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錆びれた街に「地獄」と呼ばれる 工場があった。 その工場はあまりに大きく 曇りの日には頭が雲で隠れた。 いつもどすん、どすんという 鈍い音が響き渡り 煙は勢いよく空へ上った。 その工場の周りには高い塀があり 中の様子を近くで見ることができない。 唯一、塀からはみ出た建物の頭上部分を 遠くから眺めるだけだった。 工場は昼夜動いていたが、 人が出入りするところを 一度も見たことがない。 建物の周りを今にも朽ちそうな 細い階段がぐるりと巡っていたが、 その階段を上る者も
そこは不気味な世界だった。 生温い風が吹いていて、その中には少しかび臭い匂いが含まれている。 風が通るときの音はまるで誰かの呻き声のようだ。 広い空間が広がっているその足元には、四角く整えられた黒い大理石が敷き詰められている。 崩れかけたブロンズの像を一つ、また一つと過ぎていくと、遠くからピアノの音が聞こえてきた。 ヴィーナスを彷彿とさせる女性がピアノを弾いている。 彼女は白い絹のドレスを一枚まとっているだけだった。 僕が近づいてくるのがわかったのか、隣に座ると
天使は、木枯しの森で初めて悪魔を見ました。 枯れ葉が舞う その森には小さな噴水があり、 悪魔はその水を飲んでいたのです。 それぞれの務めは大きく異なりますから、 天使と悪魔が接触することはほとんどありません。 接触が禁じられていたわけではないものの、 住む世界が違う天使と悪魔はお互いの存在を 認め尊重し合いつつも、 交わる必要がなかったのです。 初めて見る悪魔の羽は優雅に大きく、 静かにも圧倒的な存在感を放っていました。 これまで悪魔の存在にあまり意識を向けることが
もう人間が住まなくなったその星に、 一人の天使が降り立ちました。 緑で生い茂った森に入ると、 そこには小さな池があります。 人間たちが愛の言葉でささやき合い、 一生を共にすることを誓った場所です。 天使は池のそばに腰かけると、 人間たちの言葉を真似して言いました。 「好きだよ。」 「愛しているよ。」 「僕と結婚してください。」と。 真似して言っては頬が赤くなりましたが、 天使は続けてこう言いました。 「はい、お願いします。」と。 池の水は冷たくて、白い天使の
山にのぼったんだよ。 そしたらね、月が大きく出ていたんだ。 あの月は、僕がそこにいることを知っているような風だった。 じーっと僕のことを見ているんだ。 「やっと来たのか。久しぶりじゃないか。」 と言わんばかりにね。 僕はそこで腰を下ろしてみたよ。 大きな月がそこにあるんだ。 そこを通り過ぎるわけにはいかないだろう。 ぼーっとその月を見ていたらね、少しずつ声が聞こえてきたんだ。 あれは多分、月の声だと思うよ。 「僕のことをじっと見ているのは今、君だけだよ」