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ショートショート96:大怪盗の置き手紙

『明日の午前0時きっかりに、あなたのお宝を奪いに参上いたします

怪盗・石川キッド3世』

 ある大富豪の家に稀代の大怪盗から予告状が届いた。

 大怪盗が狙っているのはその大富豪が自宅にコレクションした世界各国の美術品たち。総額100億円にも及ぶそれらは大富豪の人生そのものだった。

 大富豪はすぐさま親しい警察幹部と警備会社の経営者に連絡を取り、私人宅に対するものとしては異例の体制で来る明朝0時に備えた。

「コレクションルームに通じる扉は俺達がいるこれしかない」

 大富豪はともにコレクションルームの扉の前で、ともに寝ずの番をすることを頼んだ親友の警視総監を見て言った。

 警視総監はいかめしい顔で頷き、

「豪邸には敷地内には100人を巡回させている」

「敷地の外にお警備会社の優秀なガードマンが200人。この家に至る全ての道は封鎖している。地上も、空も」

「コレクションルームには窓もないし、床は頑丈なコンクリートだ。この扉以外に侵入経路はない」

「そして扉の鍵は俺の持っている鍵でしか開かない」

 大富豪は懐から紐にくくられたカードキーを取り出し、警視総監に見せた。

「万全の警備体制だ」

「ああ」

 警視総監は頷き、言った。

「万全の警備体制だ。俺が相手じゃなければな」

 大富豪は親友だと思っていた男の不可解な言葉に一瞬固まり、そしてどこからともなく甘い香りが漂ってきたのをきっかけに、その言葉の真意に気がついた。

「……まさかっ!」

「お前の本当の親友は今頃家で寝てるだろうさ」

 警視総監は顎のあたりに指を引っ掛けると、勢いよく顔に被っていたマスクを剥がした。その下に現れたのは警視総監とはかけ離れた白皙の美青年の顔。

「お前が」

「そう。俺が石川ルパン三世さ」

 大怪盗の巧みな変装を見抜けなかった大富豪は、甘い匂いに誘われるようにゆったりと眠りの世界に落ちていった。

 翌朝。

 大富豪は何者かに揺すられて起きた。

「……はっ!」

「朝です、ご主人」

 起こしてきたのは敷地内を巡回しているはずの警察官の一人だった。

「何事もありませんでしたよ。怪しいやつはとうとう現れませんでした。ところで警視総監殿はどこへ?」

 脳天気な警官の声に、ぼんやりとしていた昨夜の記憶が蘇ってくる。警視総監だと思っていた男は、実は怪盗・石川キッド3世の変装だった。彼に眠らされ、そして──。

 大富豪は警官を押しのけるようにして立ち上がると、首から下げていたカードキーを使ってコレクションルームへ通じる扉を開けた。

 しかし中のコレクションは1つ残らず無事だった。

 どういうことだ。

 大富豪は予想外の事態に呆然と立ち止まる。昨日のは夢だったのだろうか。すると一緒に入ってきた警察官が部屋の真ん中に置き手紙を見つけた。

 置き手紙にはこう書いてあった。

「大富豪さんへ。
 いいニュースと悪いニュースがある。
 いいニュースは俺はあんたのコレクションを盗むのは止めたってこと。
 悪いニュースはあんたのコレクションが全部偽物だったってことだ」


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