音楽制作とはんだ付け
はじめに
音響の世界と電子工作は、実は切っても切れない関係にある。DTMと半田付けは、意外なほどに高い親和性で結びついている。とくにケーブル製作がそうで、仕様や納期などの融通が効く、数を作る際は経済的メリットも大きい。そんな理由から、多くの音楽人がケーブル製作に興味を持つと思う。
もちろんはんだ付けを避けて通ることはできるが、そのためには外注してお金を払い、仕上がりを待つという二つのコストを払うことになる。それで構わないのだが、この記事が対象にしている読者は、以下の通りである。
・自分でやってみたい
・自由にカスタマイズしたい
・必要なときにすぐ作りたい
・金銭的コストを削減したい
・何十本も必要になる
コスト比較
単純にMogami2549の3m XLRケーブルを購入するときのコストを比較してみよう。Amazonなどで調べてみると既製品はだいたい2500円くらいである。
サウンドハウスでパーツを調べてみると、XLRコネクターがオスメスペアで6-700円くらい、ケーブルが130円/mで400円くらい。多少減るハンダとコテが消費する電気代作業時間のコストを別にすると、3mのXLRケーブルがだいたい1000円ちょっとでできてしまう。なお作業コストは時間単位で発生するが、楽しいか損失と取るか人による。
音楽制作に片足以上突っ込んでいる読者はおわかりかと思うのだが、個人の小規模スタジオでもケーブルが何十本も必要になる場合は意外と多い。20本買うと、既製品なら5万円。自作なら2万円+初期投資(後述)だ。おまけに長さやプラグ・ケーブル選択の自由度がついてくる。
パーツ
・コネクタ
NC3MXX-HEなどノイトリックのハイエンドプラグを選んで、ケーブルにはスターカッド仕様のMogami2534を選んでも2000円を超えない。
Neutrik XXシリーズはリングやカップにカラーバリエーションがあるので選ぶと楽しい。
・ケーブル
何十本も作る場合はリールで買うのもよいが、サウンドハウスの切り売りは異常に良心的なので正直リールで買うメリットはあまりない。2549か2534はどっちでもいい。個人スタジオなら若干2549をオススメする。引き回しは長くはならないはずなので、ノイズに強いスターカッドの2534よりも音響特性が若干良い2549のほうが向いてる気がする。色は2534のほうがたくさんあって楽しい。
まあというか正直どっちでもいい。というか自作なのでなんでもスキなのが選ぶのが良い。ゴッサムのGAC、ノイマンのK(ゴッサムと同じに見えるけど)、Belden。ほかにも良いのあれば教えてください。サクライくんは最近Accusound買ってみました。
初期投資
世の中そんなに甘くはなくて、工具を揃えるとそれだけでまあまあお金がかかる。AmazonやAliexpressなどで2000円くらいで売っているセットでも良いのかもしれないが、まあ良くない。音楽制作をしていてケーブルを自作しようという質の読者が、それで満足するわけがない。
きちんとした工具を選ぶとそれなりにかかるが。どうせ何十本も作ることになるので意外とペイする。それに、まともな工具で作るケーブル製作はまあまあ楽しい。
というわけでオススメを書いてみる。
ハンダゴテ
世界のCXGである。E90Wを買っておくとほぼなんにでもつかえると思う。本来は用途によって出力違いを複数本所有するものだが、これは手元のボタンで温度設定が出来るので、大は小を兼ねる。さらに、手元で電源のオンオフも出来る。このへんが最高に便利。しかもなんとワールドワイド電源対応なので世界中どこにツアーに行っていても、空き時間にケーブルが作れる。安心感ハンパない。などなど価格とクオリティ含めすべてが最高なのでホントにオススメ。
お金持ちのフレンズはHAKKOのFX-601でも良い。gootのPX-201もある。ただしいずれも温度設定は小さなツマミをまわして調節する。電源ボタンはない。ワールドワイドではない。
ちなみにgootの900円のコテでも作業は問題なく出来るので心配はいらない。快適さの違いである。
ハンダゴテ台
これを使ってる。特に理由はない。小学生の頃から使ってるので壊れない限りいまさら変えられない。画期的なのあったらむしろ教えて欲しい。なお机に穴を開けて鬼目ナットを入れて、このコテ台の上の部分だけをねじ込むと楽しい。ただし、邪魔だからオススメはしない。
ハンダ
これを買っておけばいい。なにしろ「NASA航空宇宙産業の必需品」である。音楽も宇宙を構成する一要素と考えるならば、このハンダが最適であることに異論はなかろう。さらに裏面には「世界最高の品質」と大きく書いてある。もはや安心感しかない。3500円で世界最高を手に入れられるなんて。かあさんありがとう。ボク、生まれてきて本当によかった。
いろいろと揃えたい人は、さらに音色重視でWBT-0820とか、アメリカンドリームを求めてKester 44などに手を出していけば良い。
マット
なくても良い。でも便利。
フラックス
なくてもなんとかなるけど、一般的にあったほうがいい。初心者ほど後回し位するけど、実は初心者ほどこまめにフラックス使ったほうがいい。例えば、ノイトリックのTS/TRSのグランドをはんだ付けするときとか。あとは基盤全般。
ハンダ吸い取り器
ケーブル製作では失敗しない限りあまり要らないが、買うとしたらとりあえずこのへんで良い。というかケーブル製作は必ず失敗する(例のアレを嵌める前にはんだ付けしてしまうというアレ)。でも失敗してもハンダ吸い取り作業はそんなに必要にはならないから気にしなくていい。
オタク向け。これを買うと、家中の基盤のすべてのハンダを吸い取りたくなってしまうので正直オススメできない。
マイクロニッパ
電装用ニッパ、弱電用ニッパ、プラモデル用ニッパなどともいう。一般的なニッパがあればなくても良いが、あえて必須と言いたい。普通のニッパと違い、片刃になっており片側がツライチなのが特徴。基盤の足を切るときに良い。使えばわかる。菜切り包丁が良いのと同じ。
ワイヤストリッパ
オススメはフジヤ新製品のこれ。電源ケーブルなど太いケーブルもたくさん剥きたい感じならPP707の方を薦める。けど、707は握りも重量も重いし、細い線はそこまで得意じゃない。皮むきにイライラするタイプなら買って損はない。
クランプバイス
ケーブルを制作するとき、誰もが思うはずだ。なぜ自分の腕は二本しかないのか、と。
一般的にはアーム型が有名だが、コネクタを保持するのは下のリンクのクランプ・バイスのほうが良い。できれば両方あるといい。というかこれがないとケーブル製作はほぼ不可能である。足を使うことになる。
コツ
最後に少しだけはんだ付けのコツを書いておく。コテを動かさないこと。ハンダを付けたい場所を十分にあたためること。先にハンダを付けるな。まずターゲットを温めろ。そのために、コテを点じゃなくて線で、できれば面で対象に当てること。
そんじゃーね。
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