中学聖日記③ 〜中学生に手を出した話〜

最終日。
授業自体は何事もなく、スムーズに終わりました。強いて言うなら、舜からの視線を常に感じ、「勉強しろ」というジェスチャーを何回も送ったということ。

舜の机には私からの付箋が広がり、周りからは「咲桜先生だいすきすぎ〜」と、最早驚かれてもいませんでした。

そして閉会式が迫ってきた頃、私は逆に付箋を生徒に書いてもらおう!と閃きました。
なにかひとことメッセージ書いて〜と、関わった生徒全員に付箋を渡しました。

もちろん舜にもです。

帰り際、生徒が続々と私に付箋を渡しにきました。「先生の教え方とってもわかりやすかったです」「いつか、先生に合格報告をしたいです」など、嬉しい言葉の数々に私の幸福度はすでに飽和状態。
付箋はネームホルダーの中に大切にしまっておきました。

肝心の舜からの付箋はまだきません。
何を書こうか迷っているのでしょうか。

ですが暫くして、私のもとにやってきて
付箋を渡してきました。そこには

4日間本当にありがとうございました。

という言葉のみが書かれていました。
なんだよ、それだけか。
私は少し拗ねて、付箋をネームホルダーにしまおうとしました。

ん?
裏に何か文字が見えました。

そこには、赤いペンで

大好きです。

と書かれていました。なんて粋な子だ…と、うるっときてしまいました。
それだけではありませんでした。
舜は私に、スヌーピー柄のお手紙をくれたのです。おそらく昨晩、家で私のことをたくさん考えて書いてくれたものでしょう。

私は「ありがとう」とだけ返し、その手紙を大切に鞄にしまいました。

閉会式が終わり、帰宅時間になりました。
生徒が「やっと帰れる〜」などと解放感を漏らしながら続々と帰宅していきます。
そんな中、帰りたくなさそうに暗い顔をしている少年がひとり。

「ほら、帰るよ」
私は彼をエレベーターまで誘導しました。

「大好きです、本当に大好きです」

私への愛を叫ぶ声が背後から聞こえました。
私はあえて返事をしませんでした。
彼は、私がどんなに無視をしようとずっと「大好きです」と言い続けました。

そして舜を含む最後の生徒数名がエレベーターに乗り込み、私は「お疲れ様、気をつけて帰ってね。」と言い、エレベーターの扉が閉まるのを見届けました。
最後の舜の表情、それはもう愛おしさの体現とでもいいましょうか。涙ぐんだ、でも幸せそうな笑顔。
エレベーターの扉が完全に閉まった瞬間、私の目からは大粒の涙が溢れてしまいました。

何の涙?
4日間がんばったー疲れたーの涙?
生徒たちにもう会えない、の寂しさの涙?
その涙にあらゆる名前をつけようとしました。

急いでお手洗いに駆け込み、涙がバレないように化粧を直しました。
何泣いてるんだ。馬鹿じゃないの。
そう気を改め、私は講師ルームに戻るのでした。

席につき、私は舜からの手紙を手に取りました。帰ってから読もうと思っていたけれど、この気持ちが冷めないうちに読んでしまいたい。そう思いました。


咲桜先生へ
まずはこの4日間、本当にありがとうございました。受験生として、本当に有意義な4日間になりました。

ここからが本題です(笑)
たった4日間でも、僕にとっては忘れられない4日間になりました。授業中にもらう付箋を見るのは本当に幸せでした。

咲桜先生に出会えてよかったです。
言葉じゃ伝えられないくらい好きです。
大好きです。
またいつか会えるのを楽しみにしています。
本当にありがとうございました。
僕にとって最高の先生です!


私はその手紙を読んだ瞬間、
舜が未成年であることを恨みました。自分が20歳であることを後悔しました。
歳の差って大人になれば大したことないのに、なんで若いうちは大きな壁になってしまうのでしょう。

でも、舜の気持ちが続く限り、愛してもらおう。そう思いました。
私は愛せないけど。
私には、彼氏がいたのです。(後に三股されることになります)
どう見ても都合の良い女でしたが、もうそんなのどうでもよかった。舜が愛おしくて仕方なかったのです。
舜には、彼氏がいることを伝えていました。
「やっぱりね」と言われましたが、「でも大丈夫」と、前向きな言葉をくれていました。

その夜、舜からLINEがきました。
「分かれて電車に乗りながら、大泣きしました。一緒にいた友人にものすごく心配された」
と、かわいいメッセージ。

ここまで私との出逢いに、そして別れに
涙を流してくれる人が今までいたでしょうか。
いや、これからもいないでしょう。
だからますます、舜という存在が大きく膨らんでいったのです。


続く🐰


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?