「レッドクリムゾン・ブレイズブラッド ―赫赫たる暁の炎―」 第二話

1.
焔「それで これからどうやって犯人を探すんだ?」
ローラ「家に残っていたありとあらゆる物から両親の交友関係を調べ上げた」「それを手がかりに犯人を探す」「また 吸血鬼殺しについては焔に活躍してもらう」
焔「俺?」
ローラ「純潔主義の吸血鬼にとってダンピールはただの人間より狙われやすい」「それは楓もよく知っているだろう」

 真剣な表情でうなずく楓。

焔「あぁ だからこの前俺が襲われたのか?」
ローラ「そういうことだ」

 ぎょっとする楓。
 焔の表情からなにがあったかを察した楓は眉を寄せる。
 無言で怒る楓に冷や汗をかく焔。

焔「じ じゃあ俺 日直の仕事代わってるから あとよろしく!」

 逃げるように去る焔。
 それを呆れた顔で見送る楓とローラ。

ローラ「あいつ 改めて変な奴だな」
楓「昔からずっと変わらないよ」「困ってる人を放っておけないって」
ローラ「薄々分かってはいたが利他的だな」「それに あのお人好しはなかなか重症のようだ」
楓「焔のいいところではあるんだけどね」

 苦笑する楓。
 会話が自然と終わり、沈黙。
 風が吹いて二人の髪がなびく。
 楓はローラをちらりと見て、ためらいがちに口を開く。

楓「あのさ… ローラちゃんって焔といつ知り合ったの?」
ローラ「つい先日だ」「それがどうした?」
楓「ううん… 焔と仲いいんだなって思って」

 楓は物憂げな表情で顔をそらす。
 その表情で察するローラ。

ローラ「…なるほど 貴様は焔が好きなんだな」

 顔を赤くして慌てふためく楓。

楓「え その お…幼馴染だから!」「いつも無理する焔が心配なだけなの!」

 挙動不審な楓と反対に冷静なローラ。

ローラ「落ち着け」「私はあの男に一ミリもそういった感情は抱いていないし 今後も抱く予定はない」

 きっぱりと答えるローラに安堵する楓。

ローラ「…先ほどから私と当然のように会話をしているが 貴様は私を殺そうとしないのか?」「吸血鬼と吸血鬼ハンターは対立する存在だろう」

 怪訝な表情のローラに、楓は小さく笑いながらフェンスに寄りかかる。

楓「私 吸血鬼が全員悪だとは思ってないんだ」「もちろん人を襲う吸血鬼は別だけどね」「それに私と普通に話してくれてるから ローラちゃんはいい吸血鬼なのかなって」

 ローラに微笑みかける楓。
 その回答が来ると思っていなかったローラは眉を下げて笑う。

ローラ「貴様も大概変わっているな」

2.
 屋上を出る楓とローラ。
 階段を降りたところで、第1話で廊下を歩いていた男子生徒――皆口みなぐち紅葉くれはと鉢合わせる。
 楓と紅葉の目が合う。

紅葉「お父様とお母様が呼んでいた 授業が終わったらすぐ家に帰れ」
楓「…うん」

 紅葉は楓の隣にいるローラを見て眉をひそめる。

紅葉「吸血鬼と馴れ合うな 落ちこぼれめ」

 立ち去る紅葉。
 ローラは訝しげな目で去っていく紅葉を見る。

ローラ「今の男は?」
楓「紅葉 私の双子の弟」「吸血鬼ハンターとして活躍してるの」
ローラ「血を分けた姉弟の割に良好な関係ではないようだな」

 廊下を歩き始める二人。
 遠くをぼんやりと眺めながら話す楓。

楓「私と紅葉は真反対なの」「私の考えは皆口家の恥って言われてて 紅葉は吸血鬼を一人残らず倒すっていう理想の吸血鬼ハンターの考え」「吸血鬼ハンターとしても紅葉は優秀で 私は落ちこぼれ」「だからああやって紅葉に呆れられてるの」

 自嘲気味に笑う楓と、それを深刻そうな表情で見るローラ。


3.
 焔の部屋。
 鼻歌を歌いながらベッドで寝そべってスマホをいじっている焔。
 ローラは腕を組んで椅子に座り、焔をじとっとした目で見ている。

ローラ「こんな平和ボケした人間が好きだとは…」
焔「? よく分かんないけどありがと」
ローラ「馬鹿者 褒めていない」

 きょとんとした顔の焔にため息をつくローラ。

ローラ「焔 貴様は楓の家については知っているのか?」

 ローラの問いに焔はスマホを置いてうなずく。

焔「俺だけじゃなくて 楓の家は吸血鬼ハンターとして有名だからみんな知ってるよ」
ローラ「吸血鬼ハンターであることを公言しているとは珍しいな」
焔「それだけ自信があるってことじゃないか?」

 起き上がってベッドの端にあるクッションを抱える焔。
 緊張感のない焔の返事に呆れるローラ。

ローラ「楓の弟は吸血鬼ハンターとして活躍しているらしいな」
焔「紅葉のことだろ?」「でも俺 紅葉とは話したことないんだよ」「俺は吸血鬼の血が入ってるからって避けられててさ」

 昼休みの紅葉とのファーストコンタクトを思い出し、一人納得するローラ。

ローラ「焔は吸血鬼ハンターが固有の力を持っているのは知っているか?」
焔「楓からなんとなく聞いてるよ 超能力みたいなやつだろ?」
ローラ「…噛み砕きすぎているが間違ってはいない」

 ローラはカーテンの隙間から見える月を見上げる。

ローラ「昔は吸血鬼ハンターという名称ではなかった」「私の住んでいた地では魔法使い 日本では陰陽師などと呼ばれていたな」「それが発展し いつしか吸血鬼ハンターと呼ばれるようになった」

 魔法使いや陰陽師の姿をした人間が吸血鬼と対立するイメージ。

ローラ「吸血鬼ハンターは人間や私たち吸血鬼と異なる力を持っている」「それは個人によって異なり その力を使って私たち吸血鬼と戦っている」

 様々な能力を駆使している吸血鬼ハンターたちのシルエット。

焔「吸血鬼ハンターについて詳しいんだな」
ローラ「吸血鬼にとって吸血鬼ハンターは天敵だからな」「そういった情報は嫌でも耳に入る」

 「なるほど」とクッションに顎を置いて感心する焔。

焔「そう言われたら 楓の吸血鬼ハンターの力は見たことないかも」
ローラ「それなら一度 楓の吸血鬼ハンターとしての力を確認しよう」


4.
 放課後。
 高校の屋上にいる焔たち。その中で緊張した表情の楓。
 焔は座って紙パックのオレンジジュースを飲んでいる。

ローラ「――というわけだ」「吸血鬼と戦う上で貴様の力を知っておきたい」
楓「…うん 分かった…」

 歯切れの悪い楓に首を傾げる焔とローラ。

楓「ちょっとやってみる」「失敗したらごめんね」

 大きく深呼吸をして、凛とした顔つきで空中に手をかざす楓。すると青白い光に包まれた錫杖が現れる。
 現れた錫杖を握って地面を軽く叩く。シャン、と音が鳴り、楓を中心に青白い光と強い風が吹く。
 眩しさに目を覆い、風に吹き飛ばされないよう堪える焔とローラ。

ローラ(霊力の量が尋常じゃない…!)

 楓も吹き飛ばされないよう、強く錫杖を握りしめている。
 しかし、あるときふっと青白い光と風は止む。
 静寂が訪れる屋上。
 焔もローラも、なにが起きたのか理解できない表情で楓を見つめている。
 一方で、錫杖を持っていた手を悔しそうに見つめる楓。

ローラ「楓 今のは――」
「なにがあった!?」

 慌てた様子の吸血鬼の生徒が数人、屋上になだれ込んでくる。

生徒たち「異常な霊力を感じたぞ!」「無事か!?」「そこにいる吸血鬼ハンターの仕業か!?」

 生徒たちの突き刺すような視線が楓に向き、びくりと肩を震わせる楓。
 楓を庇うように前に立つローラ。

ローラ「落ち着け 私は無事だ」「校内で吸血鬼ハンターが戦おうとするはずないだろう」

 納得いかない顔で、渋々屋上を立ち去る生徒たち。
 申し訳なさそうに振り返るローラ。

ローラ「こんなところで力を見せろと言った私が迂闊だった」「申し訳ない」
楓「ううん 謝らないで」「私も上手くいかなかったから」

 苦々しく笑う楓。
 乱れた髪を直しながら焔は楓に声をかける。

焔「楓はなにをしようとしたんだ?」
楓「説明するのが難しいんだけど まがつきっていう鬼みたいな神様みたいな存在がいてね」「私はそれを召喚して戦うの」「でも私の力が足りなくて 今まで一回しか召喚できたことがないんだ」

 焔と話す楓を見守りつつ、なにかを考える表情のローラ。

ローラ(あれだけの霊力を持っていて 楓は落ちこぼれと言われているのか…?)


5.
 中世の貴族が住んでいるような屋敷。
 そのバルコニーにある椅子に腰かけている、白いネグリジェを着た一人の少女。少女は尖った耳と牙、鋭い瞳孔をしている。
 手に本を持っているが、視線は夜空に浮かぶ月へ向いている。
 そこに現れるガウンを羽織った壮年の男性。男性は人間と同じ容姿。

男性「七星ななせ こんな夜に外にいると体に悪いよ」
七星「お父様」「ごめんなさい 月がとても綺麗だったので」
七星の父「そうだったのか」

 同じように月を見上げる七星の父。

七星の父「遅くならないうちに寝るんだよ」
七星「分かりました」「おやすみなさい お父様」
七星の父「おやすみ かわいい七星」

 部屋に戻る七星の父。

七星「"あの"ローラ・スカーレットさんが転入してくるなんて…」「それに ダンピールと吸血鬼ハンターが一緒とは…」

 本を閉じて小さく笑う七星。

七星「これから楽しくなりそうですね」

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