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ポケットモンスター・サファイアと謎の噂と弟の友達とスロット廃人

 いまや日本の文化の一翼を担っていると言っても過言ではない、ポケットモンスターシリーズ。今年29歳を迎える私はもろポケモン世代で、初めて買ってもらったポケモンのゲームは『ポケットモンスター サファイア』だった。2022年はこの『サファイア』が発売されてからちょうど20年の節目だと言う。そこで『サファイア』に関する個人的な思い出について書いてみたいと思う。

①そもそも『サファイア』を買った理由は

 わざわざ断りを入れる必要は無いと思うけど、『サファイア』は『ルビー』との二本立てで発売された。皆さんは『ルビー』と『サファイア』のどちらかしか買えないとなった時どうやってどちらか一本を選ぶだろうか?伝説のポケモン・グラードンとカイオーガのどちらが好きか、好きなポケモンがどっちに出てくるか(タネボーとかハスボーとか)。多分多くの人がそういった観点でルビーかサファイアかを選んだと思う。

 しかしその時私の通っていた学校のクラスでとある噂が流れていた。それは「ルビーの主人公は男の子でサファイアの主人公は女の子」という噂で、ルビーを選んだ人は男の子の主人公しか選べず、サファイアは女の子しか選べない、というものだった。今ならわかるけれど、ルビーを選んでもサファイアを選んでも主人公の性別は自分の好きな方を選べる。でも当時の私はこの噂をまるっと信じた。そしてどうせなら自分と同じ性別の主人公で遊びたいと思って、迷わずサファイアを選んだ。

 文章にするとただそれだけの話だけれど、『サファイア』と聞くとイトーヨーカドーのおもちゃ売り場で見た『サファイア』のキラキラした箱とともにこの噂のことを思い出す。何年か後に自分の誕生石がサファイアということを知って、ますます『サファイア』のことが好きになった。結果としてこの噂に騙されて良かったと思う。小学校の時ってこんな意味のわからない噂が流行りましたよね。

②記念すべき1周目がクリアできずに終わる

 そんなこんなで手に入れた『サファイア』だったが、実は1周目はクリアできずにセーブデータを消去するハメになった。当時のポケモンはセーブデータを一つしか作ることが出来なかった。一日30分のゲーム時間を守っていた私は、『サファイア』を買ってもらった日から毎日少しずつゲームを進めていた。少し話はそれるが、この『ゲームは一日30分まで』という掟をいかにバレずに破りたくさんゲームをやるか、という点について私は知恵を絞っていた。一番成功率が高かったのは、親に『あとゲーム何分!?』と聞かれたときに、既に15分やってようが30分やってようが『あと15分!』と答える方法だった。あとは友達と一緒にやる分には時間制限が無かったから、友達を呼んでずっとゲームだけをやっている日もあった。

 さて、きょうだいというものは他のきょうだいのモノを借りたがる習性がある。私の弟も、私の『サファイア』をめちゃくちゃやりたがった。しかしセーブデータは一つしか作ることができない。もう一個カセットやゲームボーイアドバンスを買うようなことはなぜかなかった。多分、おいそれとゲームを買い与えられるほど余裕のある家計じゃなかったんだと思う。そこで私は『上からセーブしないならやってもいいよ』と答え、何回か弟にサファイアを貸し、弟は約束をしっかり守ってセーブせずにサファイアをプレイしていた。今思うと涙なしに語れないいじらしい姿である。私は私で、ちょこちょこズルをしながらも少しずつ1周目を進めていった。

 しかしある時事件が起きた。弟にいつものようにサファイアを貸したのだが、弟はそれを自分の友達にまた貸しし、その友達がセーブを上書きしてしまったのだ。しかもよりによって5個目のジムバッジを獲得した直後にセーブをしたという。もちろん私は弟に怒った。セーブをしたこと自体に、そして勝手にジムに挑戦してジムバッジを獲ったことに。ポケモンを知らない方にゲームの内容を説明すると、自分の鍛えたポケモンで8つのジムに挑戦してジムリーダーに勝利し、8個ジムバッジを揃えるというのがゲームのストーリーの一つだった。しかもこの5個目のジムは主人公の父親がジムリーダーを務めているという特別なジム。”父親越え”という、昔から神話や物語で繰り返し語られてきた重要なテーマを持ったジムを、弟の友達に先に攻略されてしまったのである。

 さらに悪いことに、弟の友達はジムバッジを獲得した後のシナリオのヒントとなるキャラクターのセリフを見た後にセーブをし、そのヒントを弟や私に伝えることなく帰宅してしまっていた。当時はケータイもパソコンも無く、攻略本を買ってもらうという発想も無かったので、私はノーヒントでその後を進めるしかない。友達に聞けばよかったのかもしれなかったが何故かその時は思いつかなかった。試しに続きからゲームをやってみるものの、海(湖?)に阻まれて進めることができない。NPCに聞き込みをするもヒントは得られない。完全に詰んだ。結局、記念すべき1周目のデータは消去して、最初からまた始めることになったのだった。ちなみにこの時のヒントとは、『ジムの隣の家に入って住人の話を聞け』というもので、5人目のジムリーダー(つまり主人公の父親)から聞かされた。もうちょっと粘ればノーヒントでも進めることができたのでは、と思えてしかたがない。

③『ゲームコーナー』に入り浸るようになる

 ポケモンシリーズがここまで各世代の子どもたちの心をつかんだ理由、それは作りこまれた世界観と数々の遊び心だと思う。そんなスタッフの遊び心の表れの一つとして登場したのが、『ゲームコーナー』という施設だ。ゲームコーナーでのみ流通するコインをスロットやルーレットで増やし、枚数に応じてポケモンのぬいぐるみや技マシンと交換するゲームコーナー。当時小学4・5年生であった私は、このゲームコーナーの特にスロットに大いにハマりまくった。ジム制覇も世界を救うという使命をほっぽってゲームコーナーに入り浸る主人公の誕生である。

 『ルビーサファイア』のスロットはある程度目押しで『7』を揃えることができるのが個人的な推しポイントだった。次の世代である『ダイヤモンド・パール』のスロットは、ある条件をクリアすると結構簡単に『7』を揃えることができてしまったので、そこまでハマることは無かった。その点、『ルビーサファイア』のスロットは単純に目押し勝負。『7』を揃えやすくするテクニックもあったが、あえてテクニックを使わずに『7』を揃えられた時の達成感といったらちょっと他にない。脳内麻薬が分泌されているのではないかと思ったほどだった。夏休み、親の目の届かない祖父母宅で一日中『サファイア』のスロットで遊びまくった記憶は今でも色あせない。現実世界だとしたら一日中スロットで遊びまくる小学生なんてとんでもないが。

 実は最近になってからこの時のスロットの楽しさを思い出し、ある時ついに中古でDSと『サファイア』を買い直してしまった。ゲームコーナーに入れるところまでゲームを進めた後は、文字通りゲームコーナーから出ることなくスロットを回し続けている。コインは9999枚までしか貯められないので、9999枚まで貯めては100枚ほど残して技マシンと交換し、また9999枚を目指す。ポケモンマスターを目指すどころか完全にスロット廃人となってしまった。こんな調子で現実のスロットに手を出したら確実に自己破産してしまうと思い、スロットは『サファイア』だけにしようと心に決めている。

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