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ショートショート94:サンタの正体

 クリスマスも間近に迫った12月のある日のこと。

 田中くんがいきなり僕の机の方にやってきて言った。

「山元、サンタさんの正体って知ってるか?」

「……サンタさんの正体?」

 僕は首を傾げて問い返す。

「サンタさんはサンタさんじゃないの?」

 すると田中くんは一緒にいた上田くんたちと一緒に口元を抑えてぷぷーっと含み笑いをした。

「山元、もう高学年なんだからさ? いつまでも夢見るのはやめようぜ?」

「どういうこと?」

「サンタさんが実在するわけないじゃん?」

「え?」

「あんな変な格好で、人の家の中に忍び込むなんて、ありえないだろ。どう考えてもフシンシャだよフシンシャ」

「え、でも」

 じゃあ誰が、と僕は小さく声に出して言う。

 すると田中くんは「決まってるだろ」とため息混じりに、

「親だよ、親」

「ち、違うよ!」

 僕は動転して食い気味に否定した。そんなわけない。そんなはずない。

「違くないよ。サンタの正体はお前の親なんだよ、山元」

「なんで、そんな……違う、絶対に違うから。ありえないから」

「サンタが実在するほうがありえないだろ」

「僕のお父さんとお母さんは絶対にサンタじゃないから」

「じゃあ今日家に帰ったら聞いてみ? 『サンタの正体ってお父さんとお母さんでしょ?』って。そしたら絶対困った顔するから。困った顔したらもう、それはクロだぜクロ」

 笑いながら自分の席に戻っていく田中くんたちを見ながら僕は「絶対に違う。ありえない」と呟いた。

 その日の放課後、家に帰った僕はガレージで仕事道具の手入れをしていた両親を捕まえて言った。

「クラスの田中くんがサンタの正体が僕のお父さんとお母さんだって言ってたんだけど」

「ほう?」

「なんでうちがサンタ業やってるってバレてるの!?秘密じゃなかったの!?」

 両親はふくよかな顔で互いを見合い、それから「ホッホッホー」と笑った。

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