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「勇者は僕の世界から帰れない」第1話

レデ「僕さ、実は異世界から来たんだ」

俺の唯一の親友が、妙なことを言い出した。高校生になったというのに、そいつは周回遅れの中二病に侵されてしまったようだ。俺は思わず飲んでいたコーラを噴き出して、大爆笑した。レデはそんな俺の様子を見て、すぐに機嫌の悪そうな顔になった。中二病だ、異世界転生もののラノベの見過ぎだ、と揶揄う俺にレデはさらに機嫌を損ね、拗ねてしまった。そんな様子を見て俺は、いつもは真面目なレデがそんな話をするに至った経緯を聞いてみることにした。レデによると、異世界であるこっちの世界にある目的を達成するために、幼いながらに1人で来たという。しかし、レデはもう目的は達成できなくなってしまい、帰ることに決めたという。そもそも、レデは親がいなく、学校にも行っておらず、公園でいつもブランコに乗っていた。それに知らないことがあまりにも多かった。会ったときから、心の中ではずっとおかしいと思っていたが、聞けずにいた。しかしその理由が異世界から来たからだ、とすれば、妙に納得をしてしまった。
レデ「玲陽、今日が本当に最後なんだ。今までありがとう。楽しかったよ。」
そう言ったレデの顔を見ると、ぎこちない笑顔の中に切なさを感じた。これは嘘ではない、いやでもその事実を認識させられた。嫌だな、そう思った。もっとも俺の人生は、クソだ。小さいときから、親はどっかをほっつき歩いてまともに家に帰ってきやしない。学校に行ったら行ったで、教師という名の仮面の表にはかわいそう、その裏にはめんどくさい、と書いてあるのが嫌でも透けて見える。まともな教育も受けてないから、まともな話し方とか、友達の作り方もわかんなかった。俺の唯一の繋がりはレデだった。そんなこいつもいなくなる。俺には、何もなくなるんだな、そう思った。最後に、こいつのことを、唯一の親友のことをしっかり知りたいと思った。
玲陽「なあ、お前の世界に連れてってくれよ。」
レデは俺の気持ちを察したのか、しばらく黙り込んだ。そして言った。
レデ「…わかったよ。1日だけね。」

レデは、俺に目を閉じ、許可するまで決して目を開けないように指示し、肩に手を置いた。目を閉じて10分ほど経った頃に、やばい、頭が破裂する、そう思い、倒れ込み、のたうち回っていた。1分ほどすると痛みは引き、レデに目を開けるよう言われた。すると、さっきのアパートの一室ではない、知らない景色が広がっていた。夢のような、淡いピンクの森のような、海のようなものだった。まるで小さい頃に夢の中で冒険したことがあるような、そんなところだった。レデは色々なところに連れて行ってくれた。小さい頃の遊び場や市場など。豆を煮て潰したようなスープを飲んでみたが、結構美味しかった。どの場所も俺がいた世界よりも古く、あまり発展してないようだった。唯一、貧しい人たちが街にたくさんいて、可哀想だと思ったが、それ以外は俺には心地良い場所だった。

日も暮れて来た頃、レデは村の片隅にある小屋に連れてきてくれた。レデは今まで知らなかった過去について話してくれた。親はいなくて、村のみんなが自分を育てくれたこと、この村が大好きなこと。
玲陽「じゃあなんで、そんな好きな村を離れて俺の世界に来たんだ?」
レデ「なんでだっけかな。」
レデは笑って誤魔化した。答えるつもりはないのだろう。最後まで全部を知ることはできないことが悲しかったが、言いたくないことなのだろう。しょうがない。
レデ「玲陽、もう帰る時間だ。」
玲陽「もうちょっと、こっちにいちゃだめか?」
レデ「だめだよ。あまりこっちに長くいると、元の世界に戻れなくなるから。残念だけど。」
玲陽「俺は元に戻れなくても、別にいいよ。こっちにずっといたい。」
レデ「何を言ってるんだ?約束したろ?1日だけだって。僕は、君と最後にちゃんと向き合いたくて連れ来ただけだ。こっちにずっとは居させない!」
玲陽「でも!」
レデ「だめだ!」
玲陽「じゃあ、じゃあ、俺はどうやってこれから生きていけばいいんだよ」
もう心が苦しかった。そんなときに外から人の叫び声が聞こえた。レデは俺に家にいるように言ってから、外の様子を見に飛び出した。その間もずっと叫び声、燃えるような音、爆発音が聞こえていた。俺は、怖くなっていた。しばらくするとレデが帰って来た。レデは今まで見たことのないような覚悟を決めた顔をしていた。
レデ「今から玲陽を元の世界に返す。じっとしててくれ。」
すごい剣幕でいうレデに俺は戸惑っていた。そして、レデの手が俺の肩に触るとレデの体は光り始めた。必死に俺にパワーを送ってるようだった。こっちに来る時もレデはこうやっていたんだろう。外の様子は大丈夫か、それにこんな形で帰りたくないことをレデに言い続けたが、レデは何も答えずに、俺を世界に返すことに集中していた。多分3分くらいした頃に外から、
「レデ、逃げろ」
と言う声と共に叫び声が聞こえた。レデは苦しそうな顔をしながら、動かずにずっと俺の肩に触れていた。俺の聴覚が曖昧になり始めた。何が起こっているのか聞こえなくなった。それがさらに俺の不安を煽った。また少しすると、視覚がボヤッとし始めた。見えづらくなる視界の中で、レデの表情がだんだん歪んでいくのが分かった。大丈夫か?そう言おうとした次の瞬間、レデは俺の肩から手を離し、へそに触れた。俺は少し吹っ飛んだ。視覚と聴覚がボヤッとした中、恐怖の中、俺はレデを探して叫んだ。少しすると、目の前が鮮明になり始めた。少しずつ綺麗になっていく視界の中で、俺は信じたくない景色が広がっていることに徐々に気付かされた。レデは血だらけで地面に横たわっていた。叫びながら、駆け寄った。レデは何か言ってるようだったが、聴覚はいまだボヤけたままで聞こえなかった。俺はレデの名前を必死に叫び続けた。

レデ「…めん、こんなつもりじゃなかったんだ。」
徐々に聞こえ始めた。
レデ「最後に正直になりたかっただけなのに、なんでこんなことに。ごめん、ごめんな、玲陽、もう元の世界に戻してやれない。ごめん」

レデは泣いていた。
玲陽「もうしゃべるな!大丈夫だから!俺が助けてやるから!!」
レデ「…最期にお願いがある。僕の言葉をみんなに伝えてくれ。"勇者なんていなかった、ごめん。"」
玲陽「最期なんて言うなよ!」
レデ「玲陽、君は誰かに心から愛されて、愛して、朗らかで暖かい、幸せな人生を生きるんだ。君は世界を救うような勇者になんかならなくていい。君は、救われてくれ。ああ、本当にありがとう。僕の大事な親友。」

レデはそう言い、俺のお腹に手を当て、ゆっくりと目を閉じた。


これは、俺が世界を救う勇者になるまでの話だ。

#週刊少年マガジン原作大賞

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