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桜月
2018年5月13日 15:01
.「悠様。お着替えは終わりましたか?」「あ、はい」小笠原さんは目隠しに使っているネクタイを外すと、クローゼットの中から黒のダブルジャケットとグレーベストを取り出す。「本日は準礼装での登校です」「あっ、準礼装…」そうだ、ここは金持ち学校。一般の高校とは違う。「悠様は面白いですね」私は苦笑いを浮かべながら、目を前に向けた。そこには全身鏡に映った自分の姿がある。グレースト
2018年5月13日 14:55
.「おはようございます、悠様」「…?」ぼやける視界の中に写るのは、イケメンの柔らかい笑顔。「…はっ!お手伝いしなきゃ!」ガバッと起き上がれば、見慣れない景色が目の前に広がる。状況を飲み込むのに数秒。横には、柔らかく微笑んでいるイケメン執事−小笠原さんが立っていた。「…おはようございます」そうだ、私はいま金持ちたちが通うルミエール学院にいる。窓を開ければ、フワッと爽
2018年5月13日 14:52
.「…はい?同室?」「はい。気が付きませんでしたか?この部屋は、2人部屋となっております」小笠原さんが作ってくれた夕食を済ませ、入浴も終え、これから寝ようとベッドに入った時。「では、私はあちらの部屋におりますので。何かあればお呼びください」と、爆弾発言を投下した。「物置部屋か何かだと思ってた…」枕にボフンと顔を埋める私。「いえ、物置部屋でしたよ。悠様のご入浴中に片付け
2018年5月13日 14:44
.「いっ、いつから…?」あまりにも早すぎる。編入した初日から、なぜ…?おずおずと聞く私に対して、小笠原さんは端正な顔立ちをぐっと近付けた。その隙に、強く掴まれる私の両手首。「最初から、かもしれませんね」キスできそうなくらい、顔の距離が近い。「悠様。なぜこのような真似を?」自分の顔が赤くなる。手を覆い隠したくても、小笠原さんに両手首を掴まれているせいでできない。そして、こ
2018年5月13日 14:33
.「ふっ」私の背後から聞こえてきた小さな笑い声。私含めた全員が、笑い声の主に目を向けた。「…何がおもろいん?小笠原サン」制服のポケットに手を突っ込んで、小笠原さんを睨むように見る沢渡晃介。「いえ。失礼いたしました。ただ…私はすごい人にお仕えしているんだ、と思うと嬉しくて」小笠原さんはちょっと上機嫌に言葉を返すと、静かに目を伏せた。その瞬間、始業のチャイムがタイミング良く
2018年5月13日 14:21
.「ではアフタヌーンティーが終わりましたら、また校舎本館へ戻りましょう」「校舎本館に…ですか?」クラスメイトたちの質問責めが怖い。だって私は、ただの一般庶民で。それも多額の借金を抱えている。それに、女。この事実をあの人たちに知られたら…。「(でも…今ここで退学させられるわけにはいかない)」ーそう。これは、私の中の最重要機密事項。一般庶民だと知られないこと。多額の借金がある
2018年5月13日 14:05
.「では、アフタヌーンティーをお作りいたします」「あっ!…は、はい。お願いします…」小笠原さんは、そう言いながら私を部屋の中へ促す。近くにあった椅子に腰掛け、バルコニーの方へ目を向ける。眼下に見える花畑とそよ風が心地良い。目の前を雲が流れた。「(そういえば…)」こんなにのんびりした時間を過ごしたのはいつぶりだろう。脳裏を蘇るのは、仕事で忙しそうにしている両親の姿。こんな風
2018年5月12日 01:25
.ステラ寮の部屋に足を踏み入れる。部屋の中は白とナチュラルウッドを基調とした部屋になっていて、とても過ごしやすそうだった。白い革張りのソファーとガラスでできたローテーブル。ランプ付きの勉強机に、ベッドは使ったこともないキングサイズ。そして大きなタンスが置かれていた。「(とりあえず…下着類はタンスの奥にしまおう。衛生用品は…鍵付きの引き出しの中で良いか!)」小笠原さんが来る前に、見
2018年5月12日 01:17
.「悠様、どうかされました?」横から小笠原さんに顔を覗き込まれる。驚きのあまり、思わず大きく肩が上がってしまった。「いっ、いや。ただ、ここの学院はすっごく大きいんだなーと思いまして」小笠原さんの顔から、もう一度阿久津涼がいた場所へ目を戻す。そこには、もう誰も立っていなかった。「では、階級制の寮の説明をさせていただきますね」「へ?階級制?」階級制の寮って何?全寮制とは聞いて
2018年5月12日 01:05
.「違う…って何が?」「金持ちっぽくないって言うてんの。お前、何者なん?桜庭グループなんて、聞いたことも見たこともないんやけど」「そうだなあ。どんな事業してるんだよ」「僕も気になるー!どんな会社なの?」気が付けば、沢渡晃介に加えて滝島草汰と福澤淳平がいる。福澤淳平に関しては単なる好奇心だと思うけど、それ以外の2人は疑心暗鬼の目を向けてくる。「そ、れは…」チラリと小笠原さんに
2018年5月12日 01:00
.「(…はぁ…)」サイドテーブルに肘をつき、ぼんやりと前を見る。きっちりとスーツを身に付けた教師が教室に入って来た。「悠様。授業が始まります」小笠原さんに促され、姿勢を正した直後に鳴り響く始業の音。ペンを手に持ち、私は授業に集中した。*「(あー…あっっったまいったい…)」長かった授業が終わり、昼食の時間。さすが、次世代の金持ちを育てるルミエール学院。授業内容がハイレベル
2018年5月12日 00:55
.「初めまして、桜庭悠と申します。以後、お見知りおきを」だだっ広い教室の中。長い脚を組んで座っている男子生徒が、私に目を向ける。今いる生徒は全員で5人。有名指揮者の父とプロピアニストを母に持つ、沢渡晃介(さわたり こうすけ)。大手オーガニック化粧品メーカー企業の御曹司、滝島草汰(たきじま そうた)。ゲーム開発会社の代表取締役、阿久津涼(あくつ りょう)。ダンスチームをプロデュー
2018年5月12日 00:29
.由緒ある名門校−私立ルミエール学院。そこは、日本中の金持ちたちが入学する全寮制の一貫校だった。「…うわー、すごい場違い感」大きくそびえ立つ塀と黒い門。そこからちらりと覗くのは、やけに大きい校舎。白を基調とした校舎は、太陽に照らされてキラキラと輝いている。何故一般庶民の私がここにいるのか。一言でまとめると、借金完済のため。私の家は、もともと小さな雑貨屋を営んでいた。生活は苦しい