「レッドクリムゾン・ブレイズブラッド ―赫赫たる暁の炎―」 第一話
1.
満月が輝く深夜。
二人の青年が山の中を走っている。
青年1「あいつ どこ隠れやがった…!」
青年2「落ち着け こっちは二人いる」「あんなヤツ俺たち二人なら――」
青年2の言葉が途中で途切れる。
青年1が見ると、青年2の首と胴体が横一線で分かれている。体がどさりと倒れ込み、青年1は小さく悲鳴をあげる。
青年1の背後から草木を踏み込む足音。
青年1「くそ…!」
振り返ると、そこにはマントを被った人物。フードのせいで顔は見えない。
青年1「お前 噂の”同胞殺し”だな!」
?「だったらどうする?」
マントの人物は高々と剣を掲げる。目を見開く青年。
青年1「お前まさか スカーレット家の――」
青年の心臓が貫かれて鮮血が飛び散る。
青年から剣を引き抜き、マントの人物は空を見上げる。
?「父上 母上 もう少しだけ待っていてください」「私が必ず仇を討ちます…」
2.
モノローグ「――吸血鬼は ある日突然人間の前に現れた」
とある高校での体育の授業。
グラウンドの空中を舞うサッカーボール。
クラスメイト「焔 そっちいったぞー!」
グラウンドに響く声。
名前を呼ばれた黒髪の少年――東雲焔がニヤリと笑う。
地面を踏み込み、ボールと同じ五メートルほどの高さまで飛ぶ。
クラスメイト「させるかよ!」
相手チームのクラスメイトが同じように地面を蹴り、焔と同じ高さまで飛ぶ。
焔はボールを器用に操り、ゴール目がけて勢いよく蹴る。ゴールネットを突き破るボール。
試合終了のホイッスルが鳴り、焔が笑顔で着地する。
焔「っしゃ!」
ガッツポーズをした焔にチームメイトが駆け寄る。
クラスメイトたち「さすが東雲焔様!」「絶好調だな!」
焔たちのやりとりを相手チームが遠くから見守る。
相手チームの中には縦長の鋭い瞳孔、尖った牙と耳と人間ではない容姿をした少年が数人いる。
クラスメイトたち「あーあ 同点かよ」「あそこでブロックできたら勝てたのにな」
焔は相手チームに屈託のない笑顔を向ける。
焔「そっちは吸血鬼が二人もいるんだし 本気出さなきゃ勝てないからな!」
その笑顔に相手チームは肩をすくめる。
モノローグ「吸血鬼は人間との共存を望み 人間と吸血鬼の平和条約が結ばれた」
女子も混ざり、クラスメイトと談笑する焔。
モノローグ「いつしか吸血鬼と結婚して子をなす人間が現れた」「容姿も身体能力も生まれる子供によって様々だった」
クラスメイトに囲まれながら片づけをする焔。
モノローグ「東雲焔もその一人――すなわちダンピールである」
3.
終礼を知らせるチャイムが鳴り、賑やかになる教室。
クラスメイト「焔 このあと遊びに行かね?」
ジャージ姿のままの焔に、一人のクラスメイトが焔の肩を組む。
焔「今日バスケ部の助っ人頼まれてるんだよ」「また今度な!」
クラスメイト「またいつもの助っ人かよ」
謝りながらカバンを持って教室を出る焔。
廊下に出ると名前を呼ばれ、焔は振り返る。
焔「楓 どうした?」
楓「どうしたじゃないよ さっきの体育の授業」
黒髪のセミロングにぱっちりとした二重の女子生徒――皆口楓が焔に詰め寄る。
明らかに怒っている楓に、焔は冷や汗をかきながら数歩後ずさる。
楓「また無茶したでしょ」
焔「無茶してないって あれくらい普通だよ」
楓「焔は吸血鬼たちと同じくらい動けるからってすぐ無理するんだから」
焔「俺は大丈夫だってば」
楓「そうじゃなくて!」「焔がケガしたら その…」
楓は言葉を詰まらせてうつむく。
楓「私が…心配するから…」
顔を上げずにつぶやく楓。
焔は微笑み、楓の頭をポンと優しく撫でる。
焔「心配してくれてありがとな」「楓のくれたお守りがあるから大丈夫だよ」
焔は首から下げているペンダントを楓に見せる。
「それじゃ」と立ち去る焔を心配そうに見送る楓。
クラスメイトが教室からその様子を見ている。
クラスメイト1「幼馴染 甘酸っぱいなー」
クラスメイト2「東雲は皆口さんが東雲を好きだってことに気づいてんのかな」
クラスメイト3「気づいてなさそうだよな」
クラスメイトの視線は女子との談笑に戻った楓に移る。
クラスメイト1「それにしても皆口さん 本当かわいいよなぁ」
クラスメイト2「だよな まさに才色兼備って感じ」
一人のクラスメイトが苦い顔をして声をひそめる。
クラスメイト3「…でもさ 皆口さんってあれだよな」
盛り上がっていたクラスメイトも「あー…」と苦笑する。
クラスメイト3「吸血鬼ハンターの家系じゃなければな」
モノローグ「人間と吸血鬼の共存が進む中 吸血鬼ハンターはそれを許さなかった」「平和条約が結ばれた今 吸血鬼ハンターは平和を脅かす存在となっている」
声をひそめたままクラスメイトたちは話を続ける。
クラスメイト1「そうなんだよな…俺もそれを気にするっていうか…」
クラスメイト2「でも皆口さん 吸血鬼と仲良くなりたいって言ってたぞ」
クラスメイト3「まじ?」「てかこの前のドラマさ――」
話題を変えようとしたクラスメイトと被るように教室がざわつく。
教室中の視線は、廊下を歩く黒髪の男子生徒に向いている。
一人のクラスメイトが舌打ちをする。
クラスメイト「…あいつ また吸血鬼殺したらしいぞ」
それを皮切りに、男子生徒に向けて陰口が叩かれる。
「まじで? それでよく学校来れるな」「やっぱり吸血鬼ハンターって最低だよね」「あいつこそ殺されるべきだろ」
男子生徒はその声に一切反応せず、無表情のまま廊下を歩いていく。
楓はその男子生徒を深刻そうな面持ちで見つめる。
楓「紅葉…」
4.
体育館。
外は薄暗く、すでに灯りが点いている。
タオルを肩にかけたバスケ部の部長が、制服に着替えた焔へ声をかける。
部長「東雲 急に悪かったな」
焔「いえ 困ったときはまたいつでも呼んでください」
モップを持った部員が二人の間から顔を覗かせる。
部員「こいつ 本当お人好しなんすよ」
焔「お人好しじゃないって 困ってる人を放っておけないんだよ」
部員「それをお人好しって言うんだよ」「変な詐欺とかに引っかかるなよ」
焔「大丈夫だって」
部員が思い出したように話す。
部員「そういやクラスメイトから聞いたんすけど 最近吸血鬼が狙われる事件が増えてるらしいっすよ」
部長「どうせ吸血鬼ハンターの仕業だろ」「あいつらは見境がないからな」
部員「それがどうも違うみたいで――」
焔のスマホの通知音が鳴る。
画面を確認した焔は急いでカバンを持つ。
焔「すみません! 急いで帰らないといけなくなりました!」
靴を履く焔に部長が半笑いで問いかける。
部長「また誰かの手伝いか?」
焔「いえ 家でカレーが爆発したみたいなんです!」「お疲れ様でした!」
会釈しながら全速力で体育館を出ていく焔。
それを呆然と見送る部員たち。
部員たち「どゆこと?」
5.
とあるマンションの焔の家。
焔が息を切らせてリビングのドアを開ける。
焔「母さん!」
キッチンは凄惨な事故現場のようにカレールーが飛び散り、床には具材が転がっている。
その中心で焔の母――東雲柘榴がエプロンをカレーまみれにして半べそをかいている。
焔は呆れた表情で柘榴に近づく。
柘榴「焔ぁ〜…」
焔「母さん カレーはレトルトあっためるだけでいいっていつも言ってるだろ!?」
柘榴「だって たまには焔に手作りを食べさせてあげたくて…」
焔「俺はあっためてくれるだけで嬉しいから!」
めそめそしながら床を拭く柘榴と、キッチン周りを片づける焔。
柘榴「ごめんね お母さんが料理へたっぴで…」
焔「大丈夫だから 母さんはテレビ見てゆっくりしてて」
掃除が終わり、いつもの姿に戻るキッチン。
柘榴はリビングでドラマを見ている。
焔は鍋に残っているカレールーを横目に冷蔵庫を開ける。
焔(たしかこの前買った野菜があったはず…)
冷蔵庫には牛乳やプリン、卵、わずかな調味料とほぼ空の状態。
表情が固まり、ロボットのように柘榴の方へ首を動かす焔。
焔「…母さん 冷蔵庫の野菜全部入れた?」
柘榴「そうよ〜」「焔が部活のお手伝いするって言ってたから 元気が出るようにいろいろ入れたの〜」
にこりと微笑む柘榴と、思わず笑顔が引き攣る焔。
焔はTシャツとラフなズボンに着替え、買い物用のがまぐち財布を握りしめる。
焔「ちょっとスーパー行ってくる」
柘榴「気をつけてね〜!」
スニーカーを履いて玄関を出る焔。
玄関には焔と柘榴の靴しか置いていない。
6.
星が光る夜空。
スーパーへ走る焔。
焔(一駅先のスーパーの方が野菜は安かったよな…)
住宅街を抜けて広い道へ出ると、少し先の信号が青に変わる。スピードを上げて走り抜けようとする焔。
すると横断歩道の前で風呂敷を背負い、紙袋を提げている老婆がいる。
焔は足を止めて老婆に声をかける。
焔「大丈夫ですか? 俺でよければ荷物持ちますよ」
老婆「おや ありがとうねぇ」
荷物を抱えて横断歩道を渡る焔と、その後ろをのんびりと歩く老婆。
横断歩道を渡り終えたところで老婆が焔に微笑む。
老婆「親切にありがとうねぇ」
焔「この荷物 よければ俺が持って行きますよ」
老婆「そうかい それじゃあお言葉に甘えようかね」
スーパーとは違う道を歩き始める焔と老婆。
7.
焔(遅くなった…!)
スーパーの袋を握りしめて全力で走る焔。
血が足りなくて行き倒れていた吸血鬼を介抱したり、警察に財布を届ける焔の回想。
楓の怒っている姿を想像する焔。
焔(またなにか言われるだろうけど…ごめん楓!)
住宅街に入る道の角で「すみません…」と呼び止められる。
そこに立っていたのは吸血鬼の女性。女性の顔は青ざめている。
焔「どうしました?」
女性「私の息子を見ていませんか?」
焔「いえ 見てないです」
女性「そうですか…」「さっき近くで吸血鬼ハンターを見かけて… 息子になにかあったらと思うと…!」
顔を覆って膝から崩れ落ちる女性。
焔はしゃがんで女性に寄り添う。
焔「息子さんが最後にいたのはどのあたりですか?」
女性「ここから少し遠いんですが…」
焔「案内してください」
女性は「え?」と顔を上げる。
焔「なにかあってからじゃ遅いです!」
女性の手を取って立ち上がらせる焔。
女性「ありがとうございます…!」
8.
池のある大きな公園。人は少なく、ランニングをする人が時折通り過ぎる程度。
その奥の立ち入り禁止の看板を超え、焔たちは林の中に入る。
林の中は鬱蒼としている。焔は先を歩く女性を頼りに進む。
女性「本当にありがとうございます…」
焔「大丈夫です」「一刻も早く見つけなきゃですね」
あたりを見回す焔を意味深に見つめる女性。
焔「息子さん いませんね――」
振り返ると、焔に向かってナイフを振り上げている女性。
ナイフをギリギリで避ける焔。持っていたレジ袋が切られ、野菜が地面に散らばる。
獲物を狙うような目で焔を睨みつける女性と、状況が理解できない表情の焔。
焔「いきなりどうしたんですか…!?」
近くの草陰から体格のいい吸血鬼の男が現れ、焔が反応する前に鳩尾へ拳を打ち込む。その場に倒れ込んでえずく焔。
焔を見下ろす女性と男。
女性「他人を簡単に信じるなんてよくないわよ 忌々しいダンピールくん」
男「ダンピールかよ じゃあ今すぐ殺らなきゃな」
咳き込みながら鳩尾を押さえる焔。
焔「どういうことですか…息子さんは…」
女性「あなた察しが悪いのね」「息子なんていないわよ」
歪んだ笑みを浮かべる女性。
焔は土を握り、二人に向かって投げつける。
視界をやられる女性と男。その隙に走り出す焔。
モノローグ「人間と吸血鬼の平和条約が結ばれた裏で とある噂が流れていた」
近くにあった木へ登る焔。
別の木に飛び移って逃げる焔。後ろから同じように木に登った男が追いかける。
モノローグ「平和条約は吸血鬼が人間を支配するための手段に過ぎない」「吸血鬼は影で人間を襲っている」「しかし そんな陰謀論じみた噂は誰も信じなかった」
草木のせいで服が擦り切れ、擦り傷が増える焔。
林を抜ける直前で女性に足を掴まれて引き摺り下ろされる焔。そのまま地面に叩きつけられて背中を打ちつける。
悶える焔を取り囲むようにして立つ女性と男。
女性「安心して 苦しまないよう殺すから」「そのあとは流行りの血液タンクにしてあげる」
9.
?「騒がしいな」
全員の視線が声のした方に向く。そこにはマントを被った人物が立っている。
女性「誰!?」
?「人目のつかないところで襲う」「姑息な吸血鬼のやることだ」
マントを被った人物の手から剣が現れる。
女性「吸血鬼の匂い…」「あいつ もしかして”同胞殺し”…!?」
男「噂のヤツがお出ましかよ!」
?「…その噂はどこから広まっているんだろうな」
男がマントの人物に拳を振るう。
マントの人物は向かってきた右手を切り落とす。痛みで絶叫する男。軽く跳躍して頭を蹴り飛ばすと、男は近くの茂みに吹っ飛ぶ。
後ろから女性がマントの裾を掴み、ナイフで心臓を狙う。不敵な笑みを浮かべる女性。
だがマントを脱ぎ捨てられ、視界が阻まれる女性。
マントの下はゴシック調のワンピースを身にまとった少女。
焔(女の子…?)
焔が考えている間に、少女はマントごと女性を突き刺す。倒れる女性の上に覆い被さるマント。
剣を引き抜いて男の方へ向く。少女を見て怯える男。
男「お前…俺たちと同じ吸血鬼だろ!?」「吸血鬼同士で争ってどうすんだよ!」
少女「知ったことか」
少女は男の心臓を貫く。目を見開いて倒れる男。
静寂。
座り込んでいる焔と少女の目が合う。
焔「た 助けてくれてありがとう」
少女「礼には及ばない」
少女は焔の手を取って助け起こす。
焔「俺は東雲焔 君は?」
少女「なんだ貴様 馴れ馴れしいぞ」
焔「命の恩人だし 名前くらい教えてよ」
笑顔の焔に少女は眉をひそめる。
ローラ「ローラ・スカーレットだ」
焔は地面に倒れている女性と男に視線を移す。
焔「あの この人たちは…」
ローラ「見ての通り吸血鬼だ」「貴様は標的にされたんだろう」
焔「標的?」
ローラ「吸血鬼が人間を襲うのは当たり前だろう」「平和条約など吸血鬼が侵略するための手段に過ぎない」
ローラの言葉に理解が追いつかない焔。
辺りを見回すローラ。
ローラ「それより ここから離れるぞ」「血の匂いで他の吸血鬼がやってくる」
女性の上にあるマントを手に取り、立ち去ろうとするローラ。
焔「あのさ!」
呼び止められて苛立つローラ。
ローラ「なんだ?」
焔「ひとつ提案があるんだけど…」
10.
柘榴「おかえり 遅かったわね〜」
玄関から笑顔で出迎える柘榴。ボロボロな焔を見て驚く。
柘榴「どうしたのそのケガ! 大丈夫?」
焔「いつものことだからすぐ治るよ」「それよりこの子 ローラって言うんだけど道に迷ってたらしいんだ」「腹減ってるって言ってたから連れてきた」
笑顔の焔と、その横で釈然としないローラ。
ローラ(こいつ 話を合わせろとは言っていたが…)
俺に任せてと話す焔とローラのイメージ。
ローラはため息をついて柘榴に向き直る。
ローラ「ローラ・スカーレットです 突然押しかけてしまい申し訳ありません」
柘榴「いらっしゃいローラちゃん なにもないけどゆっくりしてね」
夕食を作り始める焔をリビングの入り口で見つめるローラ。
帰り道のコンビニでの出来事を思い出すローラ。(コンビニで材料をかき集めながら「母さんがカレー作ってたら爆発してさ」と説明している焔と、理解できていないローラ)
柘榴「焔は料理が上手なのよ 楽しみにしててね」
促されてテーブルに座るローラと、その向かいに座る柘榴。
柘榴「ローラちゃんはカレー苦手じゃない?」
ローラ「はい 昔食べたことがあります」
柘榴「よかった〜」「ローラちゃんも吸血鬼なら血は飲むわよね?」
ローラ「もちろん飲みます」「ただ 私は人間の食べ物も食事として味わっています」
ローラと柘榴の前に置かれるカレー。
焔「お待たせ」「煮込んでないから味は薄いと思うけど」
湯気とスパイスの香りにローラの目が少し輝く。
ぶんぶんと首を振り、スプーンを手に取って口に運ぶ。
ローラ「…美味い」
焔「よかった」
もう一口食べたところでスプーンを置くローラ。
ローラ「…五十年ほど前 私の両親は吸血鬼に殺された」
血まみれの屋敷に立ち尽くすローラのイメージ。机や椅子はひっくり返り、カーテンも破れている。
ローラの目の前には両親の首が並んでいる。
ローラ「家には吸血鬼の匂いが残っていた」「犯人は間違いなく吸血鬼だ」「私はその犯人を探している」
裾を強く握るローラ。
顔を上げると柘榴は大粒の涙を流していて、ぎょっとするローラ。
柘榴「ローラちゃんにそんなことがあったなんて…!」
柘榴は立ち上がってローラの手を取る。
柘榴「一人でつらかったわね!」「今日からここで一緒に暮らしましょう!」
ローラ「いや…私にも生活する家は…」
柘榴「私たちを家族だと思っていいからね!」
ローラと柘榴の押し問答の途中でインターホンが鳴る。玄関に向かう焔。
焔がドアを開けると、長身の精悍な吸血鬼の男性が立っている。
焔「えっと どなたですか?」
?「こうして話すのは初めてだな 我が息子よ」
11.
焔は首を傾げる。
焔「息子ってことは…俺の父親?」
アドム「あぁ 私はアドム・トランバニア」「正真正銘 お前の父親だ」
理解が追いつかず、気の抜けた返事をする焔。
リビングから玄関に来る柘榴。
柘榴「焔 誰か来てるの〜?」
アドムを見てきょとんとする柘榴。
次の瞬間、柘榴は満面の笑みでアドムに抱きつく。
柘榴「あなた! 久しぶり〜!」
アドム「久しいな 柘榴」
柘榴を優しく抱きとめるアドム。
柘榴「相変わらず素敵ね〜!」
アドム「柘榴も見ない間にさらに美しくなっているな」
いちゃいちゃする二人を呆然と見つめる焔。
柘榴「そうね 焔はパパと話すのは初めてよね」「あなた この子が私たちの子」「焔っていうのよ」
アドム「焔か いい名前だ」
柘榴「そうだ 今日は焔がカレー作ったのよ」「あなたも食べる?」
アドム「せっかくなら食べていこう」
柘榴「ちょうど吸血鬼のお客さんも来てるのよ」
リビングに行く焔たち。
カレーを食べていたローラはアドムの姿を見て目を見開く。そのまま椅子から飛び退いて跪く。
ローラ「王…!」
跪くローラを見るアドム。
何事かと首を傾げる焔と柘榴。
アドム「客人というのはスカーレットの長女だったか」
ローラ「お会いできて光栄です」
アドム「顔を上げろ スカーレット」
微動だにしないローラの前にアドムは膝をつく。それを止めようとするローラ。
ローラ「おやめください!」「王が膝をつくなどあってはなりません!」
アドム「スカーレット家の一件は防げなかった私にも非がある」
ローラ「王がお心を痛める必要などございません!」
必死なローラを制止し、アドムは柘榴を見る。
アドム「柘榴 カレーを一口もらえるだろうか」
柘榴は嬉しそうに「あーん」とアドムに食べさせる。
アドム「カレーは昔柘榴が作ってくれたな」
柘榴「レトルトあっためたのが懐かしいわ〜」
アドムは焔たちを一瞥する。
アドム「さて 柘榴と息子に会えたところで私は帰るとしよう」
焔「もう帰るのか?」
アドム「あぁ 私がいては彼女もくつろげないだろう」
焔「そっか」「父さんに会えてよかったよ」
アドム「私も成長した息子に会えて嬉しかった」
アドムは跪いたままのローラを見る。再び顔を下げるローラ。
アドム「スカーレットの長女 邪魔したな」
ローラ「こちらこそ 王にお会いできたことを光栄に思います」
リビングを出ようとするが、思い出したようにローラの方へ振り返る。
アドム「最近”同胞殺し”なる者がいるようだ」「スカーレットも気をつけたまえ」
ローラ「…お心遣い痛み入ります」
12.
焔の部屋。
部屋は漫画なども置いてあるが、それなりに整っている。
ベッドに腰かけている焔と、椅子に座っているローラ。
焔「まさか親父に会うなんてな」
ローラ「私もこんなところで王にお会いするとは…」
深刻そうな顔をしてうつむくローラ。
焔「母さんは『お父さんはいるけど一緒に住んでないのよ〜(笑顔の柘榴のイメージ)』って言ってたから 夜逃げしたのかと思ってたよ」
ローラ「貴様 王になんて失礼を!」
不思議そうに首を傾げる焔。
焔「ローラ さっきから王って言ってるけど 親父は王様なのか?」
ローラ「その通り 吸血鬼を束ねる王だ」「…だが 王には王妃も ヴァーミリオン様もいらっしゃる」
焔「てことは 親父と母さんが不倫して俺が生まれたってこと?」
ローラは苦い顔をして視線を逸らす。
ローラ「…そういうことになる」
焔「そっか」
あっけらかんと答える焔に呆気に取られるローラ。
焔「俺は知らなかったし 母さんも親父が吸血鬼の王様なんて知らないんじゃないかな」「誰にも言わないから安心してよ」
言葉を失うローラ。
焔「そういえば さっき親父が”同胞殺し”って言ってたよな」「あの女の人も言ってたけど」
ローラ「…私がその”同胞殺し”だ」「私は正体が知られる前に犯人を見つけ出す」「そしてそれを許した吸血鬼も全員殺す」
憎悪に満ちた目のローラ。
両親の首が並ぶ前で泣きじゃくるローラのイメージ。
それを見て考え込む焔。
焔「じゃあ俺も手伝うよ 犯人探しと吸血鬼殺し」
ローラ「…は?」
焔「一人じゃ大変だろ?」
ローラは信じられない顔で焔を見る。
ローラ「貴様 正気か?」
焔「正気だよ」「ローラが困ってるんだから助けなきゃ」
唖然とするが、焔の表情を見て決意を固めるローラ。
ローラ「…それでは焔 さっそくだが頼みがある」
焔「なんでも言ってよ」
ローラ「貴様が身につけているペンダントを作った吸血鬼ハンターに会わせてほしい」
13.
焔のクラス。
教壇に立っているローラ。
ローラ「ローラ・スカーレットだ」「不慣れなことも多いが仲良くしてもらえると嬉しい」
クラスメイトが拍手をする中、焔の隣の席に座るローラ。
焔は小声でローラに話しかける。
焔「まさかローラが転校してくるなんて思わなかったよ」
ローラ「この程度は手続きを踏めば簡単だ」「貴様といた方がなにかと楽だからな」
教室を見渡し、楓に視線を向けるローラ。
ローラ「ペンダントを作ったのはあいつだな?」
焔「そうだよ」「俺の幼馴染の楓」
ホームルームが終わり、クラスメイトと授業の準備をする楓。
楓の机の前に立つローラ。
突然現れたローラに戸惑う楓とクラスメイト。
楓「えっと 転校生の…」
ローラ「ローラ・スカーレットだ」「このあと話がある」
昼休みの屋上。
焔とローラと楓だけがいる。
フェンスに寄りかかって購買の焼きそばパンを食べている焔。
状況が飲み込めていない楓を、ローラは鋭い目つきで見る。
ローラ「単刀直入に聞くが 貴様は吸血鬼ハンターだな」
ローラの問いに固まる楓。
楓は焔の腕を掴んでローラに背を向け、少し焦った様子でひそひそと話す。
楓「焔 あの子に話したの?」
焔「話したというか ローラが推理したというか…」
ローラは腕を組みながら会話を遮る。
ローラ「そのペンダントから吸血鬼ハンターの霊力を感じた」
焔「霊力?」
ローラ「吸血鬼は霊力で吸血鬼ハンターの存在を感知している」
気まずそうに焔のペンダントを見る楓。
楓「それは焔を守るために作ったんだけど 上手く霊力を込められなくて…」
ローラ「だから貴様に声をかけた」
楓「え?」
ローラ「私は両親を吸血鬼に殺されている」「私はその犯人探し そして仇である吸血鬼を殺している」
息を飲む楓。
ローラ「そこで貴様の出番だ」「私と組んで吸血鬼を殺して欲しい」
楓「吸血鬼を…?」
ローラ「吸血鬼ハンターとして成長できる絶好の機会だろう」
戸惑う楓の横で焼きそばパンを食べ終わる焔。
焔「ちなみに俺は手伝うことにしたよ」
楓「! なんで焔が!?」
焔「なんでって ローラ一人じゃ大変そうだから」「ローラの話を聞いて放っておけるわけないよ」
笑顔の焔を見て、しばし考えたあとに覚悟を決めた表情の楓。
楓「私…やる!」「それに 焔のことが心配だから!」
ニヤリと笑うローラ。
ローラ「承知した」「ダンピールと吸血鬼 そして吸血鬼ハンターが手を組むとはな」
ローラは楓に手を差し出す。
ローラ「改めてよろしく頼む」
楓「こちらこそよろしくね」
しっかりと手を握り合うローラと楓。それを嬉しそうに見守る焔。
モノローグ「そうして 俺たちの犯人探しと吸血鬼殺しが始まった」
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