再往が妖 三話「これが計画的偶発性?」
〇学校の校門
・洋太と海斗と清羅、一緒にいる
海斗「(しみじみと)今日で卒業か。色々あったけど、洋太がこんなに変わったのが一番の衝撃だよね」
清羅「見た目も性格も他人」
洋太「毎日の鍛錬を通して、自己統制ができるようになっただけだ」
清羅「(からかうように)仙人みたい」
・嗣巳と取巻きA、B、前から来る
・周りの生徒、嗣巳たちを避ける
嗣巳「(馬鹿にして)これは人間もどき君。君はどこの隊へ行くんだ?」
洋太「僕は木櫛隊に行こうと思っている」
嗣巳「ふっ、あの偽善者集団か。ぴったりだな」
洋太「嗣巳君はどこに行くんだ?」
清羅「華麗なるスルースキル」
・嗣巳、罰が悪そうば顔をする
嗣巳「俺はもちろんエリートの飯塚隊だよ。(マウントを取るように)偽善者集団とお前に愛想をつかした風太さんもいるしな」
・洋太、嗣巳の肩に手を置く
洋太「お前は主席だしぴったりだな。お互い頑張ろうな」
・嗣巳、洋太の手をどかしてぐっと一歩後ろに下がる
〇木櫛隊の事務所、廊下
・木櫛と内藤沙奈(木櫛の秘書)、話しながら歩いている
木櫛「(とほほという感じ)今年の隊入志願者は卒業生320人に対して、3人か。それも顔見知りだけ」
沙奈「確か清羅さんと海斗さんとは幼少期からの付き合いで、洋太さんは最初に見つけたのが木櫛隊だったんですよね?」
木櫛「おお、昨日入ったばっかなのによく知ってて偉いな」
沙奈「(照れている様子)前秘書の方が残してくれたこの引き継ぎノートが凄いだけです。でもなんで志願者が少ないのでしょうか?」
木櫛「うちは5年前に新設された部隊で知名度も結果も信頼もないんだよ。(辛そうに)自分で言うのは心苦しいが」
沙奈「軍人はエリート志向の人が多いから、入る意義が見出せないってことか」
・木櫛、胸に手を当て俯く
木櫛「改めて言われると傷つくな」
沙奈「(焦った様子で)あ、すみません」
木櫛「いいんだ。人数は少なくても問題ないしね」
・木櫛、勢いよくドアを開ける
木櫛「ようこそ木櫛隊の入隊試験へ」
○木櫛隊の玄関前、森の中
・洋太、腕立て伏せをしている
・海斗、木の後ろに隠れている
・清羅、胡坐をかいて座っている
木櫛「(呆れた様子で)全員整列」
・三人ともダラダラと並ぶ
木櫛「僕たち木櫛隊はまだできてから間もなく、人数が一番少ない隊だ。それに去年の年間獲得総合ポイント数は全15隊対中15位。新設されてから軒並み最下位だ。それにも関わらず君たちはなぜ、うちへの入隊を志願してくれてるんだ?」
清羅「ご飯が一番うまいって聞いたから」
海斗「姉ちゃんがいるから」
清羅「シスコン」
海斗「(ムッとして)うるさい」
木櫛「正直でよろしいね。洋太は?」
洋太「確かにポイントは低いですが、検挙件数でいうと全15隊中1位。また一人当たりのポイントも1位。これは個の力が強いことが由来していると思います。ここに入れば強くなれる、その確信があります」
木櫛「(ニヤッとして)本心かは知らんが、嬉しいことを言ってくれるな。まずは僕のことを紹介しよう。木櫛一心、隊長で内在している妖怪は大天狗だ。神通力、特に雷系が得意だ。そして短絡的な考え方が嫌いだ。長期的視点、これが私が掲げるモットーだ」
沙奈「あー、だから隊長は骨董品をよく買ってくる癖がある、と書いてあるんですね。そのせいで隊は万年金欠だ、とも」
木櫛「(恥ずかしそうに)そんなことまで。骨董品ってさ将来的には高くなるかもしれないじゃん? そう思うと、現金を持ってるよりお得な気がしてついつい(咳払いをして)……とにかく僕は即戦力は求めていない。長期的に誰よりも強い軍人になる見込みのあるやつを取るつもりだ」
木櫛「早速だが、隊入試験を始める」
・洋太と海斗と清羅、構える
・沙奈、持っている紙を広げて三人に見せる
・紙には、三人で僕に勝てと書いてある
木櫛「今年のお題は”三人で僕に勝て”だ」
海斗「勝て!? 無理でしょ」
清羅「(ムッとしている)強くなくていいって今言ったくせに」
・洋太、じっとしている
木櫛「さあ攻撃をしかけていいぞ。だが攻撃を仕掛けられるたびに僕も反撃する」
海斗「ひい、反撃」
・洋太と清羅(清姫)、妖怪化する
・木櫛、人間の姿
・洋太、連続で体術を仕掛ける
・清羅、木櫛に向かって火を吹く
・木櫛、避ける
・木櫛、手を合わせ天から洋太と清羅に雷を食らわせる
・洋太と清羅、地面に這いつくばる
木櫛「(笑って)最初からフルスロットルだな」
洋太「(驚いて)妖怪化してないで神通力を…」
木櫛「隊長クラスだと簡単な技は妖怪化しなくても出せるよ」
・清羅、怒りながら立ち上がる
清羅「いってーー、おい手加減してないだろ」
木櫛「まだ100分の1も出してないよ」
・洋太、海斗を見ながら立ちあがる
洋太「(淡々と)海斗の能力なら、雷に対抗できるかもしれない」
海斗「そうだよね、僕だよなぁ」
・海斗(海坊主)、妖怪化する
・周りの水が海斗のところに集めってくる
・海斗、滝のような水を木櫛に食らわせる
・木櫛、雷を自身に降らしてその手で海斗を触る
・海斗、吹っ飛んでのたうち回る
海斗「いったーーー」
・洋太、すかさず木櫛に向かって殴りかかる
・木櫛、避ける
・洋太、木櫛の精神世界に入り動きを予測する
洋太「右手で雷での直接攻撃」
・洋太、木櫛の攻撃を避け蹴りを入れる
・木櫛、吹っ飛ぶ
木櫛「ぬらりひょんの能力で僕の精神に入って攻撃パターンを読んだのか。それに加えて磨き上げた体術でさらに攻撃。(笑って)強力だな」
・木櫛、仰向け
・三人全員、仰向け状態の木櫛に向かって仕掛ける
・木櫛、パンと手をたたく
木櫛M『上から落雷』
洋太「上から落雷」
・三人とも避けられず、雷を受ける
・木櫛、倒れている洋太に話しかける
木櫛「反応速度が追い付かないろ?」
洋太「はい」
・三人、連続的に攻撃をするが一発も入れられない
・三人、攻撃をするたび雷を食らう
・三人、床に突っ伏す
海斗「絶対に勝てないよ」
・清羅、足を震わせながら立とうとしている
清羅「まだまだイケる」
海斗「足震えてるよ」
清羅「(怒りながら)武者震い」
洋太「ああ、無理だな。基礎も実戦経験も桁違いだ」
海斗「え?」
洋太「諦めよう」
清羅「おいどうした? いつもだったら、諦めるとは鍛錬が足りていないなとか言うじゃんか」
洋太「そうだな。でも諦める」
・清羅、ほふく前進で洋太に近付く
清羅「(怒って詰める)なんだ、ビビってんのか? 洋太らしくないぞ」
洋太「もう次同じ反撃を受けたら骨を折るだろう。そしたら、半年以上まともに練習できない。だったら、一年みっちり鍛錬を積んで来年また来て、それで勝てばいい。今年は諦めよう」
清羅「なんだそれ、今勝たな」
・清羅、海斗に口をふさがれて耳打ちされる
木櫛「それでどうするの?」
洋太「来年また勝ちに来ます」
・木櫛、ため息をつく
木櫛「合格だ。おめでとう」
沙奈「え!? どういうこと?」
木櫛「僕は長期的視点で見て伸びるやつを取る、といった。強くなるやつには、共通点がある。死なずに最後まで生き残るやつだ。例えば、これが実践だったらどうだろう? もし勝つことに熱くなってもう二度と戦えない位のケガを負ったら? 死んだら? 元も子もないだろう」
沙奈「逃げるのが正解、ということですか?」
木櫛「そうだ、勝てない相手なら逃げれば良い。それですぐに僕を呼べばいい。死んだら全部終わってしまう。君たちは絶対に生き残って確実に強くなるんだ。それでこそ救える命が増える」
木櫛「明日から、入隊を許可するから、ここに荷物持ってこい」
・清羅、その場でジャンプしている
清羅「わーーい」
・海斗、洋太を見ている
海斗「やったね! 洋太」
洋太「(微笑する)ああ」
〇木櫛隊事務所、隊長室
・木櫛、座っている
・沙奈、資料を見ている
沙奈「洋太さん、すごいな。隊長の考えを体現したようなそんな人でしたね」
木櫛「(残念そうに)ああ、僕好みの回答をしてきたんだよね」
沙奈「いいことじゃ」
木櫛「あの回答は試験用っていうか……あの子は誰かを助けるためだったら、勝てない相手にも向かっていくよ。いくら見た目が変わってても芯の部分が簡単に変わることはないし」
沙奈「じゃあなんで入隊を許可したんですか?」
木櫛「試験の本質見極めたうえで、あんな真っ直ぐな洋太が自分を偽ってでも絶対に僕の隊に入ることを優先した。最強の妖人になる、そしてもう一つの目標を達成するためにね。それも立派な長期的視点でしょ」
沙奈「確かに。そのもう一つの目標って?」
木櫛「それは、きっとそのうち分かるさ。それにしてもなかなか通じないもんだよ、僕の想いってのは」
〇同(次の日)
・木櫛、椅子に座っている
・沙奈、木櫛の隣で立っている
・三人ともその前で立っている
木櫛「さあ、初任務を言い渡す」
・海斗、ニヤニヤしている
清羅「任務? 楽しみ!」
洋太「喜ぶのもいいが冷静に」
・清羅、洋太にツンツンする
清羅「そんなこと言ったって誰より嬉しいくせに」
・洋太、黙り込む
・木櫛、一人ずつに紙を配る
木櫛「開いていいぞ」
・三人、開く
・紙には「任務 人間と高校生活を楽しめ」と書いてある
・清羅と海斗、ゲッという顔をする
・洋太、真顔を保っている
木櫛「妖人には高校はないからね。青春することは、人生にも強くなるためにも大事なことだからな。分かってると思うが、妖人とか軍人とかもちろんバレちゃダメだからな。(ニコッと)全力で遂行しろよ」