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【無料試し読み版】最重要機密事項

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ワケあり男装ヒロインが、名門金持ち学院で援助者を探す物語。※試し読み版です。
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#小説

第13話 女のままだったら

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「悠様。お着替えは終わりましたか?」
「あ、はい」

小笠原さんは目隠しに使っているネクタイを外すと、クローゼットの中から黒のダブルジャケットとグレーベストを取り出す。

「本日は準礼装での登校です」
「あっ、準礼装…」

そうだ、ここは金持ち学校。一般の高校とは違う。

「悠様は面白いですね」

私は苦笑いを浮かべながら、目を前に向けた。そこには全身鏡に映った自分の姿がある。

グレースト

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第12話 優雅で賑やかな朝

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「おはようございます、悠様」
「…?」

ぼやける視界の中に写るのは、イケメンの柔らかい笑顔。

「…はっ!お手伝いしなきゃ!」

ガバッと起き上がれば、見慣れない景色が目の前に広がる。状況を飲み込むのに数秒。

横には、柔らかく微笑んでいるイケメン執事−小笠原さんが立っていた。

「…おはようございます」

そうだ、私はいま金持ちたちが通うルミエール学院にいる。

窓を開ければ、フワッと爽

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第11話 執事が付きっきり

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「…はい?同室?」
「はい。気が付きませんでしたか?この部屋は、2人部屋となっております」

小笠原さんが作ってくれた夕食を済ませ、入浴も終え、これから寝ようとベッドに入った時。

「では、私はあちらの部屋におりますので。何かあればお呼びください」

と、爆弾発言を投下した。

「物置部屋か何かだと思ってた…」

枕にボフンと顔を埋める私。

「いえ、物置部屋でしたよ。悠様のご入浴中に片付け

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第10話 吉凶担う専属執事

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「いっ、いつから…?」

あまりにも早すぎる。編入した初日から、なぜ…?

おずおずと聞く私に対して、小笠原さんは端正な顔立ちをぐっと近付けた。その隙に、強く掴まれる私の両手首。

「最初から、かもしれませんね」

キスできそうなくらい、顔の距離が近い。

「悠様。なぜこのような真似を?」

自分の顔が赤くなる。手を覆い隠したくても、小笠原さんに両手首を掴まれているせいでできない。そして、こ

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第9話 嘘つきは何とやら

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「ふっ」

私の背後から聞こえてきた小さな笑い声。私含めた全員が、笑い声の主に目を向けた。

「…何がおもろいん?小笠原サン」

制服のポケットに手を突っ込んで、小笠原さんを睨むように見る沢渡晃介。

「いえ。失礼いたしました。
ただ…私はすごい人にお仕えしているんだ、と思うと嬉しくて」

小笠原さんはちょっと上機嫌に言葉を返すと、静かに目を伏せた。
その瞬間、始業のチャイムがタイミング良く

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第8話 最重要機密事項!

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「ではアフタヌーンティーが終わりましたら、また校舎本館へ戻りましょう」
「校舎本館に…ですか?」

クラスメイトたちの質問責めが怖い。
だって私は、ただの一般庶民で。それも多額の借金を抱えている。それに、女。この事実をあの人たちに知られたら…。

「(でも…今ここで退学させられるわけにはいかない)」

ーそう。これは、私の中の最重要機密事項。

一般庶民だと知られないこと。
多額の借金がある

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第7話 午後は紅茶と菓子

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「では、アフタヌーンティーをお作りいたします」
「あっ!…は、はい。お願いします…」

小笠原さんは、そう言いながら私を部屋の中へ促す。

近くにあった椅子に腰掛け、バルコニーの方へ目を向ける。眼下に見える花畑とそよ風が心地良い。目の前を雲が流れた。

「(そういえば…)」

こんなにのんびりした時間を過ごしたのはいつぶりだろう。

脳裏を蘇るのは、仕事で忙しそうにしている両親の姿。こんな風

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第6話 荷ほどきは1人で

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ステラ寮の部屋に足を踏み入れる。部屋の中は白とナチュラルウッドを基調とした部屋になっていて、とても過ごしやすそうだった。

白い革張りのソファーとガラスでできたローテーブル。ランプ付きの勉強机に、ベッドは使ったこともないキングサイズ。そして大きなタンスが置かれていた。

「(とりあえず…下着類はタンスの奥にしまおう。
衛生用品は…鍵付きの引き出しの中で良いか!)」

小笠原さんが来る前に、見

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第5話 階級制の寮で生活

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「悠様、どうかされました?」

横から小笠原さんに顔を覗き込まれる。驚きのあまり、思わず大きく肩が上がってしまった。

「いっ、いや。ただ、ここの学院はすっごく大きいんだなーと思いまして」

小笠原さんの顔から、もう一度阿久津涼がいた場所へ目を戻す。そこには、もう誰も立っていなかった。

「では、階級制の寮の説明をさせていただきますね」
「へ?階級制?」

階級制の寮って何?全寮制とは聞いて

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第4話 私に向けられる目

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「違う…って何が?」
「金持ちっぽくないって言うてんの。
お前、何者なん?桜庭グループなんて、聞いたことも見たこともないんやけど」
「そうだなあ。どんな事業してるんだよ」
「僕も気になるー!どんな会社なの?」

気が付けば、沢渡晃介に加えて滝島草汰と福澤淳平がいる。福澤淳平に関しては単なる好奇心だと思うけど、それ以外の2人は疑心暗鬼の目を向けてくる。

「そ、れは…」

チラリと小笠原さんに

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第3話 ハイレベル過ぎる

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「(…はぁ…)」

サイドテーブルに肘をつき、ぼんやりと前を見る。きっちりとスーツを身に付けた教師が教室に入って来た。

「悠様。授業が始まります」

小笠原さんに促され、姿勢を正した直後に鳴り響く始業の音。ペンを手に持ち、私は授業に集中した。



「(あー…あっっったまいったい…)」

長かった授業が終わり、昼食の時間。さすが、次世代の金持ちを育てるルミエール学院。授業内容がハイレベル

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第2話 金持ちが勢ぞろい

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「初めまして、桜庭悠と申します。
以後、お見知りおきを」

だだっ広い教室の中。長い脚を組んで座っている男子生徒が、私に目を向ける。今いる生徒は全員で5人。

有名指揮者の父とプロピアニストを母に持つ、沢渡晃介(さわたり こうすけ)。
大手オーガニック化粧品メーカー企業の御曹司、滝島草汰(たきじま そうた)。
ゲーム開発会社の代表取締役、阿久津涼(あくつ りょう)。
ダンスチームをプロデュー

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第1話 ルミエール学院へ

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由緒ある名門校−私立ルミエール学院。そこは、日本中の金持ちたちが入学する全寮制の一貫校だった。

「…うわー、すごい場違い感」

大きくそびえ立つ塀と黒い門。そこからちらりと覗くのは、やけに大きい校舎。白を基調とした校舎は、太陽に照らされてキラキラと輝いている。

何故一般庶民の私がここにいるのか。一言でまとめると、借金完済のため。

私の家は、もともと小さな雑貨屋を営んでいた。生活は苦しい

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