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ショートショート31:熊殺しのアダムとマッチ売りの少女

「──マッチ、マッチはいりませんか?」

 凍えるように寒い年末の夜。しんしんと雪が降り積もる、薄汚れた街の一角に幼い少女が立っていた。

 彼女は錆びた鉄の門の前で、髪の毛の先を凍らせながら、通行人に向かってか細い声で呼びかける。

「マッチはいりませんか?冬の夜にピッタリの、熱い熱いマッチは、いりませんか?」

 すると少女の方へ向かって歩いてくる2人組の男がいた。見るからにゴロツキの、屈強な男たちだった。

 向かって右側の男が尋ねた。

「嬢ちゃん、マッチを売っているって本当か?」

「はい。上等なマッチがたくさんあります」

「そうかい。相手は?」

「百人狩りのジェイコブ。半年前に刑務所を脱走した生粋の殺人狂で、自分よりも強い相手だけを狙って殺しました。対戦成績は四戦四勝」

「面白い。兄貴、どうだい?」

 話を振られ、左側の男は「面白そうじゃねえか」と口角を釣り上げた。右側の男はそれを見てうなずき、親指で左側の男を差しながら少女に言った。

「こっちは俺の兄貴のアダム。熊殺しのアダム。10のころから地元の森で人喰い熊を素手で殺してきた、最強の男さ。相手として申し分ないだろう?」

 男の言葉に少女はゆっくりと頷いた。

「では、こちらへ」

 彼女は背後にある鉄扉を押し開け、中に男たちをいざなった。

 熱気と歓声、怒号、鈍い音の応酬。

 裏の格闘技の世界。

 この夜、裏格闘技の歴史が1つ大きな転換点を迎えた。

 そして最高の“マッチメイカー”が生まれた日でもある。

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