インクルーシブ教育の現場を訪ねて
【インクルーシブ教育の実践の現場へ】
昨年、世田谷区議会文教常任委員会で、豊中市立南桜塚小学校を視察した。橋本校長をはじめとして、教育委員会事務局の方のお話をお聞きし、校内を案内していただき子どもたちの様子を見学させていただいた。
テレビなどで知っていた全盲の子やクラスメイトたち、医療的ケアが必要な子どもやダウン症や発達障害など配慮を要する子どもたちが一緒に授業を受けていた。障害のあるなしに関わらず、どのクラスでも共に学ぶ教育の実践が行われていた。教室をのぞくと、ある子は、先生の隣の席がお気に入り。その席に座って落ち着くと自分の席に戻る。ふと見ると机の下に潜っている子がいたりと、賑やかだ。
一緒に行った視察メンバーのうち、当時の教育長や教育総合センター長は校長経験者でもあることから、クラス内のざわざわした様子を見て「世田谷だったら保護者からクレームがくるね」と話していた。
1971年に策定された豊中市同和教育基本方針の中で「障害児教育」への言及があり、それが基となって、分ける教育は差別にあたると、共に学ぶ=インクルーシブな教育の実践が始まったとお聞きした。50年来の取り組みだ。この話を聞いて世田谷区教育委員会や委員メンバーは思うのだ。「50年の取り組みがあってこその今の教育だ」と。世田谷区はその下地がまだまだないから、ここまでのことをしなくても大丈夫、とでも言いたいのか。私は失望を隠すことが出来なかった。この点についてはまた別に書いていきたいと思う。
【再び、インクルーシブ教育を実践する学校へ】
インクルーシブ教育の現場を見て、実現している学校もあるんだと、実感を持って提案をしたい。一年に一度は基本に戻りたい。そう思って、豊中市の南桜塚小学校を再び訪問した。今年は、芦屋市立精道小学校にも足を伸ばした。両校とも校長からお話を聞き、芦屋市では教育長をはじめとして教育委員会の方々に、豊中市も教育委員会の方にお時間を作っていただいた。校内を歩き子どもの様子、授業の様子を見ると、「子どもが主役」の学校になっていることがわかる。共通しているのは、どの子どもにとっても学校全体が居場所であり学びの場になっていることだ。
南桜塚小学校で校内を歩いていると、子どもから「校長先生はね、親切だよ、気がきく」と話しかけられた。橋本校長は「褒めてくれたん?」と嬉しそうに返した。橋本校長は一人一人の子どもたちのことをよく知っている。だから校長のことも子どもたちは知っているんだな、と感じる。
【ゴキブリ博士の特別なスペース】
「この子は、ゴキブリが大好きでゴキブリを持って学校に来るんです」。普通、ゴキブリ持参で登校したら「絶対持ってきちゃダメ!」となるのだろうが、そこはインクルーシブ。ゴキブリが大好きという気持ちを排除しない方法を考える。でも、ゴキブリが嫌な子どももいるわけでは、どちらの気持ちも大切だ。そこで、担任はゴキブリが大好きな子のゴキブリのために、廊下の隅っこにスペースを作った。学校に来たらそこにゴキブリを入れておく。もしもゴキブリを排除したら、その子は学校に来るのが「しんどい」状態になるかもしれない。この、「しんどい」というのがキーワードだ。
ちなみに、その子はゴキブリの種類を見分けることが出来るしとても詳しい。「ゴキブリ博士」は、誰も排除しない包摂された学校環境だから誕生した。ここのところも、とても大切だ。
【「しんどい」のは障害がある子どもだけじゃない】
芦屋市も豊中市も、医療的ケア児もダウン症の子も発達障害の子も外国がルーツの子など「しんどい」ことを抱えやすい子どもたちが普通学級に在籍している。特別支援学級に籍はあっても、学校生活は普通学級で送る。
精道小学校では、校内を歩いていると特別支援教育コーディネーターの方々が歩き回っていて、神出鬼没、あちらで会ったのにまたこちらでも。子どもたちの状況を見ながら必要なサポートを行っている。何度も出会ったのも印象的だったけれども、木下校長も私と話しながらも子どもたちに気を配っているのがわかる。
子どもは誰でも「しんどい」ことを抱えるかもしれない。もしも教室にいることが「しんどく」なったら、校長室に行ったり廊下を歩いたり廊下の椅子に座ったり、何もしていなかったりプリントをやったり本を読んだりと様々だ。その子がどこにいるのが好きで安心か、を先生たちは把握している。だからいつもと様子が違えばすぐに気がつくことができrのではないか、と感じた。
南桜塚小学校でも精道学校でも、「しんどい」子を放っておかない。支援は特定の子どものためのものではない。どの子どもも包み込むことが出来る教育、インクルーシブ教育は障害があるかないかなどに関わらず、すべての子どものための教育なのだ。
*写真は、精道小学校の給食。芦屋市はおいしい給食で有名。何十年ぶりに頂いた給食は、とても美味しかったです。