見出し画像

ショートショート91:ある日空から美少女が

 休日にふらりと出かけた街の片隅に、小さな神社を見つけた。
 
 長い石段を登った丘の中腹。赤い鳥居が見えたので興味本位で登ってみれば、無数の御札べたべたと貼られた社があった。朽ちかけた緒と錆びかけた大鈴。年季の入った賽銭箱。古めかしさが逆にご利益のありそうな雰囲気を醸し出している。

 社の横には木の看板が立っており、半分溶けかけた字で説明書きがされている。

「万能の社。これを見つけたあなたは超ラッキー。どんな願いも即日叶います」

 社の雰囲気とはかけ離れたカジュアルな文体にくすりとしつつ、俺は飲みの場のネタにと思って適当に願ってみることにした。叶えば良し、叶わなくても良し。

「空から美少女が降ってきますように」

 彼女いない歴イコール年齢。弱い26歳。童貞。男だらけの職場に出会いはなく、その環の外に出会いを求めるほどの気概もない。合コンやマッチングアプリは軽い感じがして嫌だ。空から美少女が降ってくるでもしなければ、きっと自分には一生彼女ができない。

 頭上を見る。雲もまばらな夏色の空。

「ははっ、降ってくるわけねーか」

 一人小さく笑った瞬間、背後で鈍い音がした。ごんっ。

 振り返るった先の土の地面に、派手な髪色をした高校生くらいの女の子が倒れていた。

「あいたた〜〜っ!」

 頭を抑えてうずくまり、涙目でこちらを見上げてくる。

「え?」

「え?」

「もしかして落ちてきた?」

「はい、あの、落ちてきました」

 女の子は痛みを我慢しながら言う。

 俺はいきなりのことに開いた口が塞がらない。
 そう思っているとまた音がした。
 すぐ近くにまた女の子が落ちてきた。今度は別の女の子だった。

 それを皮切りにあちこちからどんっ、どんっ、と鈍い音が響き始めた。

 俺は石段の上から町を見下ろした。
 そこかしこに空から美少女が降り注いでいた。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?