雪山でMVを撮影した話①~やりたいことを実現に近づける思考法
こんにちは。作曲家の櫻木咲子です。
今回は私の制作した二作目のミュージックビデオにまつわるお話を記録として書き残していこうと思います。
まずは映像をご覧ください!
標高2,612mの雪山で撮影しました。撮影参加人数は自分含め3人。撮影と一部編集作業以外はすべて自分で行った、個人プロジェクトです。
こんな映像が作れたらいいな~と思って始めたことでしたが、まさか本当にこんな壮大な映像が作れるとは思っていませんでした。
ここにたどり着くまでに数年間の試行錯誤がありました…。
制作中とか試行錯誤している間のことって、終わってしまったら忘れてしまうんですよね。だから、まだ記憶が残っているうちに細々としたことを書き留めていこうと思います。
いや~、めっちゃ大変だったんですよ。
まず何から書こうかと思いましたが、そもそも制作の手前の、「こういうMVが撮りたい」に至った構想段階の話をしますね。
楽曲と物語の制作
さかのぼること約4年、物語のついた映画音楽のような曲を作りたいな~と思い、「Snow」の制作を始めました。
まあ、これがしんどくて(笑)商業案件なら、「こういう作品に、こういう曲を作ってください」というオーダーがあって、それに合わせて作るのが得意なのですが、何もないところから自分で生み出すというのは苦しいんですね。
時間的な制約もありました。商業制作のお仕事の合間に制作していたので、平日の夜は疲れて別の曲作ろうという気になれず、土日に勝負って感じでした。しかしなかなか進まない。さすがに最低週一日は曲作りは休憩したいので。
私はこの状態を「楽曲制作のサグラダ・ファミリア」と呼んでいました。
しかし、そんなうまいこと言っている場合でもありません。締め切りもない、クライアントもいない、完成できるかわからない曲をずっと修正し続けているというのは精神的にじりじりとダメージを受けていきます。(※自分調べ)
そうこうしているうちに、『鏡の泉』の楽曲とMVのリリースのほうが先になってしまいました。
もうここまで作ってしまった。作ってしまったんだから完成させないと、この曲を成仏させてあげないと・・・そんな気持ちで続けていました。
私はもともと、何もないところから楽曲を作るというより、何らかの物語や映像、ゲームに曲を付けたいという動機で作曲を始めました。なので、今回も物語をつけたいと思い、オリジナルの童話を作りました。作成時には、ヨーロッパを中心にバーバ・ヤーガの逸話などを調べたりしていました。
映像内では英語のテキストとして公開しましたが、以下に物語の日本語版を掲載します。
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昔むかし、ある小さな村にセイラという名前の女の子が住んでいました。
村では3年に一度、長い冬を終わらせるために5才の女の子が山の神様の元へ送られることになっていました。それが村の掟だったのです。
セイラはその「雪の少女」に選ばれました。
ある朝、セイラは衣装を着て、村長の末の息子、モルと結婚の契りを交わしました。セイラの正式な護衛になるためです。
モルと彼の狼犬ロルは山に向かって歩き出しました。
二人は順調に山を登りました。しかし山の中腹まで来た時、吹雪がおこり、視界が真っ白になりました。
モルがセイラの手をしっかりと握ろうとした時、突然、ある考えが頭をよぎりました。
「セイラ、ここから逃げよう。儀式はばかげてるんだ。今走って逃げれば助かるよ」
セイラはうろたえた目でモルを見ました。
しかし次の瞬間、より大きな吹雪が二人の手をほどきました。
嵐が収まったとき、セイラの姿はありませんでした。
ロルは吠えながら嵐の方向を追いかけましたが、セイラは見つかりませんでした。モルは山の頂上を眺めました。大きな後悔とともに。
それから10年の冬が過ぎました・・・。
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物語の続きは構想中でまだ完結させていませんが、続きをちょっとだけ紹介します。
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10年後、村の掟に嫌気がさしたモルは村を捨て、街に出て兵に志願し、ロルと一緒に暮らしていました。ある日、10年続く異常気象を調査するために雪山に赴きます。そこでセイラと再び再会することになるのですが…。
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そもそもこの楽曲は組曲になる想定でした。が、この「Opeing Act」に時間と労力を注ぎすぎてしまった結果、燃え尽きてしまったのですw
でも続きは完成させて、いつか何らかのかたちでお見せできたら~と思っています。
世界観作りという目的でもう一つ作ったものは、造語です。
実は当初、本気で汎用的な造語を作ろうと思ってエクセルで発音の対応表を作っていました。しかし実際にやってみるとこれがすごく難しい。ただ単にランダムに繋げても言葉っぽく聞こえないんです。いくら造語とはいえ、言語を一から作るのはかなり専門的な技術が要りそうだということがわかりました。
この曲に関してはなんとか自分の中で辻褄は合わせたのですが、その後の商業案件ではもっと音重視の作り方に変えています。
映像制作開始・・・?
さて、この世界観を表現するには、やっぱり映像が欲しいなと思いました。絵本のようなかたちにすることも考えましたが、うーん、絵本って感じの楽曲でもないな、しかも私の十八番でもある壮大感は、室内のスタジオ撮影では表現できない…。
ということで、まず思いついたのが、海外のライセンスフリーのサイトで購入(または無料でダウンロード)した動画を繋げることでした。
そこで色々な動画購入サイトを調べると、ヨーロッパの雪山のようなスケールの大きい映像も結構ありそうということがわかりました。ひとまず無料でダウンロードして集めた動画を曲に合わせて繋げてみました。
その時に思ったのは、「あ~これでいいんじゃない?」。
無料でもドローンを使った綺麗な映像が結構あり。こんな感じでいいか、と思いました。しかし引っかかったのが、
・イメージ合う映像は見つかっても、それが本当に権利的に問題のないオリジナル映像かどうか確かめるすべがない
・CCライセンスの動画は他の多くの動画でも使われている
ということでした。なんかそれっぽいものはできる感じはしましたが、上記の二点を自分の中で解決することができず、やはり映像はオリジナルで作ったほうがいいという結論に至りました。
やりたいことを実現に近づける思考法
ここから、自分は本当はどのような作品が作りたいのか? を自問自答していく長い期間がありました。
私がよくやる手順はこうです。
今回の場合を具体的に紹介します。
まず、何もかも一切制限がなければ、どこで映像を撮りたいか?と自分に聞くと、一番に出てきたのが、
「アルプス山脈みたいな壮大なヨーロッパの雪山で撮影したい」
でした。
ここで大事なのが、思いついたアイデアはその場でNGを出さないことです。
まずはヨーロッパの雪山で撮影するということについて、実現できるかどうか、実行したいかどうかを自分に確認しました。
その結果、海外に行かなければならない、そこでMVを撮影しなければならないということの費用面、体力面、不安要素の多さを考えると実行に移そうという気分にまではなれませんでした。
そこで、国内で撮影したいと思う場所がないかどうか探してみました。はい、前回と同様、血眼になってネット調査する日々です。
楽曲のイメージに合う場所の候補は以下のような場所でした。
・雪山
・氷瀑
・スキー場
・星野リゾートの氷の教会
色々見た結果、この中で一番イメージに合う場所は?と考えたとき、雪山が一番という結論にいたりました。そこで、スキー場や山小屋付近など、色々な雪山の写真をネットで漁りました。
しかしどれもイメージとは少し違う…。なんというか、やはりどこも国内っぽい感じなんです。「壮大な、人里離れたヨーロッパの険しい雪山」って感じを出したいのに、なかなかそういう場所がない。妥協することも考えましたが、う~ん、どうしてもここじゃない!という気持ちが強く、調査を続けることにしました。
ついに見つけた、理想の撮影場所
数か月調査し続けた結果、「ミュージックビデオ 雪山」という検索ワードでひっかかった記事が決め手となりました。それは、とあるメジャーバンドが千畳敷カールという場所でミュージックビデオを撮影した、という内容でした。
そのMVを見たとき、
これやーーーーーーーーーー!!!!!!!!
と心の中で叫びました。もう、自分の思い描いていた雪山の映像がそこにあったのです。そもそも登山どころか、スキーもスノボもやったことがないインドア人間の私は、千畳敷カールという場所の存在もそこで初めて知ることになりました。まさか日本にこんなヨーロッパの雪山みたいな場所があるなんて知らなかったんです…!
そう、だから「日本アルプス」と呼ばれているんですね!(←注:知らなかったのはこいつだけです)
しかも、MVを撮った前例がある。まじか、ここで撮れるんだ!ということがわかりました。
わかったのは良いが…。良いアイデアが浮かんだあと、それに抵抗するように色々と不安なアイデアが浮かんできます。ここからは、頭に浮かんでくる様々な抵抗思考を一つずつ解消していく作業が必要となりました。今回浮かんだのは以下のような思考でした。
・この人たちは大手事務所に所属するメジャーアーティストだからできた
・たくさんの権力のあるプロフェッショナル達(?)が集まって作ったんだろう
・何百、何千万円もかかったに違いない
やっとピンとくる場所を見つけたのに、こういう思考が抵抗してくるんですよね。これはお決まりです。で、ちょっと冷静になったんですが、上記の思考、事実なのか?妄想なのか? ということです。そうすると、不安思考の大半は、今まで生きてきた中の知識と経験による憶測(または妄想)であることに気づきます。今回の場合もそうでした。結局見てないし確かめてないからわからんがな、という。
それで、まずは千畳敷カールで撮影をするのにどれくらいの費用がかかるのかを問い合わせてみることにしました。問い合わせるだけなら何もリスクがないじゃないですか。やりたいと思ったこと対して、どれくらいの費用がかかるのか確認もしないで諦めるのは早計と考えました。
そこでお問合せをしたのが、この先しばらくお世話になることになる、中央アルプス観光株式会社さんでした。そして、お返事の内容は希望が持てるものでした。
まず、撮影自体に関しての費用は特に設定されていないことがわかりました。
以前、都内の公園の一部を借りて撮影をしようと考えていた時に、映像撮影の場合3時間6万円などといった料金が設定されていることが多かったんです。(もちろん、場所によって様々ですが)そういう前知識があったため、今回もすごい料金が設定されているものだと思い込んでいました。
でもそれは杞憂でした。これは問い合わせてみて初めてわかったことです。
実際にかかる費用として提示されたのが、運賃としてのロープウェイの料金(荷物量によっては追加料金がかかる)、控室としてお借りするホテル千畳敷さんの利用料金のみでした。
ん・・・これは・・・もしかして自分でも、できるのではないか???
思い描いていたものが実現できそうだと思った瞬間でした。
理想的な撮影場所が見つかり、しかもそこへロープウェイで行くことができ、しかもホテルまであったわけです。
あれ?このパーフェクトな場所の出現は前回もありましたね。(目次「まとめ~クオリティの高いMVを作るには?」参照)
もし妥協してスキー場の一角を借りて~など考えていたら、こんなに素敵な場所には出会えていませんでした。要は、時間がかかっても良いので調査を諦めないことです。
長くなってしまったので今回はここまで!
次回は準備について書いていこうと思います。