日記1・法律と手術
先週、タイでの性別適合手術のアテンドを生業としているトランスジェンダー男性の井上健人さんの講演会を聞きに行ってきました。
性別適合手術とは、乳房や生殖腺の切除や外陰部の形成など、外科手術による性別移行全般のことです。
戸籍上の性別のためだった手術が減った
最近では保険適応できるようになったことで、国内でも手術事例は増えつつありますが、基本的には自費診療のため、手術例が多く、安全で安価なタイでの手術をする人が多数を占めていました。その手術旅行の手配全般をサポート、アテンドを生業としているのが、G‐pitの井上さんです。
余談ですが…2023年の大法廷で違憲判断が示されるまで、戸籍上の性別を変更するためには、生殖腺の切除が必須でした。すでに自認する性別で周りとの軋轢なく暮らしている当事者でも、戸籍変更のためには、手術は必須でした。国から手術が必須とされているのに、保険が効かなかったというのも、なんだか変な話です。
なお、現在でも保険を適応させるには条件があったり、そもそも手術ができる病院が限られていたりと、当事者たちにとってタイでの手術は身近な選択肢です。
講演は主に井上さんの来歴を伺うもので、性別適合手術そのものの説明はあっさりとしていました。しかし、昨年の違憲判断以降、生殖腺の切除の手術はしない人も増えたそうです。
トランスジェンダー男性は、生殖腺を残したまま、つまり子宮卵巣を残したまま男性への戸籍変更が認められるようになったからだと考えられます。
(但し、「変更後の性別の性器に似た外観を備えている」であることが求められる「外観要件」のため、女性から男性への戸籍変更をする場合には、今も実質的に生殖腺の切除は戸籍変更に必須条件になっています。)
正直なところ、私はうれしく感じました。
なぜなら、私は生殖腺を切除する性別適合手術を受けたくないと思っていたからです。
手術をしたくないからトランスじゃない?
私にとって子宮や卵巣は、他の臓器と同じように、健康に生きるための体の1パーツでしかありません。その臓器に女性性を感じることはないのです。
戸籍変更をするためにタイに行って手術をする人などのドキュメンタリーを見ては、
「自分の臓器を取りたいと思えるほど、強烈な違和感がないと、性同一性障害でもトランスジェンダーでもないんだな…」
と、自分は女をこじらせてるだけなのだ、と自分の性別への違和感を常に否定してきたからです。
もちろん、生殖腺を取りたいという人はいるでしょう。井上さんも数は減ったとは言っていましたが、ゼロになったわけではないようでした。
それでも条件が整えば喜んで受けたはず
生理があることが強烈に嫌だと思う人や、外性器が目に入るだけで耐えられないなど、様々な人がいます。先ほど、私は臓器を取ることに抵抗がある、と書きましたが、私でも、最初からなければ、絶対にその方がいいと感じます。女性の臓器があり、女性の体をしている自分の体を決して好きにはなれないでしょう。
自認する性別と異なるこの体は、私から生きる力を簡単に奪っていきます。手術することに恐怖と不安を抱きながらも、私にもし結婚したいと思える女性がいたならば…その人のために、タイで手術をし、戸籍変更をしていたと思います。
男女どちらでもないノンバイナリーだというアイデンティティの人でも、生殖腺を切除した人もいます。
自分の体とどう向き合うかは、そもそも向き合える状況にあるかも、人それぞれです。
ただ、法律によって選択の余地なく、戸籍変更のためだけに生殖腺を切除しなくてはならない、ということはなくなりつつあるのだと、少し希望を感じれました。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?