熊啄木鳥
6年間だけ住んでいた丘がある。
そこは、町から坂を登りきったところにあり、町の由来となった樹が街路樹として、随分と間を空けて並んでいた。
小さな小学校には、わたしたちの学年は7人しかおらず、その丘にはわたしと同い歳の男の子と、ふたりしかいなかった。
わたしたちは毎日一緒に学校に行き、毎日一緒に帰ってきた。
浄水場の横にある川への寄り道も、小さな動物の足跡を見つけにいくことも、わたしたちはいつも一緒だった。
雨が降り親たちが迎えに来る中、わたしたちは傘を持たずにふたりで走った。
吹雪の時ははぐれないように手をつないで、道を確かめながらふたりで帰った。
わたしたちには、迎えに来る親はいなかった。
両親とも働いていたし、ふたり一緒なら平気だった。
お互いの家で宿題をやりながら、川のこと、うさぎのこと、近所の蛇神様の怖い話、大人になったらしたいこと、たくさん話をした。
わたしたちが少し大きくなった冬に、猛吹雪の中帰ってきたわたしたちは、いつものように濡れた服をストーブにあてて乾かしながら、ソファの上で一緒の毛布にくるまって寝てしまった。
次の日から、わたしたちは一緒に学校に行くことも、一緒に学校から帰ることも、お互いの家で一緒に宿題をすることも、親たちに禁じられた。
その丘にはわたしたちしかいないのに、帰り道は不自然に離れて歩いているのが、不本意でつまらなかった。
でも、大人たちの言うことを知り始めてしまったわたしたちは、話すことも出来なくなった。
そうやって次の年の冬、わたしの家は引越しをすることになった。
高校進学を考え、隣の市の中学校へ通わせるためらしかった。
クラスで先生が伝えるのを、彼はまっすぐこっちを向いて聞いていた。
わたしは彼の目が哀しくて苦しくて、ずっと下を向いていた。
下を向いたまま数日過ごしていたある朝、窓ガラスに何かがぶつかる音で目がさめた。
部屋の中はいつもと違う白い明るさで、雪が降ったのだと知った。
ぶつかった音が気になってカーテンを開けてみると、窓の向こうに彼が立っていた。
条件反射のごとく、パジャマの上にジャンバーを羽織り、それでも階段は音をさせないように細心の注意を払い降り、もどかしく玄関の鍵を開けて飛び出した。
「キツツキがいる。クマゲラ」
彼が指差した先には、向こうの森の手前の木をコツコツとしている、赤い頭の鳥がいた。
白い雪の中に、黒と赤のコントラストが綺麗だと思った。
「見える」
「うん」
「引っ越すの」
「うん」
「いつ」
「27日」
凛とした白い静寂の中、わたしたちは長い時間一緒にクマゲラを見ていた。
神様が切り取った、わたしたちが子供でいられる、最後の時間だった。
クマゲラはアイヌ語でチプタ・チカップ。船を掘る鳥。
道を示す神様だと、随分と大人になってから知った。