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ショートショート69:下へ参ります

 朝寝坊をした。
 最低限の身だしなみを整えて、パンを焼かずに口に突っ込んで、古い学園ドラマみたいな格好でマンションの部屋を飛び出した。

 エレベーターはちょうど同じ階の住人を載せて一階に向かうところだった。一分一秒を争う状況に置かれている僕は、必死に生食パンを咀嚼しながら、エレベーターの「▽」ボタンを連打した。

 押した回数だけ早く来るというものではないが、押し続ければ早く来るよ
うな気がする。

「早くしろよこのポンコツエレベーター!大事な会議があんだよ!朝イチで!」

 連打したおかげか怒鳴ったおかげか、ほどなくしてエレベーターが戻ってきた。幸いにして僕より上の階には行かないらしい。僕はドアが開くなり乗り込んで、1階のボタンを押して閉じるボタンをまた連打する。

 スマホで今の時間を確認する。全力で走ればまだ電車には間に合う。僕はすぐに飛び出せるようにエレベーターの箱の中で足踏みを始める。

 しかしエレベーターは1階で止まらずそのまま降りていく。
 おかしい、このマンションは1階までしかないはずなのに。

 エレベーターは真っ暗な中を下へ下へと降り続けている。
 

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