かぎりなく優しい”死の匂い”

なんという矛盾だろうか。

楽曲のタイトルの「双葉」といえば、芽吹きだし、春だし、生命力である。
であるが、この曲を歌っているのは、死の匂いに包まれた、おそらくは父親である。『双葉』とは固有名詞であるのか、上のメタファーのようなキラキラしい存在ということの表現であるのか。おそらくは「彼」の娘であり、「彼」は、彼女に向けて語りかけている。

「サヨナラが近づいている」

男女の甘酸っぱい別れのようにも取れるが、「君も大人になったら恋をするんだよ」というサビでそれは否定される。「君」は、まだ大人ではない。多分恋を知らない。でも、この歌を歌っている「彼」は恋をしてきた。そして、それは成就した。
「運命の人に出会うまでは傷が絶えないかもだけど」と語れるということは、運命の人との出会いを知っているということだ。

そして、その上で、「彼」は「君」と出会った。
「君」は、泣きべその顔でキスしてくれて、一緒に笑った。

赤ん坊を抱き上げてキスされて、泣かれて、笑っている。父親の姿だ。

「八の字に曲がった君の眉」はまるで赤ん坊の時と一緒だ。
場面は病室なんだろう。「君」は、赤ん坊の時と同じように泣いているんだろう。それを見て「彼」が感じるのは、懐かしさだ。

赤ん坊の頃の「君」に、色々話した。いろんなことを教えた。
「君」はずいぶん大きくなった。でもまだ子供だ。
「大人になったら見つけるその夢を」
「限りなく側で見ていたくても」
「もう叶わないらしいからさ」

でも、忘れないで。「君の夢の中に遊びに行くからね」
「心の傷も酷い言葉も受け止めてあげるぞ」

「悲しみなんかは 気づけば雨になる」

僕がいなくなることは、そんなに大したことじゃない。

「可愛く揺れなよ 『双葉』」
「彼」は「君」の未来を信じている。
きっと、大丈夫。

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