農業(農家)を指すこともあれば、プロとしての農業ではない家庭菜園や市民農園での農作業、ベランダ菜園まで含む場合もあるようです。
もちろん、こうしたグラデーションのある多彩な〈農〉を表現できるのが、この言葉のいいところだと思います。
では、ぼくはこの言葉でどんな〈農〉をイメージしているかというと、おおむね以下のとおりです。
① じぶん一人で営農できるサイズの畑で、多品目少量栽培に取り組む、小さい農家。
② 育てたお野菜を「食べる人」(消費者)に直接届ける、独立農家。
③ じぶんが暮らしていくための「なりわい」としての〈農〉。規模の拡大は目指さない。
収益は、あくまでも暮らしの必要を満たし、「目指す〈農〉のカタチ」を実現するのに必要な水準で足れりとする、ということです。
こうしたスタイルや考え方の基本は、「日本一小さい農家」西田栄喜さん(通称、源さん)に多くを学んでいます。
2. 「日本一小さい農家」源さんを知った衝撃
源さんは、石川県能美市で30a(3000平米)の農園「菜園生活 風来」を、ほぼご自分とお連れ合いだけで切り盛りし、「日本一小さい農家」を掲げてアイデア溢れる営農を続けておられる、凄腕の独立農家です。
新規就農や起農に関心を持つ人なら、おそらく知らない人はいないのではないでしょうか。
★西田栄喜さん(源さん)の農園「菜園生活 風来」↓
ぼくが源さんを知ったのは、2冊のご著書を通じてでした。
〈農〉をなりわいにできないものか…と思っていた一昨年(2023年)、よく行く本屋さんの棚にその本を見つけました。
タイトルにある「小さい農業」や「日本一小さい農家」というワードに惹かれました。
読んだ感想は、大げさでもなんでもなく「衝撃」の一言でした。
なにしろ、源さんは初期投資額143万円、行政の補助金ももらわず、いっさい借金もせずに起農したというのですから!
それまでぼくは漠然と、農業を始めるにはやっぱり広い農地と大きな農業機械や施設などが必要なんだろうな、と思っていました。じっさい少し調べると、“ゼロから起農するにはまず1000万円、稲作ならその倍”という一般論に行き当たります。こうなると、ぼくのような人間には到底手の出せる世界とは思えませんでした。
しかし源さんの営農スタイルは、その思い込みをみごとに覆してくれるものでした。
3. 〈小さい農〉なら、もしかしたら…
2冊を読み終えたぼくは、すぐさま源さんの農園のホームページ経由でご連絡をし、ぜひ農園を見学させてくださいとお願いしました。
源さんは快く受け入れてくださり、一昨年の11月、ぼくは能美市にある農園「風来」を訪うことができたのでした。
あたたかく迎えてくださった源さんは、お忙しい作業の手を止めて、予定の時間をオーバーしてさまざまなお話を聞かせてくださり、また、ぼくの現状や想いに耳を傾けて、たくさんのアドバイスもくださいました。
もちろん、30aの畑も見学させていただき、1人で営農する規模というものを、肌身で感じることができたのは、ほんとうにありがたいことでした。
本だけでなく、じっさいに農園を拝見してお話を伺うと、源さんの〈小さい農〉は、そのアイデアやバイタリティがあってこそ実現しえたものだということがよく分かりました。
いま改めて肝に銘じるのは、決して「誰でも簡単にやれる」というような易しいものではない、ということです。
それでも、やり方次第では、資金力がなくても魅力的な起農はできるんだ!と示していただいたことで、がぜん元気が湧いてきました。
4. 農業は「手段」、目的は「幸せになること」
源さんに学ぶことは、本当にたくさんあります。
長い営農経験の中で培われた知恵やノウハウを惜しみなく開陳してくれるその著書は、これからの歩みのなかで繰り返し読み、そのつど気づきと学びを得ることになるのはまちがいありません。
逆に言うと、まだ何も始まっていないじぶんにとっては、その意味がわかるのは、きっともっと先のことなのだろうと思います。
それでも、出発点の今だからこそ、胸に刻むべきことを三つ、書き留めておきます。
① 農業は「手段」、目的は「幸せになること」。
これは源さんがその著書の冒頭に掲げていることです(『農で1200万円!』2頁)。
これをいちばん大事にできる源さんは、とてもすてきだと直感しました。
もちろん、これをほんとうに実現するのは、口で言うほど簡単なことではないだろうと想像します。そのための知恵や工夫が必要です。
② 「売上基準金額」という発想
その知恵のひとつとして、源さんが提唱するのは「売上基準金額」という考え方です。
ふつうどんな分野のビジネスでも、掲げるのは「売上【目標】金額」です。その目標は、上回れば上回るほど「良い」ものです。
ところが、「売上基準金額」の考え方はちがいます。ある水準に「基準」を設定し、その±5%以内に売上をもっていく、そして、それより下回ったときだけでなく、上回った場合にも反省する、というのです。
そこには、家族との時間やじぶんのための時間をだいじにしながら心豊かに過ごす「暮らし」こそ大切にしたい、という価値観があります。
これこそ「なりわい」としての〈農〉です。
こういう〈農〉が、やりたいのです。
③ 畑は「舞台」
もうひとつ、いったいどんな〈農〉を目指すのかをめぐって、ビビッと来たのはこの言葉です。
これ、ワクワクしませんか?
お野菜を育てて、誰かに食べてもらうこと。
もちろん、それが基本です。
そして、それを実現するだけでも大変なことでしょうし、それができたらとても幸せなことだと思います。
でも、〈農〉は畑は、もっともっと豊かな可能性にあふれている気がするのです。
いろいろ学ぶなかで、今ぼくの頭の中に巡っているのは、「畑を舞台に、できること」のあれこれ、です。
次回以降、そのあたりを今あるアイデア(妄想に近い)とともに、言葉にしてみたいと思います。