第2回定例会代表質問 (2023年6月14日原稿全文)
1、これからの区政運営について
前期は、新型コロナウイルス対策に加え、ロシアによるウクライナ侵攻の影響などから物価高への対応を求められるなど課題が多く、これまでになく臨機応変な対応が求められました。いまだコロナ対応は予断を許さない状況ですが、コロナ以前の生活に徐々に戻りつつあります。今年の春闘では、30年ぶりに賃金の上昇が示されましたが、その効果は一部にとどまっています。中小企業や非正規雇用の賃金の上昇への期待は薄く、労働者間の賃金や労働環境の格差が広がることへの懸念は続いています。今後、さらに食品、光熱費等の物価引き上げやインボイス制度導入による区民生活への影響が予想されています。賃金の引き上げと個人事業主、フリーランス、中小企業支援を一層強めることが求められます。
例えば、公契約条例は、労働報酬下限額の引き上げのみが条例の目的ではありません。賃金の引き上げにとどまらない労働環境の改善に寄与することも重要です。さらに、公契約条例の効果が全領域に行き渡っていない点も含めて今後の取り組み強化が求められます。
4月には、「子ども家庭庁」が設置され、少子化対策を視野に入れた子育て世帯への支援策強化が示されました。しかし、果たしてこれが少子化対策として効果があるのか、少子化問題の根本からズレているのではないかという疑問の声が大きいのが現状です。
求められるのは、セクシュアリティ、障害の有無、年齢、国籍、などの違いにかかわらず、どのような背景があっても一人一人の命、生き方、人権が大切にされる社会への歩みです。
①「いのちの政治」「参加と協働」「教育改革」などを掲げ保坂区長は4期目のスタートを切りました。今期、取り組みを強める区政の課題として、子どもの権利の視点に立った学校給食の完全無償化など義務教育無償化に向けた検討や区民生活を支え働く人の人権を守るための労働・経済政策の推進など、多岐にわたる政策が求められます。新しい任期(4期目)における保坂区長の区政運営に対する決意をお聞きします。
②区は、学童クラブの民間誘導など、これまで区が直接担ってきた事業の民間活用を促進させていく傾向にあります。これまでも、民間に出来ることは民間に、と民間活用を進めてきましたが、民間はほとんどの仕事を引き受けることが出来るはずです。問題は、民間へ委託した場合に、どのような労働条件のもとで区の業務が行われるのか、ということです。民間の委託先で働く人の多くは、派遣労働など非正規雇用が中心です。規制緩和により、広げられた派遣労働は、労働力の調整弁であり、賃金が抑えられ、派遣元の都合でいつ雇用契約を切られるかわからない不安定な状態です。派遣の多くは女性であることから、女性の貧困の助長にもつながることも問題視しています。会派としてすべての民間活用をやめることを求めるものではありませんが、安易に民間活用を広げることは、区が率先して不安定雇用を増加させることになることから、慎重にするべきだと指摘してきました。特に、福祉や教育分野では民間活用などは慎重さが必要です。また、民間活用する際には協働の視点も大切です。民間活用に対する区の考えをお聞きします。
③この3年間、新型コロナウイルス感染症対策により、対面での活動が縮小、中止することを余儀なくされ、改めて、交流の場、居場所の大切さを実感しました。現在ではコロナが第5類となったことから、対面での活動の再開、再構築が求められています。自力で再開できる場合もありますが、高齢者クラブなど活動再開には支援が必要な場合もあります。地域行政推進条例を活用し、区の関与により活動の再開・再構築を進めることが求められます。区の取り組みをお聞きします。
また、感染症対策などコロナ対応で見えてきた課題を整理し、保健所体制を維持することが大切です。見解をお聞きします。
④DX推進では、業務改善を進め、業務の効率化を測ることによって、他の業務を担う人材を生み出すことが出来るのではないか、と期待します。広がる区民ニーズと求められる専門性に応えられる体制づくりにDX推進が寄与することに期待します。区の考えをお聞きします。
また、DX推進によって生み出された人員は、社会全体で不足している福祉人材や地域に出て住民と直接つながる人材に振り分けることを求めます。福祉現場に対応出来る専門的な人材育成など、将来を見通した計画的な職員採用とともに人材育成が必要と考えます。DX推進により変化が期待される人事計画について区の考えをお聞きします。
⑤今回発覚した大成建設による本庁舎建設の工期延伸問題では、現時点での説明では到底納得することができません。
先日設置された経緯等検証会議・工程検証専門部会において、工事工程の検証不足がなぜ起きたのか、大成建設本社と支店の関与、フォローがなぜ行われなかったのかなどを徹底的に真相究明するべきです。見解をお聞きします。
2、地域共生社会・インクルーシブ社会の実現に向けて、区の福祉における公的責任について
世田谷区内の孤立死は、2011年に48件から2021年は78件と大幅に増加しています。そのうちの約70%が介護保険や障害福祉サービスにつながっていませんでした。
区はこの現状を捉え、高齢になっても障害があっても安心して暮らすことができる世田谷をどのように実現していくのでしょうか。
2003年度から順次進められた公務員ヘルパーの廃止の際に区は、民間に全て委ねることなく福祉の責任を果たすと答えていたにも関わらず、現在、緊急対応のニーズに応えられていないと現場から声が上がっています。例えば、緊急時バックアップセンターも民間に任されてしまいしました。
介助者不足など人材不足が続き民間で担えきれない状況を鑑みれば、区民の命を守るためにも、緊急対応を始めとした福祉の領域は区が責任を持って担うべきではないでしょうか。例えば現状、北沢と烏山総合支所では介護指導職が未配置となっていますが、全総合支所への配置を検討するなど、福祉の公的責任を果たすための体制整備が必要です。区は福祉の公的責任をどのように果たしていくのか、お聞きします。
②昨年9月、障害理解の促進と地域共生社会の実現をめざす条例を制定し、今年度はノーマライゼーションプラン(インクルージョンプラン)の作業中です。区は国連障害者権利委員会からの勧告を捉えていくことを明言しました。本条例がめざすインクルーシブ社会の実現に向けてプランには、インクルーシブ社会の実現の原動力として共に学び共に育つインクルーシブ教育を位置付け、取り組みを実現することを求めます。見解をお聞きします。また、このプランによるインクルーシブ教育の推進では教育委員会も主体的に関わり、インクルーシブ社会を構築するために力を発揮することが必要です。教育委員会がどのような関わりを持つのか、お聞きします。
③昨年度、現行制度では補助の対象ではない大人世代の中度難聴者に対する補聴器助成の実現を求める陳情が趣旨採択されました。特に、難聴の高齢者にとって補聴器使用は、社会的孤立を防ぎ、認知機能低下の抑制に有効と耳鼻咽喉科の専門医小川 郁(かおる)慶應義塾大学名誉教授の研究論文でも示され、早期の使用が推奨されています。
障害者手帳の有無や年齢にかかわらず、その意思と権利が尊重され、地域の方々とともに自分らしく暮らすために求められる支援として、中度難聴者への補聴器助成の実施を求めます。見解をお聞きします。
3、子どもの最善の利益の実現に向けて
世田谷区子ども条例が制定されて20年経ちました。条例制定時の議論では、「子どもの権利」に対する理解が深まりませんでしたが、ようやく、「子どもの権利」の視点の強化に取り組むことに期待しています。改正議論では、国連子どもの権利委員会から出されている日本政府への勧告に着目し、広く子どもの権利を強める取り組みを進めていくことを求めます。
まずは、子どもの意見表明権の実現です。条例改定にあたっては単なる意見表明(意見聴取)にとどまらず、決定の場に子ども若者が関わること、参画を位置づけるべきです。見解をお聞きします。
②また、思春期の子どもへの支援の充実も必要です。歌舞伎町に集まるトー横キッズは、世田谷でも無縁ではないことをこれまでも取り上げてきましたが、子どもにとって安心出来る場所、時には虐待がある環境から逃げることが出来る安全な場所を提供することは、喫緊の課題です。その際、子どもが心配せずに直接相談が出来るような医療的な支援も合わせて取り組むことが求められます。
国連子どもの権利委員会の勧告では、子どもの権利としてリプロダクティブヘルスについて保障されることの重要性が指摘されています。思春期の子どもたちに梅毒など性感染症が増加していることなど、性教育の欠如が子どもの心と体の健康を追い込む結果になっています。現在、世田谷区では保健所が中心となり、リプロダクティブヘルスライツの取り組みの検討がされています。この取り組みの成功には、教育委員会の理解と協力が重要であることから、検討期間を延ばすなど丁寧な対応がとられています。子どもの権利の保障の視点からも、世田谷の子どものためにリプロダクティブヘルスライツ、性教育の取り組みを求めます。教育委員会の見解をお聞きします。
③保育園など子ども施設における虐待問題は、子どもの人権や虐待に対する認識を改めることだけではなく、保育士の労働環境、待遇改善に取り組むことも必要です。保育士の労働問題として、休憩時間が全く取れないためにトイレにもいくこともままならならず、膀胱炎などを発症する保育士が多く、職業病と言われているそうです。健康を害しながらも働き続けている厳しい労働環境であることが指摘されています。また、コロナ対策では、移らないように移さないようにと、毎日緊張状態の中で保育士は働いていました。
虐待は決して許されるものではありません。しかし、保育士の人権が守られる職場環境の実現により、虐待が起きる要因とされるものを取り除くことが出来るのであれば、区は職場環境の改善に関与することが必要ではないでしょうか。今後の取り組みについてお聞きします。
また、本年2月に逮捕者を出した子どもへの性虐待については、虐待の中でも潜在化しやすいことや生涯にわたり影響が続くことがあるなど、他の虐待との違いを認識した対応が求められます。区の取り組みをお聞きします。
④区立幼稚園の統合や廃園が子どもグランドビジョンに示されましたが、改めて区立幼稚園が果たしてきた役割への評価が必要です。例えば発達障害児など障害のある子どもへの対応や子どもが歩いて通える身近な存在であり地域の子育て支援の役割も評価されています。区立幼稚園の統合や廃園の決定は性急すぎるのではないでしょうか。今一度幼児教育のあり方について検討するとともに、切れ目のない子育て支援の視点からも見直すべきです。見解をお聞きします。
4、世田谷の教育改革に向けて
①世田谷区の教育政策は、教育大綱や教育振興推進計画の策定等の時期となり、転換期を迎えています。例えば、昨年4月に不登校特例校の設置に踏み切ったのは、既存の学校では不登校の増加を止めることは出来ないという現在の教育政策の限界、というものが見えているからではないでしょうか。
不登校特例校の特徴である3つのポイント「少人数学級」「ゆとりのある学習プログロム」「子ども主体の学校運営」を踏まえた学校改革の実現が必要なことは教育委員会も明言しています。ここで大切なのは、不登校の子どもを既存の学校現場から切り離すことを主な取り組みとしていくのではなく、既存の学校が変わること、教育改革に取り組むことです。つまり、教育大綱策定議論などにおいて重要なのは、単に不登校の子どもたちの居場所を生み出すことだけではなく「なぜ不登校が増えるのか」という根本問題に切り込むことです。真のインクルーシブ教育をめざす世田谷区が、子どもたちが学び育つ場を分けることで、不登校の子どもへの対応策とするべきではありません。
教育大綱においても、子どもたちが共に学び共に育つインクルーシブ教育の実現を位置づけることを求めます。見解をお聞きします。
②現在の教育ビジョンには「たくましく生き抜く子ども」という基本的な考え方が掲げられています。この「生き抜く」ことを強いられる、いわゆる競争社会を生み出す教育現場は、不登校の子どもを増加させ生きづらさを生み出す大元となっていることや障害のあるなしで子どもを分けるという分離教育への大義名分を与えています。真のインクルーシブ教育をめざす世田谷区が、次期教育ビジョンにどのような基本的な考え方を掲げるのかが問われます。基本的な考え方に対する見解をお聞きします。
③一方で、不登校が増加している学校現場では教員不足も課題となっています。その要因とされる教員の多忙化の改善に向けた取り組みが必要です。学校現場からは「子どもと向き合う時間が欲しい」という声が常に聞こえてきます。教員の多忙化の解消は、教員のゆとりを生み出すことにつながり、それが世田谷の教育の質の向上にもつながると考えます。世田谷区独自プログラムである「教科日本語」と「学力テスト」の見直しを求めます。教育委員会の見解を求めます。
5、男女共同参画政策の推進について
男女共同参画・多文化共生条例制定から5年経ちました。世田谷区の男女共同参画政策は前進したのでしょうか。
①条例では、男女共同参画の視点から人権侵害を受けた際には是正を求めて申請出来る苦情処理委員会が設置されていますが、活用がほとんどされていません。果たして、苦情処理委員会の役割が十分に果たすことが出来るような仕組みとなっているのでしょうか。
苦情処理委員会への申請が、クレームを連想させる「苦情」というネーミングは、人権侵害を受けたという申請に対する区の姿勢を表しているのではないでしょうか? 以前、本来求められる「人権」を保障するという視点に立った機関として機能するよう改善を求めましたが、検証・検討をどのように取り組んでいるのかお聞きします。
②DV被害者支援では、コロナ感染対策として外出自粛が求められる中、DV被害者の増加が国連から指摘され、LINE相談が始まるなど区のDV相談体制の充実が図られました
が、さらにDV被害者支援の充実を求めます。DV被害者支援の充実に向けて多職種による支援体制の構築を進めることやステップハウスへの支援を進め、DV被害者の自立を支援するなど、取り組みを広げることが必要です。区の取り組みをお聞きします。
6、住民主体のまちづくりの推進に向けて
都市整備方針の改定の議論がスタートします。世田谷区は「参加と協働」のまちづくりを掲げています。これまで公園づくりなどは、住民参加によって取り組まれている事例も多く、今後さらに住民参加を進めていくのかが求められます。合わせて改定議論では、住宅政策について、子育て世代や若年層、障害者など、住宅確保に支援が必要な区民に対し、公共サービスの視点に立った住宅政策をテーマにしていくことが求められます。都市整備方針改定における視点について区の見解をお聞きします。
以上