ショートショート63:欠点のないスパイの欠点
エージェントXは一流のスパイである。
頭脳、肉体、精神、すべての項目で彼の右に出る者はいない。
どんな組織に潜入しても確実に信頼を勝ち取り、中枢と関係を持つことができる。
ただし1つだけ欠点があった。
「Xは今の任務についてどれくらいになる」
上司は秘書に尋ねた。秘書はすばやくタブレット端末を操作して調べる。
「今日で149日です。昨夜上がってきた最新の報告によれば、あと1週間の内に幹部から情報抜けるとのことです」
「そうか。しかし残念だがXには撤退の命令を出してくれ」
「……どうしてです?」
あと1週間なのに、と秘書は呟いた。
「Xは優秀だ。非常に優秀だ。だからこそここで撤退させなければならない」
上司は神妙な顔で告げた。
「あいつは潜入がうますぎるあまり、次第に自分が『最初からその組織の人間だった』と誤認し始めるのだ。その境が潜入から150日なのだよ」
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?