金曜日のショートショート05
お題「キャンセル」
タイトル「申告は良心に従い正直にお願い致します」
パソコン画面の予約取り消しボタンの下にある、ずらっと並ぶ理由(必須)を見ながら頭を抱えた。
注意書きには『申告は良心に従い正直にお願い致します』とある。
今回取り消そうというのは一泊二日の温泉旅館。
無断キャンセル、前日にキャンセルが相次ぐことが社会問題化し、今はキャンセルする場合事細かにその理由を聞かれる。
その内容によっては店側も改善点が見つかること、事細かに理由を入れないとキャンセルすら出来ない世知辛い世の中だ。
昔は前日ならホテルだとゼロ、旅館でも半額負担で済んだらしい。
理由を書くのも必須では無かったなんて羨ましいが、先人達が身勝手にキャンセルしまくるのでこうなった点は大いに反省して頂きたい。
キャンセル理由欄には、熱を出した、それも家族なのか本人なのか、仕事のキャンセルではいつそれを言われてキャンセルせざるを得なかったかまで書かされる。
そして一番嫌なのが、カップルで予約した場合に並ぶ理由欄。
同行者が仕事、同行者に恋人が出来た、こっぴどく振られたなどと、どう考えてもプライバシー保護を逸脱した内容が並ぶ。
そして私の今回のキャンセル理由は、彼氏に振られた、だ。決してこっぴどくではない。
まぁ相手に女の影があるのは気づいていた。
それにあたりそうな理由欄にチェックを入れれば、私は全てに負けたみたいじゃないか。
とりあえず、急な仕事のため行けなくなった、という所にチェックを入れ送信ボタンを押す。
『虚偽報告の為キャンセル出来ません』
という赤い太文字で出て、私は、はぁ?!と大きな声を出す。
別に無職じゃなし、なぜそれを虚偽だと判断したのか。
私は腹を立てて次の理由欄、『親族の葬式に参加するため(2親等内)』にチェックをしボタンを押す。
『どなたも亡くなっていないためキャンセル出来ません』
「確かにみんな生きてるけども!」
私は画面にツッコミを入れて苛立っていた。
こうなれば勝負だ。絶対に負けるもんか!
上から次々に理由欄にチェックして、その度にAIから理由付きでキャンセルを断られ、私は核心部分じゃ無いが、押したくない理由のところで動きを止める。
出来ればここも押したくない。こんなピンポイントな理由知られるのは乙女として嫌だ。
だが恋人に振られたよりはと、心の中の天秤が左右に揺れ続け、私はえぇいままよとチェックして目を瞑ると送信ボタンを押した。
送信完了の、ピロン、という音がしないため目を開け画面を見れば『確認中』という初めての文字。
そして
『キャンセルが完了しました』
という文字に大きな息を吐いた。成功した、頑張った、自分。
そして次に文字が青色で表示された。
『お気持ちはお察しします。痩せて振った男を見返しましょう』
「ふざけんな!!」
私はクッションをその画面に投げつけた。
私が押した理由は以下の通りである。
『体重が2キロ増え、出っ張ったお腹を彼に見せたくない』
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