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するべきことは何ひとつ

するべきことが何ひとつ終わらない休日だった。

眠りにつく前からどうしても本屋に行きたくてうずうずしていたわたしは、早めにかけたアラームと二度寝と戦いながら眠い目を擦って、ぐうぐう鳴るおなかを無視して家を飛び出した。

あたたかい光を灯す本屋をうきうきしながら物色する。今日は買うぞ!と思った日に限ってほしい本が見つからなかったりするのだけれど、この本屋はいつもわたしの心ど真ん中な陳列をしている。


冬が好きだった。
空気が澄んでいて夜が長い。星も綺麗に見えるしキンと冷えた空気を吸い込むたび、わたしは高校生の朝を思い出す。

高校生の頃、朝が苦手なわたしは(もとい夜ふかしをしてばかりで起きれなかっただけだが)いつも母に起こされ、寝ぼけたままだされた朝食をたいらげて、母の運転する車に乗せられて最寄り駅まで向かっていた。

いつまでも起きられないわたしのために車の中で食べんさい、間に合わんよ、と母と朝食とともに車に乗り込んだ朝も一度や二度ではない。

冬の朝、冬の朝は白い。
ついでに吐く息も白い。

そういう冬の朝はキンとしていて寝ぼけてばかりのわたしの目を覚ます。憂鬱な眠い朝が一転して、すっと心が軽くなるような気がする。朝、空を見上げて空気を吸い込むわたしに母が「早く乗りんさい」と声をかける。わたしの好きな冬は、16歳だった時のそういう心持ちからきているのだと思う。

本屋さんでいろんな本や漫画に目を奪われているうちに、目的の漫画を見つけることもできず、以前買い損ねた漫画を1冊だけ手に取った。

静かな店内、レジを済ませるまでの間におなかの音が店員さんに聞こえてしまわないか不安だった。

本屋を出る頃にはすっかりもう一軒本屋をハシゴする気になっていた。おしゃれなど気にせず部屋着にコートとスヌードをかぶって暖かくしてきたので、ずんずんと冷えた空気の中を歩く。

道途中、男の子が通りすがりのマンションから出てきた。足取りが早くわたしの方が先に歩いていたのに、いつのまにかもうあんなところまで歩いている。

進行方向が一緒だったので彼の香水の匂いをたどりながら歩く。そうか、今日ってクリスマスイブだった。

誰かを迎えに行くんだろうか、これから暖かい夜を過ごすんだろうか、いいね、わたしもこれから両手いっぱい本を抱えて温かいコーヒーを飲みながら読むんですよ、お互いいい夜にしようね、などと心の中で声をかける。

わたしが冬を好きな理由にはもうひとつあって、それはクリスマスからお正月にかけての浮かれた雰囲気だと思う。

中高生時代はキリスト教の学校に通っていたので、わたしにとってクリスマスは大きなイベントだった。揺れるキャンドル、教室に置かれたアドベントカレンダー、ホールに響くハレルヤの合唱、そしてパイプオルガンの音。

東京に来てからひとりで街を歩くようになって、今度はきらきらとしたイルミネーションやクリスマス仕様に飾られた雑貨屋を見ると嬉しくなった。

綺麗で明るい街、美しい季節。
クリスマスのいいところは綺麗なものが街の至る所に増えるところだ。

結局2軒目の本屋でもほしい漫画は見つけられなかった。見つけられなかったはずなのにあれよあれよと手に取るうちに、お会計は1万円になっていた。

買うぞ!と意気込んだ日に限って服も本も買えないと言うのがわたしの持論だけど、今日に限ってはそんな持論も通らない。クリスマスイブですし。

帰り道、両手にたくさんの本や漫画を抱えながら歩く。おなかが空腹を訴えていて、何を食べようかなと考える。

マック寄っちゃう?なんかジャンクなものが食べたいな、おなかが空いているという時に帰って調理をするのは待ちきれない。ていうかクリスマスだし。

わたしには何の関係もないクリスマスを理由に好き放題しようと考えていたのだけれど、ふと冷凍庫に買ってある餃子を思い出した。

そうだ!餃子があったんだ!
あれを焼いて食べよう。本当はお米も炊きたいところだがそんなものは待ってられない。冷凍しているお米でいいや。

帰っていの1番に餃子を焼く。
冷凍餃子のおいしさにわたしは本当に感謝している。こんな簡単に焼けてすぐにできて、しかもおいしい。

すっかり満たされてあったかい部屋でうつらうつらしながら買ったばかりの漫画や本を読む。

湯たんぽを抱えながら布団に潜り込み、コーヒーを啜りながらページをめくる。

計画的に生きるのが下手くそなので、年末は考えることが多くて毎年ドタバタとしている。来週からもわたしは大騒ぎして、最後までドタバタしながら実家に帰るだろう。

師走だからねえ、何てったって。師も走る季節ですよ。なんて、ドタバタしていてもそんなことを言ってたら元気が出てきてしまう。

Instagramに載せた本を見た友人から本の貸し借りをしよう、という誘いのメッセージが届く。読んでよかった本、読みたい本の貸し借りができる友人の尊さたるや!

するべきことは何ひとつ終わらない休日だった。

それでも冬。
クリスマスだから、こんな休日があってもいい。

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