ElysiaのCEO Rubenの開発日記Blogを翻訳してみる(後編)

前編の訳はこちら

今回はこの後編を訳してみる。

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(ここから訳)

前回のエピソードで、紆余曲折を経てTransient Designerのアイデアを思いついた経緯を書きました。私の仕事を少し理解してもらえたのではないかと思います。私が初めて開発したコンプレッサーDynaMaxxのことも書きました。

突然の思いつき: 差異――決定的なアイデア

「差異」というテーマをいつ、どこでどのようにして選んだのかはっきりとは覚えていません。しかしながら、キーボードマガジンに載っていたEPS 16+サンプラーのサンプル用エキサイターかなにかの記事を読んでいたことを覚えています。晴れたある日私は突然の決定的啓示を受けました。翌日になるとまた別のラッキーが起きました。同じ職場のフロアに居た上司のHeamann Gierが出張にでかけたのです。ついに本当の実験用基板で新しいアイデアを製作することができることになりました。

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そこでその差異理論をコンプレッサーのエンベロープに適用してみました。コンプレッサーをひとつではなくて並列でふたつ。それぞれ異なった時定数にしました。つまりそれぞれ異なったアタックタイムを採用したのですが、リリースタイムは同じ設定にしました。そこに差動アンプを追加すると――突然、目と耳から鱗が落ちました――というのも、信号のトランジェントが突然見えるようになったのです。柔らかいトランジェントでは両者のエンベロープは等しく、ほとんど差が出ませんが、速い信号ではそれが認識されVCAに入力されます。

この回路の素晴らしい点は、入力レベルに独立して差異が動作するのでスレッショルドが不要なことです。さらに別の天才的なアイデアも思いつきました。コントロール電圧は正負の両方ありえました。つまりVCAが増幅も減衰もかけられるということです。ならばトランジェントも減衰あるいは増幅できるということです。天才です。

一日で新しい回路を作り上げました。そのあと、わたしが考えたのは、このエンベロープが同じアタックを持ったままに異なるリリースタイムになったらどうかということです。

そういうわけで翌日もまた、うまくやりました。まったくそのとおりの回路を作り上げ、しかもそれは初回のテストでちゃんと動作しました。こうなるとサステインもコントロールできるようになります。たったふたつのツマミでびっくりするようなエフェクトが実現できたので、私は半ば我を失っていました。ニヤニヤが止まりません。

三日目に上司が帰ってきたので、この新しい発明を説明しました。すると彼はすぐに夢中になって、すぐに製品化しようと言いだしました。けれど…

コードネーム: Yellow Kick Man!――終わりなきチューニング

私の発明を気に入った上司は、一刻も早い製品化を望みました。でもはじめの熱中した期間が終わって、ドラムループを使った簡単なテストをしていた私は、なんだか魔法が解けてしまったような気分でした。テストを始めると、最初のビートはループでしたが、だいたい(最初の)バスドラムが大きくて、その後のビートが小さくなってしまったのです。

原因はすぐに分かりました。ループの一泊目は、次のビートよりも差異が大きかったのです。簡単なオシロスコープを手に取り、生成されたエンベロープを観察することにしました。

しっかり観察するには、オシロの時間スケールをゆっくりにして、ただ低い位置に輝く点が画面を横切るだけの設定にしなければなりませんでした。外は明るい太陽の光が地表にふりそそいでいるのに、私は完全に暗くした部屋にこもってこの点がすこしだけ強く光る様子を観察することでコントロール電圧を大まかにつかもうとしました。そうして、いろいろな信号に合うように回路を最適化するのに3ヶ月もかかりました。回路をほんのすこし変えただけで、なんども同じ信号を回路に通してそれぞれの変化とその欠点をチェックしなければなりませんでした。まるでそれは顕微鏡手術のような、あるいはまるでそれは干し草の中からかの有名な針を見つけるような作業でした。

(A pin/needle in a haystack: 望みの薄い捜し物のこと)

複雑さ

簡潔に問題を説明します。普通のコンプレッサーはだいたい5つのコントロール要素があるところが、私の回路はその5倍複雑でした。簡単にいうとそういうことです。いくつもの時定数と内部スレッショルドがあり、それぞれが完璧にマッチしていないといけません。ユーザーに10個のノブを扱わせることも可能ですが、それを2個に減らすことが成功の鍵であり完璧な使いやすさの査証でした。さらに私は、4つのチャンネルを一つのユニットに収めることすら成功しました。それで?

次なる挑戦

全体的なサウンドに私は満足がいっていませんでした。とくにアタックを強くすると、固くて不快な音になってしまうのです。解決のためにVCAの後段にローパスフィルタを入れて、コイルフィルターで失われた高域成分を再び置き換えることにしました。まさにそれで、音ははるかに心地よく柔らかいものになりました。選ばれた聴衆に全体のアイデアを説明するためにプロトタイプを作ったのですが、それはいつもと同じように、自作のエッチング基板に自前でドリルしたものでした。Ronald Pentはこのプロジェクトの初期メンバーの一人です。彼は早い段階から私の新しいアイデアを応援してくれました。こうしてYellow Kick Man、いわゆるTransient Designerが誕生しました。

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なにそれ?コンプレッサー?ノイズゲート?

(1998年に製品化・発表されたTransient Designerが完全に新しいものだったので、誰もそれがなんなのかわからなかったが、とっても注目を集めたので私は気分がとても良かった話、そして製品がすごかったので世界中のスタジオにすぐ広まった話は割愛)

Elysia nvelopeの話

2006年にElysiaを設立して、私好みの新しい機材を自ら開発することにしました。DynaMaxxコンプの開発で十分な経験があったので、また新しいコンプレッサーを開発することにしました。alpha compressorを開発することにしたのです。特別な機能を持ったマスタリングコンプレッサーにしなければなりませんでした。alpha compressorはいまだに我々のフラッグシップ機でありながら、音響の世界におけるモダンクラシックになっています。

それとは別にさらに2012年ごろ、Transient Designerの発展形を思いつきました。これまでの経験、とくにディスクリートA級回路のノウハウ、それらをすべて注ぎ込み、根本的な改善に成功したのです。特にミックスが終わった素材に対しては、オリジナルの回路では期待するほど信頼性のある挙動が得られなかったのです。

トランジェントの検出がかならずしもいつもうまくは行きませんでした。また、生成された増幅成分のばらつきも大きすぎました。そこでまたゼロから回路を開発することにしたのです。

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特別な機能として、アタックの開始周波数と、サステインの最終的な周波数を決められるフィルターを計画しました。基本的なアイデアはシンプルです。トランジェントはだいたい高くて速い周波数に関係していて、楽器の長いリリースはいつも低い周波数に関係しているということなのです。

ふたつのフィルター帯域が大きく重複するかもしれないので、周波数レスポンスがつねに線形的であるような特別なバンドパスを開発しなくてはなりませんでした。私の巧みなディスクリート回路設計とVCA回路設計によって、よりパンチがあってクリーンなサウンドになりました。このマルチバンドコンセプトによって、サウンドデザインがより自然になり、従来のようなノイズゲートらしさは一層薄まりました。

低域に限ったサステインの短縮に関しては特に、はるかにうまくいくようになりました。言うまでもなくオリジナルのTransient Designerと似たような、いわゆるフルレンジモードでも動作できます。

プラグインの話

最初にTransient Designerと同じアイデアをプラグインにしたのはSonnox Transmod。最近はBrainworxもある。でもアナログはアナログです!とのこと。詳細略。

まとめ

Transient Shapingの技術すげー!

Transient Designerもnvelopeも開発したオレすげー!

(訳者注:ほんとすごいと思います)

ラウドネスノーマライゼーションのおかげで、ヘッドルームが空いたのでトランジェントがもっと生きる時代になるから、これからもnvelopeもっとすげー!

でもフェラーリ買えるほどは儲かりませんでした。

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